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50話 揺るがない? 少女

 兵士に戻った美月。

 彼女は今度こそ守るために戦う事を決意した。

 しかし、それは危うい決意であり……。

 新谷達はそれを心配するのだった。

 美月が兵士に戻ってから練習は来る日も来る日も続きます。

 ですが美月は無理はしないようにしました。

 何故なら今イービルを動かせるのは美月一人だからです。


 それなのに彼女た潰れてしまっては守りたいものさえ守れません。


「よし、今日の練習は終わりだ」


 新谷にそう言われ、美月はシュミレーターのコクピットの中で「ふぅ」と息をつきました。

 マナイービルに再度乗る事になってこの練習を始め、もう何日でしょう?

 綾乃は相変わらず目を覚ましません。

 ですが、検査で脳にも障害が残ってはいない事は分かっており、じきに目を覚ますだろうとの事です。

 それを聞いただけで美月は安心出来ました。

 だからこそ、初めてできた友達を守りたい。

 自分の意志でそう決めた彼女は……もう、逃げる訳にも負けるわけにもいかないのです。


「大分動きが良くなってきたな、夜空ちゃん」


 シュミレーターから出ると新谷は笑みを浮かべて待っていてくれました。

 その笑顔に思わずドキリとしてしまう美月でしたが、深呼吸をし自分を落ち着かせます。


「どうしたんだ?」

「な、ななななんでもないです……」


 美月は彼に慌てて返事をしますが、その言葉は何度も詰まらせてしまいました。

 ですが、そんな彼女の返事を聞き新谷は首を傾げます。

 首を傾げた彼は少し意外そうな顔をしていました。


「……?」


 美月はその表情の意図が分からず、首を傾げると新谷は首を傾げた理由を教えてくれました。


「夜空ちゃん、声が大きくなったね」


 それは美月も予想しなかった言葉でした。

 彼の言葉に美月は驚きつつ口元へと手を当てます。


 そんなに大きくなってるのかな?


 と彼女は考えました。

 ですが、人に声が大きくなったと言われたのは初めての事で恐らくは本当なのでしょう。


「びっくりしたよ」

「……えと、ごめんなさい」


 思わず謝ると新谷は笑い始めます。

 美月は少し失礼ではないだろうか? と考えます。

 するとその雰囲気を察したのか新谷は笑うのをやめ……。


「いや、ごめん……夜空ちゃんが謝る事じゃないよ、寧ろ良い傾向じゃないかな? 声が大きくなって聞きやすくなったんだからね」


 彼はそう言い微笑みます。


「そ、そうだったんですか……」


 今までの声が聞こえ辛かったんだ……と考え、少しがっくりとしてしまいました。


 そんなに聞こえ辛かったのかな?

 もしかして、ううん、もしかしなくても綾乃ちゃんも我慢してくれてたのかな……。


 そう思うと申し訳ない気持ちが溢れてきました。


「きっと姫川ちゃんも喜ぶよ、夜空ちゃんが元気になればね!」


 彼はそう言うと微笑んでくれました。

 当然、美月は顔が赤くなるのを感じました。

 ですが、すぐに冷静さを取り戻そうと深呼吸をし……綾乃の事を考えます。


 医師はちゃんと起きるだろうと言ってくれている訳ですから、以前よりは少し気が楽になってました。

 ですが、再び戦う事になった事を知らない彼女は何て言うのか?

 それは不安でした……だから、今の新谷の言葉には頷く事は出来ませんでした。


「さ、今日の訓練は終わりだ、あまり必死になりすぎても良くないからな」

「はい!」


 美月は頷き、そのままシャワー室へと向かいます。

 この頃は水も貴重なためシャワーも長い時間は使えません。

 ですが、それでもこの施設では汗を流すために一日一回は入れるのです。

 その為、女性からは好評な物でした。

 本当はお湯につかりたい……もっと贅沢を言えば誰でもそうでしょう。

 ですが、そう愚痴をこぼす者は少なかったのです。

 美月は部屋に帰ればお風呂があります。

 ですが、それは贅沢だと考えてしまいここで汗を流すだけで我慢をしていました。


「えへへ……」


 勿論美月にとってもシャワーは楽しみな時間でした。

 寧ろ、今の状況で唯一の楽しみと言っても過言ではありません。

 食事も大して美味しいと感じる事は無く、訓練も大変。

 ましてやすれ違う人の中には美月を良く思わない者も居るため、舌打ちや陰口を耳にします。

 ですが、シャワーは個室という訳ではありませんが、今の時間なら人は少ないのです。

 何より女性の悪魔乗りは数が少なく、この施設では美月と綾乃ぐらいです。

 なのでハンガー側にあるシャワールームは安心して入れる時間があり、美月は勿論その時間に利用していました。


「――ふぅ」


 暖かいシャワーを浴び一息をつく美月。

 訓練後のシャワーは心地が良く美月は思わず目を瞑ります。

 もくもくと立つ湯気の中、シャワーの音に紛れ人の声が聞こえました。

 

「ねぇ……最近さ感じ悪くないかな?」

「ああー私も思う……女性が悪魔乗りってだけで文句言う人いるよね」


 それは誰かの愚痴。

 女性の悪魔乗りというのは間違いなく美月達の事を指しているのでしょう。

 その声はどうやら美月達に対する事で怒っている様です。


「っていうかさーイービル自体が乗る人選ぶんだし!」

「そうだよねー……でもさ、今回の事は何も言えないんじゃない? あの子勝手に出撃したんでしょ?」


 美月は聞こえてくる彼女達の言葉に耳を澄ませてしまいました。


「それは確かにそうだねー」

「だとしたらさ、怒るのも分かるよ? あのイービルは特別なんだし、失ったらもう他国の支援が無いと開発できないとも聞いてるから……」

「あーそれ聞いた! なのに勝手に出たんだっけ? それも大した罰はないみたいだし」


 恐らく内緒の会話をしたかったから此処に来たのでしょう。

 二人はどうやら美月の事をあまりよくは思っていないみたいで、近くに彼女がいるとも考えてないのでしょう。


「まぁ、私だって女の子に守ってもらって文句ばっかりなのはおかしいと思うよ? だけどさ、ちょっとあの子も特別だからって好き放題死過ぎじゃない?」

「うんうん、確かに! なんか整備のおじさんと新谷さんに色目使ってるみたいだよねー」


 二人はそのまま陰口で会話を盛り上げていきます。

 美月の方はすっかりとシャワーの時間が過ぎ、お湯は止まっていました。

 バルブを閉めると彼女は隠れるようにシャワー室を後にするのでした。


 やっぱり……良くは思われてない……んだ……。


 そう心の中に思いつつ。

 それでも美月は――。


「でも、私は……皆を……! ……皆を? 私は……私……は……」


 揺るがないはずの意志……ですが、彼女達の話を聞いた美月は自分の身を抱き、同じ言葉を繰り返すのでした。

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