55話 化け物と呼ばれた少女
あれから数日。
日常を過ごす美月は陰口を言われていた。
しかし、戦うのを止めることが出来ない少女は今日も訓練を続ける。
友人である綾乃には降りて欲しい。
そう願うもそれは無理だと分かったのだった。
美月は訓練を終え、すぐにシャワーを浴びに向かおうとしました。
ですが、彼女はその足を止めます。
この前の声が聞こえたからです……彼女達もまたシャワーを浴びようとしているのでしょうか?
「ね、この前の面白かったね」
一体何の話でしょう?
娯楽など殆ど無いこの世界で何が面白かったのか? 美月はすこし気になりました。
すると……。
「ああ、確かに! こそこそと逃げるように出て行ってさ、本当傑作」
逃げるように?
美月は首を傾げましたが、その答えはすぐに分かりました。
「所でもうすぐだよね」
「間違いない、訓練を終えたら絶対にシャワーだし、”化け物”の癖に生意気だよね」
それは美月がこの世で一番聞きたくない言葉でした。
そう呼ばれたくない……だからこそ、彼女は人を助けることに固執していたのですから……。
「ちょっと化け物は言い過ぎじゃない?」
「そう? 私達とは違うし、変な物を寄生させて魔法が使える? 実際、そういった化け物が暴れ回ってるんだしあいつも同類でしょ?」
声はワザとなのかそれともいつもなのか分かりませんでしたが大きく……。
美月の耳には嫌でも入ってきます。
思わず、耳を塞ぎその場にしゃがみ込む美月。
それでも今聞いてしまった言葉は頭の中でぐるぐると繰り返されていました。
「いや……いやぁ」
そう呼ばれたくはない、だから人を助ける。
事実、親しくは慣れなかったとしても今までは化け物とは呼ばれませんでした。
そう思ってる人は居たとしても口には出されませんでした。
だというのに……。
「でも確かに気持ち悪いよね、ミュータント? そんなもの寄生させるなんて普通じゃないよ」
違う!
私は……お母さんを助けたいから、助けたかったから……。
そう思いますが、声は出ませんでした。
「でしょ? 普通考えないでしょ? 元から化け物なんだよきっと」
心無い言葉は美月の心に深く刺さりました。
鋭利なナイフで切り刻まれるような気がし、美月はその場で頭を左右に振ります。
「そんな事、陰で言ってるあんた達の方が醜い化け物っしょ?」
そんな時です、その声が聞こえたのは……。
「は? ちょ……なんでそんな事言うんですか?」
急に敬語になった声に対し、イラついた様子の声は答えます。
「あの子が居なきゃ、ジャンヌは動かないでしょ。それにさ、あの子に何人も救われてるんだし、他の魔法使いに化け物が多かったとしてもあの子は違う!!」
「ちょっと、そんなに怒らなくても……」
「聞いてて気分が悪いんだけど!! 化け物? その言葉が似合うのはこんな所で嫌がらせするあんた達の事でしょ!! 美月を――そんな風に呼ぶな!!」
彼女は怒りをあらわにし怒鳴ります。
すると二人の女性は……。
「いや、でも……」
「わ、私達人間とは違いますよ?」
怯えた様子で綾乃に問いかける。
「どこが!?」
綾乃は問いかけに問いかけで返す。
すると困った様子の二人は目を合わせ……。
「寄生虫が居る所と魔法が――」
「はぁ!?」
その答えに心底呆れた様子の綾乃は……頭を抱え……。
「寄生虫っていてもおかしくないし、それとも何!? あんた達は寄生虫居ませんってとでも言うの!? 全くいないって方が疑問じゃん! それに魔法だってあの子がどうしてミュータントを寄生させようとしたのか、知ってて言ってるの!?」
美月は勿論綾乃にその話をしたことはありません。
ですが、情報としては知っていてもおかしくはないのです。
何故なら綾乃はこの施設を管理する父を持つのですから……。
また、綾乃自身も司令官にとって頼りになる兵である事から彼女を信用……いえ、信頼して美月の情報を開示することは十分に考えられました。
「し、知らないし!」
「そ、そうよ! あんな化け物の事なんて知りたくもない!!」
自分達が怒鳴られる理由が分からない。
彼女達もまた怒りをあらわにしました。
ですが、綾乃は――冷静になり……。
「そう? じゃぁ知らなければいい、あの子が自分で話そうとしないと思うし、ただ……一つ言えるとしたら、あの子が選ばれた理由はそれだから……あんたらみたいにこんな所で待ち伏せしてこそこそと陰湿な事をやってる連中とは違ってね」
綾乃はそれだけを言うと歩き始めた様で足音が聞こえます。
「後、今の話父さんに伝えておくから……」
「「え? ちょ!?」」
その言葉に二人の女性は反応し、慌て始めました。
ですが、綾乃は気にした様子もなく歩き続け……。
「み、美月!?」
座り込む美月を見つけて驚いていました。
「ま、まさか……今の話」
聞いていたのか? と問おうとした彼女でしたが、その言葉は途中で止まってしまいます。
美月が彼女に抱きついたからです。
嫌われたかと思っていた、だけど彼女は美月がそこに居るとは気が付かずにただ、自分の感情に従って美月を守ってくれたのです。
美月はそれが嬉しく、また心強く感じ……彼女にただただすがる様に抱き着きます。
「そっか……ごめんね、声びっくりしたでしょ?」
優しい声で綾乃はそう言うと美月の背中に手を当ててくれました。
美月は首を横に振り……答えると、無言で彼女に抱きつく力を少し強めたのでした。




