47話 助けに来た少女
綾乃を助ける為、違反行為と分かりつつ出撃をした美月。
彼女は無事綾乃の元へと辿り着いたのだが……。
助けに来たはずの彼女は逆に守られてしまったのだった。
魔法が天使へと直撃をしても特別、大きな音はしませんでした。
美月は魔法が当たったとほぼ同時に銃を撃ち込みます……。
すると、炎に熱され脆くなった装甲は撃ち抜くことが出来たようです。
ですが、まだ倒れない……ぐらりと揺れ倒れる天使へと美月は続けざまに銃弾を叩きこみました。
「――終わった?」
大きな音を立て倒れた天使を見て彼女は恐る恐ると近づきます。
「っ!? 綾乃ちゃん!!」
そして、動かない事を確認すると慌てて綾乃の元へと向かいました。
ですが……彼女は動きません。
もう、間に合わなかったのか? そう考えた美月ですが、諦める事なんて出来ません。
「綾乃ちゃん?」
通信を入れ、彼女の名前を呟きます。
ですが、反応有りませんでした。
代わりに――。
『夜空さん! 聞こえますか!!』
オペレーターである明智の声が聞こえてきました。
彼女はようやく通信が繋がった事に安堵したのでしょう、どこかほっとしたような声です。
『こちらで確認をしました、これは処罰対象ですが、現状は姫川綾乃さんの安否の確認をお願いします』
淡々と告げられた言葉に美月は頷きます。
頷いたからと言っても相手には見えないのですから意味はないのですが……。
『コクピットのある頭部、人で言うと耳の付近に外側から操作できるようパネルがあります。カバーに保護されていますがそちらへと向かってください』
ですが、美月が断る訳が無いと思っているのでしょう。
明智の言葉は続きます。
『コードは0813です、それでコクピットは開きます』
それを聞くなり美月は急いでイービルを綾乃の元へと動かし、ハッチを開け、ナルカミの頭部付近へと急ぎます。
走るな! と綾乃に注意されそうでしたが、その綾乃は今倒れており、注意をしてくれません。
心配もあって美月は息が切れるのも構わずに走りました。
距離は普通の人であればなんて事無い距離です。
ですが、美月にとっては苦しい距離。
息を整えるのも時間が惜しく感じられた彼女は耳の付近を探します。
するとそこには分かりやすく印が付いていました。
急いでカバーを外しパネルがあるのを確認すると……。
「0……8、13」
口にしながら操作をします。
それは緊急の時のコードだったのでしょう。
「きゃあ!?」
美月が思わず叫んでしまうほどコクピットのハッチは音を立て吹き飛び、中の様子がうかがえるようになりました。
恐る恐る彼女はコクピットの中を窺います。
そこには倒れる綾乃の姿がありました。
顔を青くし美月は駆け寄りましたが、揺するのは危険です。
まずは呼吸をしているかを確認する為に口元へと耳を近づけました。
「……呼吸は、ある」
生きています。
一応確認の為に胸に耳を当ててみますが、ちゃんと心臓の音が聞こえました。
ですが、油断はできません。
「――い、今助けるから」
美月はそう言うと彼女へと手を当て治療を試みます。
集中し魔法を使い……ただただ願います。
お願い死なないでっと……。
美月が今まで治して来た傷は主に外傷です。
見えない所を治せたという事はありません。
いえ、実際には治せていたのかもしれないですが、見える訳ではないので分からないのです。
だからこそ、美月は祈ったのです。
神なんて信じる事は出来ません。
神の使いともいえる天使はそもそも人類の敵となってしまいました。
祈るのはただただ彼女に対して、彼女自身の強さに祈っていました。
そして――。
「…………綾乃ちゃん?」
暫く魔法をかけた後、彼女の名前を呼びます。
ですが、彼女は起きません。
ただ、寝息を立て寝ているだけです。
死んではいない、ただその事実だけが残り、このまま起きないのではないか? という美月の不安は解消されませんでした。
「綾乃ちゃん!!」
美月が叫んでも綾乃は反応しません。
これまで出したことの無い声だったにもかかわらずです。
「………………」
彼女はがっくりと項垂れ、もしかして助けられなかったの? と落ち込みます。
そんな時です。
「夜空ちゃん!」
声が聞こえ彼女ははっとします。
そこにはいつの間にか新谷が居ました。
外には戦闘機の姿がありますので、恐らくはあれに乗ってきたという所でしょう。
「綾乃ちゃんをこっちに、医療室に運ぶ、夜空ちゃんはイービルの回収を頼むよ」
彼はそう言うと美月に退くように指示をします。
断る理由も無い美月はその場から退き、綾乃が運ばれるのを見ていました。
綾乃を丁寧に戦闘機へと乗せた彼は振り返り。
「今回の事は色々と話があると思う、個人的には……よくやったとも言えるし、何をしているんだとも言える」
彼の言葉を聞き美月は顔を伏せます。
「だけど、キミが居なかったら綾乃ちゃんは助けられなかっただろう、その点はちゃんと僕からも話しておくよ」
彼はそう言うと期待に乗り込みその場を去って行きます。
美月は彼が去るのを見送ってからジャンヌへと乗り込み、ナルカミを運び始めたのでした。




