68話 リーゼロッテ・エーベルトという少女
消えた天使の所へと向かう美月達。
そこで見たのは驚きの光景だった。
天使たちの残骸が転がるそこには見た事も無いイービルが居たのだ。
リーゼロッテ・エーベルトと名乗る女性が乗るマナ・イービルの名はパラケラスス。
彼女は訓練中に迷いに迷って日本に来てしまったと言い。
美月達は彼女を連れ支部へと戻るのだった。
美月がただいまと言うと二人は優しい笑みを浮かべました。
ですが、すぐに綾乃ではないもう一人の女性へと目を向け……。
「所で……」
「そのお嬢さんは?」
美月達の傍に居るのは透き通るような銀髪、青い瞳を持つ女性。
傷つきやすそうな白い肌を持つ彼女は決して病弱と言う印象はなく……可愛らしい妖精と言った方が良いかもしれません。
「初めまして、リーゼロッテ・エーベルトと言います」
やはり丁寧な礼をした彼女はまるで貴族の様でした。
「は、初めまして……」
顔を赤くした新谷はリーゼロッテに釘づけです。
それを見た美月は面白く感じなかったのだろう頬を膨らませました。
「やれやれ、新谷は鈍い……」
伊逹は呆れたようにそう言うとリーゼロッテに目を向けました。
「それで、そのリーゼロッテのお嬢ちゃんはなんでこんな所に?」
「迷ったんだってさ……多分申請もしてないから連れてきた」
綾乃の言葉にさらに呆れた様子の伊逹は苦笑いをしながら口にします。
「申請してないってそりゃまずいだろ」
他国侵入と言われて当然です。
「早く司令官の所に行け」
伊逹はそう促し、美月達は頷くと司令官である司の部屋へと向かいます。
その背を見送りながら、伊逹は後ろにあるリーゼロッテのイービルへと目を向けました。
「ドイルのイービルか……あの武装、見た事無いな」
彼の血がうずいたのでしょう、調べたくてたまらないという表情でしたが、そこは大人。
自身の感情を抑え新谷の方へと向きます。
彼はどうやらリーゼロッテを目で追っていた様でいまだに扉の方へと目を向けていました。
「おい! 新谷仕事だ仕事!!」
「へ!? あ……そうだった、すぐにオペレータールームに言ってくる」
「ああ、あいつら一切仕事してないからな……」
二人は険しい表情を浮かべてそう口にしました。
そう、今回美月達が出撃してからオペレーターは一切口を開いていません。
ですが伊逹達も見ていたのです。
突然天使が消えたのを……それだというのに彼らは何も伝えませんでした。
もし、何かがあったのなら伝えるのが彼らの仕事のはずだというのに……。
「そういや今回からオペレーター変わったのか?」
「いや、そんな話は聞いてないが」
二人は疑問を思い浮かべながら考え込みましたが、やはりオペレーターの変更などは聞いていないのです。
「なら……あれは誰だ?」
新谷はそう言うと扉へと向かって歩き始めたのでした。
美月達は指令室へと辿り着くとその中へと入ります。
すると、困った様子の司が美月達を迎え入れてくれました。
彼はリーゼロッテへと目を向け……。
「エーベルト家のご息女だったね、よく迷子になると聞いてはいたが、まさか国にまで迷い込んでくるとは……」
「はじめまして!」
妖精の様な笑みを浮かべた少女に対し頭を抱える司。
すると彼の娘である綾乃は一歩前へと出て問いました。
「とうさ……司令官はこの人を知ってるの?」
「知ってるも何もドイツの貴族だ……君達が出撃する数時間前に迷子になったと言う噂が流れていたが……日本に居るとは」
美月と綾乃はぴしりと固まってしまいました。
確かに物腰は貴族を思わせるものでした。
ですが、まさか本当に貴族だと誰が思うでしょうか?
いえ、美しさは貴族と言われても納得できるほどではありましたが……。
「リ、リーゼロッテさんは貴族?」
「ちょ、ちょっと待ってじゃぁエーベルト家って……まさか、あの……」
綾乃がわなわなとしながら司令官へと尋ねた家名。
それは美月もどこかで聞き覚えのある名でした。
寧ろ、何故気が付かなかったのか? と二人は自分自身に問います。
「ああ、日本でも使われている武器を開発している会社エーベルト……そのご息女だ」
そう、エーベルトとはイービルの武器開発を主している会社。
昔は軍事兵器の開発だったということですが、今はどうやら違うみたいです。
ですが、どちらにしても貴族は貴族。
それも大貴族です。
本人はそんな事を気にしても居ないのでしょう非情に可愛らしい笑みを浮かべていました。
「……この子が武器の会社の?」
とても信じられない、美月はそう思いました。
彼女だけではありません、誰もが武器とは無縁と思うでしょう。
「と、とにかくさ! この子どうするの? 連絡してないんじゃ……不法侵入だよ!?」
「……分かっている、だが我々日本人の危機を助けてくれたのも彼女だ」
司はそう言うと彼女へと目を向けた。
「君は新たな武器を搭載したイービルを日本に運んできた、どういう訳か連絡が遅れていて君は気づかなかったというのはどうだろうか?」
「えっと?」
突然言われた事にリーゼロッテは首を傾げた。
彼女の反応は当然だ。
いきなり国に侵入してきたのにそれを咎めないというのだから。
「その……良いのですか?」
「恩人に対する礼儀だ……君のお父さんには連絡をすぐに取ろう、その代わりと言っては何だがその武器を見せてもらっても良いだろうか? 勿論許可を得てからだけどね」
司はそういうと笑みを浮かべたのだった。




