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79話 政府と魔物と少女

 日本に帰った美月達は魔物の計画が進められている事を知る。

 それに対し、綾乃は反論をするが……。

 司令官である父は当然何も答えられない。

 彼は魔物の事を知っているようだが……果たしてそれはどういう事だろうか?

 そして、このままイービル支部は解散となってしまうのだろうか?

「父さん、まさかその実験に……?」


 綾乃は驚いた表情を浮かべ、父へと尋ねます。

 しかし、彼は首を横に振りました。


「私ではない、友人だ……だが、彼はその惨状を見て自分のやった事に責任を感じこの世にはもう居ない」

「…………え?」


 美月はてっきり仕事を辞めたというと思っていたのですが、彼の言葉に呆けた声を出しました。


「彼は自ら命を絶ったんだ……」

「ちょ、ちょっと待ってよ!? その人は人の為に……」


 犠牲を減らすために研究をしたんでしょ! 綾乃はそう言おうとして、それはそこに居た二人にも分かりました。

 ですが――。


「彼の実験と今回の発表、何も関連が無いと考えるか? 綾乃」


 司は自身の娘に問います。


「もしかして……その人、研究の情報を狙われてたとかですか?」


 そして、その問いに美月が答えると彼は頷いてくれました。


「そうだ、研究日誌などの情報を始めすべて廃棄した彼は仕事を辞め暮らそうとしていた。だが……唯一残る情報に政府は目を付けたんだ」

「研究者だった本人なら情報を持ってる……そりゃ分けるけど、自殺までする? 普通……」


 信じられないと言った風に綾乃は言葉を紡ぎました。

 ですが、司は――。


「自白剤や他の拷問、彼は自分が情報を口にしない自信が無かった。だから、物言わぬ死体となって情報を閉じたんだ」

「でも……」


 今回のニュースでは実験をしたと言っていました。

 そんな事をすぐにすることは不可能です。

 ましてや、情報が無ければ以前の二の舞になってしまう……それ位は分かるでしょう。


「あぶない、ですよね? そのまた同じ事が起きたら」


 美月はその事を口にすると、司も大きく頷き肯定します。


「ああ、だから……実験が成功したというのは嘘かもしれない」

「嘘?」


 何を言っているのだろうか? 美月が首を傾げると――。


「まさか、これから実験をするって事!? それも発表しておいて、皆に認めさせてからお金を集めるとか!?」

「恐らくは実験はしているだろう、だが……まだ実践投入が出来るレベルではないはずだ。しかし、これ認められれば更なる実験のためと言って金を集めることが出来る」


 綾乃の言葉に頷いた司は肯定しつつ溜息をつくのでした。


「あ、あの……じゃぁ私も?」


 摘出手術を受ける羽目になるのか? 美月は不安でたまりませんでした。

 寄生手術より摘出の方が難しいのです。

 成功例も多くありません……その理由は実に簡単なものです。

 ミュータントを寄生させたものは著しく体力の低下がみられます。

 生活には困らない程度ではありますが、若者でも走ったりすればすぐに息切れをしてしまいます。

 そして、なによりその寿命も短くなるという話もありました。


 勿論摘出し、身体を鍛えれば元に戻る……なんて話もありましたが……。

 実際に体力が戻ったなんて人の事は聞いた覚えがありません。

 それどころか、摘出手術は危険だから、寄生の際は後悔しないようにと何度も確認をされるぐらいです。

 そんな危険な手術を自分も受けなければならないのか?

 美月は震える声で尋ねました。


「あ、あの……私は――いや、です……でも、受けないと……いけないんですか?」


 以前の様なか細い声は不安と恐怖を感じさせ、彼女の目には涙が溜まっていきます。


「……政府がやると決めたら君も犠牲になる可能性が高い」

「ちょっと! 美月が怖がってるじゃん! 父さんなんとかしてよ!」


 そうは言ってももうすでに決まってしまってる事です。

 簡単に覆すことはできないでしょう。

 ですが――。


「次の天使の襲撃に合わせ、彼らも生体兵器を送ってくるはずだ」

「……は?」


 綾乃は思わず首を傾げました。


「だが、恐らくロクな実験もしていないものだろう、暴走する可能性は高い」

「ちょ、ちょっと待ってよ!? そんな危険なもの戦場に送り込んでどうするの!?」


 綾乃は焦りますが……司は冷静に言葉を続けました。


「勿論住民の避難を優先させるはずだ。だが、魔物が暴走すれば誰かが抑えなければならない」


 そこまで言うと彼は美月達二人に視線を向けます。


「夜空君、まずは君の謹慎を撤回する……君は自由だ」

「え?」


 予想外の事に美月は驚きます。

 何故この話の流れで自分に課せられた罰が解かれるのだろうと考えたのです。


「あ、あの何でですか?」

「君への罰則は実はドイツのエーベルト家にも伝わっていてね、正当防衛そして、事件後の対処を考慮して欲しいとの事だった。元より今回の謹慎は他の者に文句を言わせないための対策だ」


 彼はそう言うと美月の方へと優しい瞳を向けます。


「それに現状、君の力が必要だ。戦闘行為には支障はないとしても行動を制限させるのは得策ではない」


 恐らくその生態兵器の暴走と言うのを司は恐れているのでしょう、今度は綾乃へと目を向けます。


「そして綾乃……二人にはその暴走した生体兵器と天使の討伐を頼みたい」

「ぼ、暴走しなかったらどうするんですか?」


 美月が訪ねると司は笑いました。


「心配しないでも、必ず暴走する。ミュータントと言うのはそう言うものなんだ」


 彼はそう言うと、椅子へと座り。


「君達魔法使いは守る、この星の為に必要な人達だからね」


 その言葉は何処か安心出来る物で……ですが、同時に不安も感じるのでした。

 何故なら、相手は政府で当然支部は上の言葉に逆らうのは難しいでしょう。

 その政府が魔法使いで実験をする。

 そう言ったら、どうなるか? 恐らくほどんどの者は賛成するでしょう。

 誰もが綾乃達の様ではありません。

 寧ろ、美月が怪我をさせてしまったあの二人のような人の方が多いのですから……。

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