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45話 選択をする少女

 ハンガーへと駆けつけた美月。

 だが、そこで知ったのは綾乃一人で出撃をしているという事実だった。

 困惑する美月に更なる絶望が襲う。

 どうやら綾乃の乗るナルカミの銃弾は切れ、機体の動きも良くない様だ。

「駄目……」


 美月はモニターに映っていた点を見つめます。

 そこには二つの点が綾乃の元へと近づく様子が描かれていました。


「駄目……!!」


 首を横に振り、瞳に涙を溜め呟きます。

 ですが、点は止まりません……それどころか距離があるのか、徐々に徐々に近づいて行くその姿はまるでみせしめのようにも思えました。


『か、回収班を回します、機体を放棄してください!!』


 もう、このままでは助からない。

 そう考えたのでしょう……明智望の悲鳴に似た声が聞こえます。


『い、いや、無理っしょ……だって他にイービルないし、それに……』


 綾乃は何かを言いかけて黙ります。

 何かがあったのでしょうか? 美月がそう不安を感じた時――。


『――っ!?』


 何かが聞こえ、続いて轟音が鳴り響きます。


「綾乃ちゃん!?」


 その場で彼女の名前を呼んでもなにも意味はありません。

 そんな事は分かっていました。

 ですが美月は叫ばずにはいられなかったのです。


『綾乃さん!? 綾乃さん!!』


 オペレーターである明智望も彼女の名前を呼びます。

 すると……。


『あ、はは……今の警告って奴かな? 少し動いたら撃たれた……向こうスナイパーライフルかなにかを持ってるよ……』


 かすれた声でそんな事を言う綾乃。

 最早、逃げられはしない……そう忠告をされている事を告げました。


『……ま、参っちゃったなぁ、こんな所で終わっちゃうんだ……』


 その声は小さい物で、本心から来たものでしょう。

 だからこそ、美月は彼女の死を実感し……。


「あ……ああ?」


 呆然としつつ、後ろへと一歩二歩と下がり、崩れるように腰を落としてしまいました。


「何してやがる!!」


 そんな時です、怒号が聞こえ美月は身体をびくりと震わせます。

 恐る恐る後ろへと振り返ると其処に居るのは伊逹でした。


「な、何って……?」


 美月が声を振り絞り訊ねると彼は荒々しい足取りで美月へと近づき。


「さっさとあれに乗れ!!」

「あれ……?」


 指をさされたのはマナ・イービル。

 それを見た美月は首を横に振りました。


「だって……私もう」

「責任なら俺が持ってやる!! そんなに苦しいなら見てるだけで済ませるんじゃない!! お前さんは見ず知らずの新谷の事は助けられても友達は助けられないのか!!」


 それは美月が初めて出撃した時の事を言ってるのでしょう。


「で、でもハッチの操作が……」

「大丈夫だ、あれはタイミングこそはオペレーターだが実際の操作は俺達だ……それに通信を奪っちまえばなんて事は無い、ハッチを開けてやる行ってこい」


 美月がイービルに乗る事を否定しないと彼は優し気にそう言いました。

 それを聞き、美月は迷いましたが……すぐに、首を縦にふり、大粒の涙を流します。


 機体に乗り込むと美月を恐怖が襲いました……。

 もしかしたら自分も死ぬかもしれない、それはこの前初めて実感した恐怖。

 ですが、それでも美月は震える手を動かし起動の準備に取り掛かります。


「燃料は問題ない、武器も機体の整備もだ!」

「は、はい……」


 綾乃を助けるためですが、これは明らかな違反行為でした。

 もう兵士ではない美月、そして伊逹達もまた命令をされていないのにも関わらずジャンヌダルクの起動を始めているのですから。


『……え?』


 起動するとジャンヌダルクの中に驚きと困惑の声が響きます。


「切り替えろ!」

「了解!! チャンネル切り替えます!!」


 ジャンヌダルクのコクピット付近に居た男性はコクピットの中へと手を伸ばすと美月の目の前で操作をしていきます。


『ジャンヌダルク!? まさか夜空さん!? 何をしているんですか――!! 違反こ――』


 感情的になり、焦った声が聞こえました。

 ですが、その声の最後の方の言葉――。


『――です、直ちに降りてください!!』


 と外の放送で聞こえてきます。


「これで俺達と通信を取れる、幸いここにもモニターがあるからな、行ってこい」

「――っ!!」


 こくこく首を縦に振る美月はコクピットの操作をしてくれた男性が降りたのを確認してからハッチを閉じます。

 すると、いつもなら明智望の声が聞こえてきたはずですが……。


『システムオールグリーン!! カタパルトへ――いつでも出撃できるよ!』


 先程の男性の声が聞こえ、続いて……。


『夜空!! 行ってこい!!』


 伊逹の声を聞いて美月は――。


「…………夜空、美月……ジャンヌ、ダルク……行きます」


 と口にする。

 それを合図にしグンッと前へと動き出す機体。

 機械仕掛けの悪魔は空へと放たれ――それへと乗る美月は――。


『北西に真っ直ぐ!! 何か障害が見つかるか、修正が必要ならこっちで告げる!! 全力で飛べ――!!』

「――は、はい!」


 少女は友人を助けるために空を駆けます。

 灰色の悪魔は少女の想いに応えるように今までにない速度で綾乃の元へと急ぐのでした。

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