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43話 新たな仕事に就く少女

 戦いを辞めた美月。

 彼女は医務室で医者の手伝いをする魔法使いとして雇われる事になった。

 美月は綾乃に申し訳ない気持ちと不安を抱え、去って行く彼女に対し何も言えないのだった。

 美月が悪魔乗りを辞めてから早数日。


「熱は36.5度……血圧は高めですね140の87です……」


 兵士の一人のバイタルを図り終わった美月は医師へと告げました。


「ありがとう、それじゃ次の人のを測ってくれるかい」

「はい……」


 美月は医師の言葉に頷き、バイタルを測っていきます。

 その顔は暗く……気がついたら溜息をついてしまいます。

 もう戦わなくていい、そのはずでしたが……。

 そうなればそうなったで気が気でないのです。


 綾乃達は大丈夫だろうか? そして、このままでいいのだろうか? と考えてしまうのです。

 何より……自分が乗っていたマナ・イービルを動かせる魔法使いは居るのだろうか? と……。

 リンチュンなら動かせるのでは? と考えましたが、彼女には斉天大聖という立派な機体があります。

 美月の乗っていたイービルに乗るという事は無いでしょう。

 何より、そんな事をすればどんな事を言われるか分かりません。


「……はぁ」

「夜空さん?」


 吉沢に声をかけられた美月は思わずびくりと身体を震わせます。

 ですが、逃げたりする気力も湧きません。

 ただ彼女は……ゆっくりとした動作で吉沢の方へと向きます。

 そこには恍惚とした表情の女性が居ました。

 当然美月はげんなりとしますがもうこの数日ずっとこの感じです。


「夜空さんのバイタルを測った方が良いのではないでしょうか?」

「自分でもう測りました」


 美月が吉沢の言葉に答えると彼女はがっくりとしますが、美月はそんな彼女を見てもただ黙っています。


「……なんか暗くなりましたね」


 吉沢も美月の態度が以前とは明らかに違う事を指摘しました。

 ですが、美月は……。


「いつもの事です……」


 と淡々と答えるだけ……ですが、自分でも暗くなったというのは分かっていました。

 かと言って前とそこまで変わらないだろうとも考えていたのです。

 ですが……。


「計測は終わりです」


 今日何人目かは忘れましたが、バイタルを測り終わった後男性は美月に告げます。


「何か、凄く暗いな……何かあったのか?」

「……え?」


 彼の声に聞き覚えのあった美月は顔をあげます。

 普通ならすぐに気が付くはずです。

 彼を顔を見間違えるはずもないのに分からなかったのはずっと視線を下げていたからでしょう。

 そう、そこに居たのは新谷でした。

 彼は美月を心配そうに見つめ――。


「そんな事は……前と変わらないです」

「いや、明らかに違う……前は表情が柔らかかった」


 彼はそう言うと美月の顔を指差します。

 思わず自分の顔へと触れる美月でしたが、それだけでは表情が堅いのかは分かりません。


「色々思う所はあると思う、だけど君がそんな顔をしてたら綾乃ちゃん達が心配するぞ」

「…………はい」


 消え入りそうな声で美月は答えると頷きます。

 ですが、それで変われるほど美月にとって問題は簡単ではなかったのです。

 いえ、誰だって同じでしょう……本来ならば逃亡兵として処罰されてもおかしくはないのです。

 なのに、美月には罰が設けられませんでした。

 それもあって美月は後ろめたい気持ちがあるのです。

 自分だけ特別扱い、それはおかしい……そう思っても天使(アンゼル)は怖い。

 何より死ぬのが怖いのです。


「じゃ、頑張って」


 新谷はそれだけ残し去ろうとします。

 すると警報が鳴り響き――。


「っ!?」


 美月は思わず身構えました。

 天使の襲来です。


「もうか!? 早いな……」


 新谷はすぐにその場を去ろうとしました。

 ですが――。


「待ってください!」


 彼を止める声があります。

 その声には聞き覚えがありました……東坂恵です。


「新谷さんは今戦える状況じゃないですよ!」

「機体がなくても兵士は兵士だ……それに戦闘機ぐらいなら」


 それを聞いた美月は以前の事を思い出しぶるりと震えました。

 また、彼が危機に陥るのがすぐに分かったからです。


「駄目! 以前それで助かったのは奇跡なのよ!?」


 彼女は感情を露わにし新谷へと告げます。

 当然、新谷は困った様な表情を浮かべ……。


「それでも僕は兵士だ」


 と言いますが、それに対して……。


「だ、駄目……です」


 美月もそう口にしました。

 すると遠坂も同意見が出た事で頷き――。


「ほら、駄目な物は駄目!」


 と口にします。

 そんなやり取りが聞こえたのでしょう医師が美月達の所へと訪れました。


「新谷君、君は出撃しなくてもいい、寧ろ脳の検査結果がまだ出ていない状態では出撃はさせられない」

「しかし――っ!」


 医師の言葉に新谷は反論しようとしましたが、思い直したのか黙り込みました。


「分りました」


 取りあえずはほっとした美月でしたが、すぐに嫌な予感を感じます。


 綾乃ちゃんっ!!


 そう、綾乃は起動訓練はすでに終えています。

 今回出撃するかもしれない、そう思うと不安で仕方のなくなった彼女は部屋を飛び出しました。


「夜空ちゃん!?」


 新谷の声が聞こえましたが、美月は息を荒げながら走ります。

 走ったら駄目と言われたのにもかかわらず……美月は綾乃の元へと急ぐのでした。

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