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57話 最弱の少女

 不安や安堵と言った感情で綾乃へと抱きついた美月。

 彼女は妙に安心して寝てしまった。

 当然、綾乃は驚くがそのまま寝かせることにし……。

 美月が起きると其処には舟をこいでいる綾乃の姿があったのだった。

 彼女達は互いに顔を赤くすると約束をしあうのだった。

 美月と綾乃が仲直りしてから暫く経ち。

 綾乃も訓練に参加するようになりました。

 とは言え、まだ美月は心配なようで……。


「綾乃ちゃん、大丈夫?」


 訓練が始まってからずっと彼女へとそう尋ねています。

 流石に綾乃も参ったのでしょう。

 苦笑いを浮かべながら答えました。


「大丈夫だって! もう何度目?」


 あはは、と笑いながら言う彼女は本気で嫌がっている様子はありません。

 ですが美月はすこし焦ってしまった様で……。


「ご、ごめんなさい」


 と謝ります。

 すると返ってくる言葉は優しいものでした。


「いや、謝る事じゃないよ? 心配してくれてありがとう、でも何度も聞かなくてもだいじょーぶだって! 何かあったら言うから、ね?」


 という彼女の言葉を聞き美月はほっとした様子で訓練に望みます。

 そんなやり取りを見ていたのは新谷と伊達でした。


 彼らの前には様々な数値が掛かれているモニターがあります。


「それで……これはどういうことだ?」


 伊逹は新谷に尋ねました。

 すると新谷は真面目な顔で答えます。


「彼女達のバイタルを表示してるんだ」

「そりゃ分かってる……だが、聞いてないぞ? シュミレーターに変な器具付けてバイタルを測りながらってどういう事だ?」


 伊逹は眉をひそめて尋ねました。

 実際に同じ機能があれば便利です。

 様々なバイタルが分かれば、即座に指示する事も出来るでしょう。

 ですが、現状イービルのコクピットの中にそれを組みこむのは無理なのです。

 シュミレーターでは出来て、実際にはできないのでは意味がありません。

 なら何でそんな事をするのか? 伊逹は理由が分からず彼に尋ねたという訳です。


「……さぁね、ただ、どんな状況でどんな風になるかを知りたいと言っていた……実戦じゃそんなの良く変わる事だし、役に立たないと思うけどね、それこそ実機に積み込めるなら別だろうけどさ」


 新谷も同じ意見だったのでしょう。

 バイタルを睨みながらそう答えました。


「だけど……」

「だけどなんだ?」


 続く言葉に伊逹は再び質問を投げかけました。


「綾乃ちゃんはともかく夜空ちゃんはその時その時の感情で魔法の質が変わっている。伊逹さんも病院の事は?」

「ああ、聞いてるぞ、なんでも生身で守ったそうじゃないか」


 そう告げた彼に対し新谷は頷きます。


「そう、大きな病院一つを守るほどの魔法を使った。だけどジャンヌでは前方に強力な盾を生むだけだ……十分すぎる程の魔法だけど」

「そう言われればおかしいな、デカい病院を一つ守れるならイービルを覆っちまってもおかしくはない。それこそプロテクションヴェールの強化版と言った所か……」


 プロテクションヴェール……それはリンチュンが乗る斉天大聖を守るための魔法です。

 だが、美月にも出来てもおかしくは無いはずで更にはそれよりも強力な膜を纏えるはず……。

 ですが、美月の魔法はそれとは別の物になっているのです。


「これまで使って来た魔法……確かに強力だけど、幾ら専用で調整されているとはいえ、性能はジャンヌの方が上だ……だけど正直に言って斉天大聖の方が強い。夜空ちゃんはリンちゃんを超える魔力があるはずだ……更にはジャンヌは並大抵の魔力では動かない機体……なのにその二つが合わさってもあの程度」


 新谷はそう言うと……今度は美月達が戦っている訓練シュミレーターの映像へと目を向けました。


「それにあの映像から見ても……」

「ああ、ナルカミ……綾乃の方が活躍してるか……アイツは死なないと決めたからか? 動きが格段に良くなってる相手をじっくりと観察するようになった」


 伊逹が言う様に綾乃の動きは確かに良くなっていました。

 相手の動きを見切る為に避けに専念し、予測し攻撃をする。

 ですが、美月はそうではないのです……攻撃が来たら慌てて避けるか魔法を使う。

 彼女一人の時は確かにそれでも成長を感じられるものがありました。

 ですが、比較対象を見せられてしまうと……。


「美月ちゃんは思ったより成長していない、今は機体と本人のスペックで追いついて来てる……だけどいずれ、いや近い未来彼女は……」


 新谷はその後の言葉を飲み込みました。

 ですが、その飲み込まれた言葉は伊逹にも理解できました。


「その時はどうするんだ?」


 そう尋ねた彼は新谷の方へと目を向けます。

 すると新谷はいつも通りの笑みを浮かべ。


「僕が守る……どんな状況でも彼女は僕たちの希望だ……失う訳にはいかないよ」

「そうか、分かった……だが、無茶だけはするんじゃないぞ」


 話は終わりとばかりに伊逹はそれだけを残すとマイクをオンにし――。


「訓練はそこまでだ、二人共終了作業へと移れ!」


 と訓練の終わりを告げました。

 そんな彼の背を見つめながら新谷は困ったように笑います。


「無茶をするなって……その言葉が無茶なんだよな……」


 そんな風に小さくぼやきながらシュミレーターから出てきた二人の少女へと目を向けた新谷は彼女達に向かって軽く手を振ります。

 すると……。


「うわぁ……」


 綾乃は思わずそう口にし……。


「綾乃ちゃん?」

「いや、ね? この前のリンちゃんの一件から、新谷さんがただのスケベにしか見えなくてさー」


 それは美月にこっそり耳打ちされ、美月は引きつった笑みを浮かべるのでした。

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