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56話 安堵を得る少女

 訓練を終えた美月は唯一の楽しみであるシャワーを浴びに行こうとした。

 しかし、その前にはこの前の女性二人が居り、美月の事を話しているようだ。

「化け物」

 そう呼ばれ、美月は頭を抱え怯える。

 それを救ってくれたのは綾乃の言葉だった。

「ちょ、ちょっと美月?」


 困ったような声を上げる綾乃。

 彼女に対し、美月はただただ無言で抱きつくだけです。

 すると綾乃は次第にその顔を赤くしていきました。

 幾ら同性と言えどここまで抱き着かれていると恥ずかしいのでしょう。


「ほ、ほら、分かったから、ね? 離れよう? ね?」


 そう言うと美月は逆に彼女を更に抱きしめます。

 とはいえ、美月は魔法使い。

 ミュータントをその身に寄生させている人です。

 その為、力を籠めてもそんなに苦しくはないのです。

 それを知っている綾乃は無理に引き剥がすのを躊躇い、呻き声の様な物をあげます。


「あ、あの……さ、流石に、これははずいって」


 正直に告げた綾乃でしたが、美月はお構いなしです。

 寧ろ彼女の言葉はもう聞こえてませんでした。

 何故なら……。


「美月?」

「すぅ……すぅ……」


 しがみつくようにしながら美月は寝息を立てていました。


「ちょ!? 立ったまま寝てる!? そりゃアタシに抱きついてるけど……!?」


 良く寝れるね、と呟いた綾乃は暫くどうしたものかと困っていました。

 ですが、すぐにその表情を優しいものへと変えると……。


「しょうがない」


 そう呟き、近くにあった椅子へと美月を連れて行きます。

 勿論そのまま寝かせたらかわいそうと思ったのでしょう、ゆっくりと美月を横たわらせ、自分の膝の上へと頭を乗せさせました。


「本当、アタシが男だったら勘違いしてるぞー」


 そんな事を言いながら綾乃は美月の頬をつつきます。

 すると美月は眉を歪め。


「ぅぅ……」


 と唸り声をあげました。

 ですがすぐに……寝息を立て始め。


「………………」


 そんな彼女の様子に綾乃は一人悶えるのでした。


 ですが、それを見ていたのは綾乃だけではありません。

 当然あの二人も見ていました。

 二人は得体のしれない物を見るように綾乃達を見つめ……互いに顔を合わせます。

 そして、頷き合うと美月達とは反対方向に歩き始めたのでした。



 それから暫くして、美月は目を覚ましました。

 これだけ寝たのはいつ以来でしょうか? 最近は全然寝ていなかった気もします。

 そんな事を考えながら美月がゆっくりと瞼を持ち上げると。


「――!?」


 間近に迫る綾乃の顔がありました。

 彼女はどうやら眠っているのでしょうか? それとも眠いのでしょうか?

 舟をこいでおり、かくんとなるたびに美月に彼女の顔が迫ります。


 な、ななな!? なんで……こんな、事……に?


 突然の事に美月は驚きますが、美月は綾乃の顔から目が離せません。

 心臓はばくばくとし、美月は彼女の顔を見つめ続けるのでした。



 どのぐらい時間が経ったのでしょうか?

 美月は顔を真っ赤にしながらも動けません。

 彼女が起きてくれないと起き上がる際、頭をぶつけそうだったからです。

 勿論それだけではありません。


 あ、頭がぶつからなくてもキスしちゃいそう……。


 そう、美月はその事を気にしていました。

 勿論、美月は普通の女の子、そんな気はありませんでしたが……綾乃は美人だと思うほどです。

 同性でもドキドキしてしまうほどでした。

 だからこそ、動けずに固まっていたのですが……。


「ん……んぅ?」


 ようやく起きた綾乃と目があった美月はますます顔を赤くします。

 今まで自分を守って来てくれたまるで物語の騎士のような少女。

 彼女に対し知らない内に信頼が出来ていたのでしょう。


「………………」


 そして、綾乃も以前自分が男だったら……と言っていたぐらいには美月の事を気にいっている様です。

 そんな二人の視線が合えば当然……。


「あ……」

「え、えと……」


 二人して何を離したらいいのか分からずに慌て始めました。

 ですが、急に動くとお互いに危ない状況だという事に綾乃は気づき。


「ご、ごめん! 寝てた!!」


 そう言いながら頭をあげます。

 美月はようやく体を起こすのですが、長い時間じっとしていたため身体が思うように動かず。

 起き上がるのに苦労しました。


「ぅぅ……」


 恥ずかしさからか、美月がうめき声をあげると綾乃は申し訳なさそうな表情を浮かべました。


「その、本当にごめん」

「だ、大丈夫」


 そんな綾乃に対し美月は恥ずかしそうにはにかみながら答えました。


「「………………」」


 お互いの間には微妙な空気が流れそれ以上は会話が続きませんでした。

 美月は彼女に抱きついてしまった事、そして綾乃は自身の感情をぶつけてしまった事。

 それぞれが気まずいという状況で……綾乃が美月の手を取ります。

 美月は思わず驚くのですが、綾乃はそんな美月に対して笑みを浮かべて答えました。


「今度は約束を破らないから!」


 それは恐らく戦闘時の事なのでしょう。

 美月はそう察し……。


「うん、一緒に頑張ろう?」


 と答えるのでした。

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