71話 護送任務に就く少女
迷いに迷って日本に辿り着いたドイツの少女リーゼロッテ。
彼女を無事本国に送るのが美月達の任務となった。
だが、問題は日本を守るイービルが手薄になってしまう事。
それに対し、司令官である司はもうすでに中国……マナ・イービル斉天大聖の悪魔乗りリンチュンへと依頼を出していたのだった。
「それじゃ、気を付けて行って来いよ」
「分りました」
そう答えた少女は今ハッチを開けたままコクピットの中へと入っていました。
これからシステムのチェックをし、ドイツへと向けて出発をする事になっています。
「大丈夫かな」
通信から聞こえてくるのは綾乃の声です。
支部の判断で突然それも勝手にドイツへと帰国させたとなったら政府が何かを言って来るのは当然です。
「き、きっと大丈夫だよ」
ですが、美月はそう言いました。
理由は簡単な物でしたが、それでも大丈夫だと信じたかったのです。
「どうして?」
聞き返して来た綾乃に対し美月は答えます。
「だって、綾乃ちゃんのお父さんだから」
「………………その父さんのお蔭で、今こんな事になってるんだけど?」
元々は無茶な作戦を押し通した彼のせいだ。
綾乃はそう言っていますが、美月はくすりと笑い。
「もし、本当に駄目だって思ったら綾乃ちゃん、乗ってないよね?」
それは任務とイービル療法と言う意味で美月は綾乃へと問います。
すると綾乃は――。
「いや、美月が心配だからついて行くだけだけど?」
「っ!?」
さらりと言われた言葉に美月は思わず顔を赤く染めます。
不意打ちだったというのもありますが、もし彼女は男性だったら、間違いなく美月は好きだと伝えたいと思ったでしょう。
思うだけで伝えられる自信は彼女にありませんでしたが……。
「美月?」
いえ、性別など最早関係ないのかもしれません。
美月は自身の心臓を押さえ、悶えます。
「ぁぅ……」
そして、声にならない声を上げると……。
「ちょ!? 大丈夫!?」
「だ、だだだいじょーぶ」
何とか返事を返しました。
すると――。
「仲が良いんですね」
可愛らしい声が通信に割り込んできました。
リーゼロッテの声です。
美月達はハッとし――。
「ご、ごめんなさい」
「ごめん、護衛なのにおしゃべりしてちゃ駄目だよね」
としゅんと落ち込みました。
するとリーゼロッテは――。
「いえ、気にしないでください、聞いてて楽しかったです」
と言ってくれました。
ですが、正直気持ちがたるんでいたと言われればそうです。
美月は自分は心が弱いというのを十分知っていました。
だからこそ、気を引き締めなくっちゃいけないと考えなおし……。
「が、がんばります」
と宣言をすると――。
「いや、頑張るのは良いけど無茶はしちゃ駄目だよ?」
と綾乃に釘を刺されるのでした。
美月自身は無茶をした覚えはないのですが、それでも我を失ってそんな事になるかもしれないと考えた彼女は頷きながら答えました。
「うん、分かったよ綾乃ちゃん」
そんな会話も終わり、美月達が準備を進め発進をしようとした時です。
外が騒がしい事に気が付いた美月はカメラをそちらへと向けました、
するとそこに映ったのは……。
「よ、吉沢さん!?」
何時の間にそこに居たのでしょう、技術班に道を塞がれている吉沢の姿がありました。
彼女は何かを騒いでいる様子で……。
「綾乃ちゃん……」
美月は暫く会っていなかった事から安堵していたのですが、突然の事に恐怖を感じました。
すると綾乃は――。
「だ、大丈夫、あたし達イービルに乗ってるし!」
そんな事を口にします。
すると吉沢は指を真っ直ぐに向け――叫びました。
それは美月達にも聞こえるものだったのです。
「妖精に私だけ会えないってどういう事!?」
「「…………………………」」
どうやらリーゼロッテの事を言っている様ですが、彼女が怒っている理由はリーゼロッテに会えなかったからだそうです。
「そう言えば、父さんがここ数日吉沢さんに別の仕事を与えるとか言ってたような」
それはリーゼロッテを守る為だったのか、それともただの偶然か分りませんでしたが、綾乃と美月は前者だと思い込みました。
いえ、寧ろそうでないとあの人からは離れられる事は無いでしょう。
きっとこの頃美月が会わなかったのも、司令官が気を使ってくれたんだと彼女は考え……。
「その、早く……」
「そうだね、リーゼロッテさん行こう!」
美月達は出発をしようとしていたのですが、肝心のリーゼロッテの声が聞こえません。
「リーゼロッテさん?」
綾乃が彼女の名前を繰り返すと……。
「よーせーってフェー……フェアリーの事ですよね?」
「そ、そうだね」
美月は彼女の言葉にそう答えます。
するとリーゼロッテはヤーとだけ口にし……その後ハッチが開く音が聞こえました。
「ちょ!?」
綾乃は驚き、思わず声を上げ、美月も彼女の方へとカメラを向けます。
どうやら、ハッチだけ開き吉沢に手を振っている様です。
「……ああ、父さん出会っちゃったよ……」
頭を抱えているであろう綾乃と予想外の行動に固まる美月。
そんな彼女達の事は知らないであろうリーゼロッテは……。
「恥ずかしいけど本国でも良く言われてました、もっときれいな人一杯いるのに……」
「そ、そうなんだ……」
美月は彼女みたいに妖精と言う言葉が似合う人はそうそういないと考えるのでした。




