49話 決意をする少女
綾乃はすぐに医務室へと運ばれた。
彼女は美月の魔法のお蔭で一命をとりとめたものの目を覚ます気配はない。
心配する美月でしたが、彼女は違反行為を犯してしまった。
刑を処される時間は一刻一刻と迫り……。
彼女は決してイービルから降りる事を許されないというのを条件に兵士へと戻るのだった。
その後、美月が現場に復帰した事はすぐに連絡されました。
そして、同時にそれが勝手に出撃をした罰である事も知らされました。
しかし、いくらトップが決めた事と言っても納得できる者だけではありません。
当然文句もありました。
ですが、マナ・イービルであるジャンヌダルクを動かせるのは美月一人。
その揺るがない事実に誰もがそれ以上、文句を言うことはできませんでした。
不満は溜まります。
それもまた美月への罰になると言う事でした。
美月はそんな中、食堂で一人食事を取っていました。
彼女の周りにはいつも一緒に居た綾乃は居ません。
代わりに、周りを囲む者達は様々な目で彼女を見ていました。
尊敬もあれば軽蔑もある。
そんなのは美月でも分かるほどでした。
「…………」
ですが、もう逃げる訳にはいかないと美月はそこで食事を進めました。
味なんて分かりません。
最早、栄養を取るだけの行為です。
それでも、美月は食べ終わると食器を片付け、食堂を去ります。
そして、向かうのです。
医務室へと……目的は綾乃の元へ。
そこで本当に眠る様に倒れている彼女を見ます。
もう傷は良いようですが、やはり脳への影響か起きる事はありません。
「綾乃ちゃん……」
美月は彼女の手を取り声をかけます。
ですが、やはり起きません……。
今度は嘘で眠っている訳ではなく本当に起きないのです。
不安が大きくなると同時に後悔も大きくなっていきます。
だからこそ……美月は……。
「ごめんなさい……私が最初から……」
イービルを降りなければ。
そう口にしかけた所で肩を叩かれた彼女は振り返ります。
そこに居たのは新谷と伊達。
彼らは首を横に振り、美月に言葉を投げてきました。
「どっちにしろ姫川ちゃんはこうなってた」
「お前が助けたんだ。今は寝てるだけだ、その内目を覚ます」
彼らの言葉は今の美月には響きませんでした。
そして……。
「……これから仕事なので」
美月はそれだけを告げると部屋を去って行きます。
綾乃ちゃん……私が守って、みせなきゃ……。
美月はそう心の中で呟きます。
いずれこの場所にも天使達は攻め込んでくるでしょう。
そんな時、またこの前と同じように逃げてしまえばもう誰も助けることは出来ないでしょう。
「夜空ちゃん……」
新谷は彼女を心配していますが、美月は彼の優しさには気づきつつも黙って前へと進みました。
「私は……私は……」
それは、今までにない物でした。
ですが、今の彼女に確かに生まれた感情です。
「……何が起きても皆を、守るの……」
ただそれだけを考えるのなら以前と何も変わらないでしょう。
ですが美月の心の中には別の感情も生まれています。
それは……。
「死ぬのは怖い、怖いよ……だけど、それでも……」
恐怖を覚えた彼女はこれからはきっと生にすがる事でしょう。
そして化け物と呼ばれたくない、そんな畏怖もあります。
「絶対に生き残って皆を――綾乃ちゃんを……」
彼女は小さな声でしたがしっかりと口にしました。
美月の後を続く新谷と伊達は彼女のそんな決意を聞き、黙り込みます。
それもそうでしょう、彼女はただの少女。
ですが、そんな彼女にすがらなければ人類は戦力を大きく削られてしまいます。
それを知る二人はもう、何も言えませんでした……。
「おい、新谷」
ですが、それは危うい決意である事は二人には分かりました。
「分ってるって僕だって兵士だ……」
辛うじて交わしたのは短い会話です。
その後黙り込んだ二人は――。
「俺はあくまでサポートだ……あのじゃじゃ馬はどうやら整備できる奴が少なくてな、俺を手放すことはできないらしい」
「だろうな、あの二機は伊逹さん達にしか無理だって」
伊逹の言葉に頷く新谷は考え込みます。
「そっちはどうなんだ?」
それは彼を心配しているような声でした。
「……大丈夫だ問題ない! 寧ろ目を覚まさない姫川ちゃんの方が心配だろう?」
と笑いました。
ですが、伊逹は険しい顔を浮かべます。
「…………」
黙って新谷を睨む伊逹。
彼に対し新谷は溜息をつくと……。
「今更だよ、伊逹さんも知ってただろ? なら……やれることはやってやるさ、あの子達を守ってやらないといけない。誰かがそうしてあげないといくらあの子の中の決意が固くても壊れてしまうさ……それにどう見ても危ういしね」
そう新谷は美月の背を見つめなら呟きます。
「そうか、なら、俺は何も言える事は無いな……それはお前の決意で答えが出てんなら、な」
「ああ、心配しなくても大丈夫だって!」
いつもの笑みを浮かべていた彼はそう口にします。
「…………」
美月はそんな彼らの会話が良く聞こえず困惑した表情を浮かべますが……一人ではない、ということに安堵を覚えました。
ただそれだけでも、美月にとっては大切な事でした。




