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53話 誓いを立てる少女

 思わず綾乃を叩いてしまった美月。

 彼女は綾乃に思いを対し訴える。

 しかし、彼女は美月には分からないと言い、口論になってしまった。

 やがて二人は落ち着きを取り戻したが……。

「…………」


 美月はゆっくりと瞼を持ち上げます。

 するともうすでに外は真っ暗になっていました。

 自分はどのくらい寝ていたんだろう?

 そんな事を考える美月でしたが、まだ眠気を訴える眼を擦り、綾乃の方へと目を向けます。

 すると――。


「ぅ……ぅぅ、ひっ」


 泣き声を押し殺しているのが聞こえました。

 美月が起きている事には気が付いていないのでしょう。

 その泣き声を聞いていると美月は胸が苦しくなりました。

 彼女には彼女の思う事がある。

 それは十分に理解しています。

 ですが、彼女の中の闇は想像以上に深かったのです……。


 綾乃ちゃん……。


 美月は彼女が泣いている所を見たくないだろうと考え、黙っていました。

 どの位の時間そうしていたのでしょう。

 ふと綾乃がつぶやいたのです。


「アタシだって……アタシだって、死ぬのは怖いよ……あんなに、あんなに……」


 泣き声交じりの呟き。

 それは彼女の本音だったのでしょう。


「覚悟はしてたのに……」


 いざ自分が戦うとなると当然、敵と対峙しなければなりません。

 当然あちらも襲ってきます。

 それに恐怖しない人間は居ないでしょう。

 それが強い意志を持つ者でもです。


 その後も綾乃は泣き続け……そして、最後に呟きます。


「でも、もう……そこまで来てるんだ。だから……」


 そう口にし、すすり泣く声が聞こえ、綾乃はゆっくりと眠りへと落ちて行きます。

 美月は彼女がしっかりと寝たことを確認してから、彼女の手を取り……呟きます。


「私が、私が皆を、綾乃ちゃんを……守るから」


 恐怖はまだ美月の中にも当然残っています。

 ですが、それでも、彼女は守りたいという意志を変えるつもりはありませんでした。

 だからこそ、そう呟き……誓うと、ゆっくりと部屋の外へと出て行くのです。

 誰にも聞かれなかった誓いは……彼女の中にだけ残り。

 美月の瞳には強い意志が宿り始めていました。

 一度折れかけた心は……まだ、折れていません。

 まだ、戦える……綾乃を助けられた事を糧に彼女はその足を進めるのでした。

 敵は強大です。

 世界は滅亡寸前……ですが人類には反撃の手段があります。


 美月はその手段の元へと辿り着くとハッチ開け、中に乗り込みます。

 起動をする訳ではありません。

 ただ、何故か暖かさを感じるをの機体の中だと安心できるかもしれない。

 そう思ったのでした。








「おい」

「んん……」


 美月はいつの間にか眠っていたのでしょう。

 何か声が聞こえて来ましたが、起きる事は無くもぞもぞと動きます。


「おい!」

「ぅぅ……」


 また声が聞こえました。

 ですが美月は起きません。

 すると――。


「こんな所で寝るな!!」

「ひぅ!?」


 突然聞こえた大きな声に彼女はびっくりし飛び起きます。

 するとガンッと天井に頭をぶつけてしまい。


「~~~~っ!?」


 その痛みに悶えます。


「ったく、お前さんは女なんだ、襲われたらどうする?」

「だ、伊逹さん?」


 どうやら美月を起こしてくれたのは伊逹の様でした。

 その事に驚いた美月は彼の名を呼ぶのですが、彼は溜息をつきました。


「いくら、こういう所でも間違いが起きないとは限らない、自分の身は自分で守れ」

「あ……」


 そこで美月は自分が熟睡していた事に気が付きました。

 しかも今の服は長いと言ってもスカートです。

 襲いやすいと言われればそうなるでしょう、彼が気が付いてくれなかったら何かあったかもしれません。


「ご、ごめんなさい」


 慌てて謝ると、伊逹は呆れた様な顔を浮かべており。


「まったく、若い連中がお前さんの写真を撮ってたぞ? それだけで済んで良かったとでも思っておけ」

「しゃ、写真!?」


 美月が驚くと彼は頷き。


「寝顔を撮ってたな」


 それを聞くなり美月は顔を赤くしていきます。

 ここで寝ていたのは自分の落ち度ですが、まさか寝顔を撮られるとは思いません。

 美月は慌ててコクピットから降りますが……。


「もう無駄だ、何人にも撮られてるんだ、他に何かされなかっただけでもありがたいと思っておけ」

「ぁぅ……ぅぅ……」


 そう言われてしまえば確かにそうです。

 ですが、納得のいかない美月は唸り声をあげ赤い顔をますます赤くするのでした。


「それで、何でここで寝てた?」


 伊逹に問われた美月は機体から降りると赤い顔のまま振り返ります。

 そして、イービル……ジャンヌダルクを見上げました。


「分からないです、でも……不思議とジャンヌダルクが暖かい気がして……」


 それは初めの頃から感じていた疑問。


「暖かい? 金属の塊だぞ? そりゃコクピットの中はエアコンがついてるが……起動してないなら意味が無いだろう」

「そう、ですよね、でも……」


 なんでだろう? 美月は疑問に思いつつ手を触れます。

 冷たいはず、いや、確かに冷たい。

 ですが、その奥に暖かさがある様な気がし実際にそう感じるのです。

 それは何故か分かりませんでした。

 ただ……唯一言えるとしたら美月は――。


「この子のお蔭で助けられた人が居るからなのかな?」


 と小さな、小さな声で呟くのでした。

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