70話 少女を守る少女
リーゼロッテの事は早速ニュースになっていた。
だが、司の対処は大して意味をなさず。
不安がる彼女に美月達は大丈夫だと告げる。
彼女は嬉しかったらしく抱き着いて来たのだが……。
美月は綾乃が抱きつかれているのを見て面白くない、と感じるのだった。
リーゼロッテが日本支部に来てから数日。
政府は彼女の身柄を渡すようにと告げてきたようです。
そして、美月達も司令官の部屋へと呼ばれていました。
「…………それで、どうするの?」
綾乃は父である司……この施設の司令官へと尋ねます。
「どうするも方針は変えれないな」
「変えれないってどういうことですか?」
美月も彼に問うと彼は頷き答えてくれた。
「彼女、リーゼロッテは此方で保護する。その理由は君達にはまだ知らされていないが、ある計画があるからともいえる」
「計画?」
一体なんの事でしょうか? 美月は首を傾げます。
すると彼は重々しく口を開きました。
「ミュータント計画……」
「ミュータント? ミュータントって寄生虫の?」
それは美月達に植え付けられた寄生虫の名前です。
ですが、それが計画とはどういう事でしょうか?
「要するにミュータントによって人は魔法を使えるようになった……だが、他の生物は? それはまだ分かっていない」
「なにそれ? 普通はネズミとかそういったので実験するんじゃないの? それで安全か分かったら人での実験でしょ?」
綾乃はもっともな疑問をぶつけますが、その答えはミュータントを寄生させた美月達は知っていました。
「最初の魔法使い……」
そう、最初の魔法使いと呼ばれる者……そのお陰で人に寄生させることが出来ると分かったのです。
「え?」
「最初の魔法使いは手術をしてなかった、いつの間にかミュータントに寄生されていて、魔法を使えるようになっていたんですよね?」
「私も聞きました、手術を受ける時に……」
二人の言葉に司は頷く……何ともおかしい話ですが、最初の魔法使いは人工的ではなく、自然に寄生されたのです。
「ちょ、ちょっと待ってなんでそんな重要な事、美月達以外は知らないの!?」
「簡単だ、その魔法使いもその当時の事を何も覚えてないからだ……そして、彼は行方不明だったにもかかわらず帰って来た……それを世間に言えばどうなる? 魔法使いのお蔭で成り立っている部分もある。不利益だろう?」
司はそう言うと一息をつき、言葉を続けます。
「だが、このミュータント計画は動物に寄生させ、そして対天使用生物兵器を作るのが目的だ……その為、人間の適合者を解析したいという事だ」
「解析……って、なんか嫌な言葉だね」
綾乃は心の底から嫌だと思ったのでしょう、その顔を歪めました。
すると司もまた頷き。
「そう、嫌な言葉だ……恐らくは解析や実験だけではなく不運な事故によって死んだ魔法使いを解剖するつもりだろう」
彼の言葉は美月達を震わせました。
その不運な事故と言う言葉には偶然と言うのが感じられなかったからです。
「つまり、私達を殺すって事ですか?」
「……表向きは違う、だが……裏では何をするか分からない……ましてや君達を敵視する者は居る」
「……最低だね、でもなんでそんな計画をいきなり?」
美月は綾乃の言葉に頷き、司を見ます。
「イービルでの戦闘結果、各国の物を集めても良い結果とはいえない、なら次の手をと考えているのだろう……分かりやすく、また面倒な話だよ」
彼はそう言うと溜息をつき……。
「だから、リーゼロッテ君、まだ受け渡しを要求されていないが夜空君をこの施設で保護する」
「そうは言うけどどうやって? 身柄を渡せって言われてるんでしょ? ドイツの人いつ来るの!? 早く来ればリーゼロッテさんにそっちに行ってもらえるけど、この施設内じゃ政府に逆らうのは――」
日本、ドイツへの反逆行為と言っても良い、綾乃は言葉を飲み込みましたが、そう取られても良いでしょう。
「流石に反逆とはいかないだろう」
ですが、司はそう言うと更に会話を続けます。
「計画が計画だからね、それにこちらもちゃんと理由がある……イービルに関しては何も言われていないし、悪魔乗りである彼女をそう簡単に渡すことはできない」
彼はそう言うとリーゼロッテへと目を向けました。
「それで、その……私達はなんで呼ばれたんですか?」
美月が問うと、司は頷き答えてくれました。
「これからドイツに連絡を取る、君達二人はリーゼロッテ君の護衛をし、あちらへと護送してくれないか?」
「はぁ!?」
それに対し素っ頓狂な声を出したのは綾乃です。
彼女は司へと詰め寄ると――
「ちょ、ちょっと父さん正気!? だって私達二人のイービルしかないんだよ!?」
「正気だ、それにイービルならコピスの修理が済んだ所だ」
そうは言いますが、綾乃は納得できないようです。
当然でしょう……美月が乗るジャンヌダルクは当然として、綾乃が乗るナルカミも専用機。
しかし、今話に出てきたコピスはただの量産型。
悪魔乗りの腕は確かですが、その機体の性能差は歴然としています。
「天使がせめて来たらどうするの!?」
「何も考えていない訳じゃない、すでに中国にも救援依頼は飛ばしてるよ」
それを聞き、ピクリと反応を見せたのは美月です。
「中国、リンちゃん?」
「ああ、そうだ……彼女は用事で帰っていたが、快く引き受けてくれたそうだ」
笑みを浮かべる司。
彼の言葉に美月はほっとしました。
ですが、綾乃は――。
「確かに斉天大聖なら……強いけどさ、それでも……」
「なら綾乃は彼女が非人徳的な実験にあわされるかもしれないと知って、放って置くのかい?」
司の問いに綾乃は首を振ります。
「でも、そんなことする? 一応――」
「彼女は一応侵入者だ……それに対する罰だと言えば、向こうも納得せざるを得ない」
そう、彼女は客人ではなく、侵入者。
確かにそれであれば罰することは出来ます。
そして、その立場を利用することは美月達にも納得できました。
「だからこそ、早く彼女をドイツに帰してあげないといけないんだ」
司はそう言うと美月へと目を向けてきました。
「やってくれるね」
優しい声で……ですが、それには拒否できない力がある様でした。




