60話 注意される少女
綾乃への想いに困惑し、悶える少女美月。
彼女の想いは翌日も焦る事は無かった。
しかし、目の前から来た女性二人の声を聞き美月は途端に嫌な気分へと変わった。
逃げる術もなくすれ違おうとした瞬間彼女は危害を加えられ……。
無意識の内に魔法を使ってしまう。
焦り治したのだが、彼女はその一人に殺されかける……。
そんな時、新谷が現れ……彼女を助けてくれたのだった。
「それでこの化け物が!!」
全てと言うには全然足りないのですが説明をした女性。
その横で事が起きなかった事にホッとしている様子の女性が一人。
そして、美月が居ます。
新谷は美月へと目を向け真意を確かめている様です。
彼女が言った事は突然魔法を使われて殺されかけた。
その後、自分の身を守る為に殺そうとしたっという事でした。
美月は慌てて首を振ります。
「ち、違います、突然殴られて……酷い事されると思って……気がついたら魔法を使ってて」
美月の言葉に眉を動かす新谷。
そんな彼を見て美月はびくりと怯えます。
「はぁ……」
ですが、新谷は溜息をつくだけでそれ以上何も言う様子はなく……。
「つまり、夜空ちゃんを刺激して反撃にあった。夜空ちゃんは無意識のうちに魔法を使った」
その後の事はもう予想が付いたのでしょう。
もし、怖くなって逃げているのであれば美月は殺されかけておらず、二人もここで倒れている事でしょう。
美月が慌てて治療をした所を想像した新谷は――。
「施設内で攻撃性のある魔法を使うのは禁止事項だ」
美月に告げました。
美月は地面へと目を向けがっくりと項垂れます。
「そうだよね! その化け物はやく処分してよ!! 気色悪い! 気味が悪い!!」
女性は自分達が悪くないという事を主張するかのように叫びます。
ですが、新谷はそちらへと向くと……。
「差別的な発言、それに他者への暴力、自己判断による処罰……君達も規則は十分過ぎる程に破っている」
「「は、はぁ!?」」
納得いかないのでしょう、二人は素っ頓狂な声を出しました。
そして――。
「たかだか悪魔乗り風情が何を言ってるの! あんたにそんな事を言える権利が無いでしょ!!」
「確かに、これらの規則を破った事に対し、僕が処罰を命じる事は出来ない……だけど、報告は出来るし、命に係わる場合なら立ち会った際に多少の武力行使は許されている」
淡々としゃべる彼に対し、こめかみをぴくぴくとさせた女性は叫びます。
「女の子に暴力を振るうつもり、サイッテー!!」
「だから多少、って言ってるじゃないか、何も傷がついたりするほど強引にやる訳じゃない」
呆れた様な態度をとる彼は美月の手を取り……。
「さて、それじゃ参考人として夜空ちゃんは連れて行く……君達の処遇は後で伝えるよ」
「あ、あの!?」
美月は手を引かれるまま立ち上がり、歩き始めたのだが新谷に何か言おうとしました。
ですが新谷は……。
「今回の事は僕では庇護しきれない、行くよ」
「…………」
こっそりと告げられた言葉に美月は大人しくついて行く事にしました。
新谷に連れられて美月は歩いていました。
頭の中でぐるぐると回るのは化け物と言う言葉。
勿論、今回の件は美月が悪いという事は分かっていました。
それでも……美月だけが悪いのか? と問われれば彼女自身それは違う、と言いたかったのです。
「……夜空ちゃん」
そんな考え事をしている中、新谷に声をかけられた美月は顔をあげます。
すると新谷は足を止め、美月一緒に足を止めました。
「なんで魔法を使ったんだい?」
「それは……分からない、です……気がついたら……」
正直に答えた美月ですが、新谷は深刻そうな顔をしていました。
「怖かったのかい? 例えば天使と戦う時のように」
「……え?」
天使と戦うと言われ、美月は呆けた声を返します。
そして、先程の事を思い出してみました。
「…………」
シュミレーターで襲われた時、怖いという感情はありました。
そして、先程腕を伸ばされた時……それも恐怖を感じました。
違う場面、同じ人か、敵である天使か……。
それでも美月は……。
「怖かった、怖かったです……」
と今度も一度正直に答えます。
すると新谷は……。
「そうか、そうだよね」
と言ってくれました。
ですが、すぐに美月に告げます。
「でも、魔法はまずかった。無意識でも、まずかったんだ」
「…………はい」
それは既に分かっている事でした。
だからこそ美月は頷き、再び歩き出した彼の後をついてきました。
これから美月には処罰が与えられるでしょう。
それもこの前の無断出撃とは比べ物にならない物を……。
当然です、美月は治したとはいえ、人を傷つけたのですから。
それを理解している彼女は……身体が鉛の様に重くなったと思いました。
ですが、それでも足を進めます。
そうしなければいけない、自分は悪い事をしたんだからと……。
ここで逃げたら本当に化け物になっちゃう気がする。
悪い事をしちゃったんだから、ちゃんとちゃんと……罰は受けるべき、だよね。
美月は覚悟をし、ゆっくりとしかし確実に新谷の後を追うのでした。




