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41話 自分の気持ちを知る少女

 ニュースなどの所為でまともに食事を取っていなかった美月達。

 そんな彼女達を見て綾乃はある部屋へと案内をした。

 そこは通信などの管理をしている管理室……そこで食事を取る彼女達にオペレーター明智望が声をかける。 

 彼女の優しい言葉は美月の心にひどく響くのだった……。

 私はこんなに怖かったんだ……。


 その事に気が付いた美月はゆっくりとではありますが落ち着きを取り戻し、食事を勧めました。

 ですが味なんて分かりません。

 ようやく食べ終わった後は自分の部屋へと向かおうとしました。

 綾乃達は心配なのでしょう、美月について来てくれるようです……。


「美月? その無理はしない方が……」

「うん……」

「メイユエ、怖いなら私が守る」

「うん……」


 そんな二人の優しい言葉に対し美月は生返事で返しました。

 今までは大丈夫だったというのに怖いという感情に気が付いてしまったからか、美月の中には不安と恐怖が大きくなっていきます。

 このままジャンヌダルクに乗って戦えるのか? 無理だ戦えるはずがないと美月は気が付いていたのです。

 寧ろ今までが異常だったのです。

 思えば治療の時も戦場だった場所を通って治療をするという事は悪魔乗りになる前にも何回かありました。

 もしかしたら、天使に襲われていたかもしれないのに……。

 そう思うと不安と恐怖はどんどん大きくなっていきます。


 自分がこんなに怖いと思うなんてと感じつつ、美月はなんで急に? とも思いました。

 当然でしょう、ですが……仕方のない事なのかもしれません。

 美月は化け物と呼ばれたくなかったのです……。

 そのためには人を助ける存在でなくてはなりませんでした。

 純粋に助けたいという気持ち以上に化け物になりたくないという感情が上回っていたのです。

 

 だからこそ、周りなんて気にしていられなかったのです。

 だからこそ、それが麻薬や麻酔の代わりとなり恐怖を押さえつけていたのでしょう。


 ですが、今は違います。

 ここには美月を化け物と呼ぶ人は少ないです。

 寧ろ希望だと呼んでくれた人さえいます……彼女にとってようやく見つけた安心できる場所です。

 そんな中で今まで押さえつけてきた恐怖を知ったのです。

 当然、少女でもある美月にそれを普通に抑え込む事は難しいのです。


「…………」


 顔は青くなり、身体は震え、歯はカチカチとなり……。

 喉の奥がカラカラです。

 怖い、怖い……そう思うとすぐにでもその場にうずくまってしまいそうでした。

 ですが、なんとかそれを押さえつつ、美月は自分の部屋へと辿り着きました。

 母に何かを言われた気がしますが、分かりません。

 当然、綾乃達がついて来ている事にも気が付かず。

 部屋の中へと入ると崩れるようにその場に座り込んでしまいました。


「美月……」


 綾乃は心配そうに美月の傍へと座り彼女の肩へと手を添えます。

 すると美月はびくりと身体を震わせ……ようやく彼女の方へとその顔を向けました。

 そして……。


「綾乃……ちゃん……私、私」


 大粒の涙を流し始めました。

 今まで押さえつけていた恐怖はどうやって抑えていたのか分からないほど大きかったのです。


 今、美月の中にあるのは純粋な恐怖。

 声は震え……不安と恐怖で胸締め付けられ……身体はガクガクと震えます。


「メイユエ! しっかりして!」


 ですが、そんな恐怖に打ち勝っているのでしょうリンチュンは美月を励ますようにそう言ったつもりでした。


「しっかり……しっかりって?」


 美月はリンチュンの言葉を繰り返し彼女へと目を向けます。

 その瞳は生気が無く、最早戦う意志も見て取れませんでした。

 それを見たリンチュンは口元を押さえ、美月から目を逸らします。


「……リンちゃん、しっかりって……なに?」


 ですが、美月はそんな彼女に質問を投げかけます。

 その声にも覇気はありません。

 小さな小さな声でもほんの少し前には彼女の意志がこもっていました。

 ですが、今はそれが無いのです……。

 ただの少女……そう、ただの少女が天使と戦っていたのです。

 綾乃の様に最初から戦う意志があった訳ではありません。

 リンチュンの様に最初から選ばれていた訳でもありません。

 美月は……偶然にもマナ・イービルを動かせる魔力を持ち、実際の戦闘で戦果を挙げた。

 実際に書類にはサインしている以上、巻き込まれただけとは言えません。

 自分で戦うと決めたのだから、そう言われても仕方が無いでしょう。


 それでも二人と美月は違ったのです……。


「ねぇ……綾乃ちゃん……」


 すっかりと変わり果てた少女を見て綾乃は……美月を抱き寄せました。


「だ、大丈夫だよ、分かった父さんにかけあってみる」


 ニュースでの心無い言葉、それを気にかけていた綾乃ですが、これは……予想外の出来事でした。

 ですが、今の美月を戦場に向かわせることはできない。

 そう考えたのでしょう……。


「美月はもう戦わなくていいから、ね?」


 優しい声はその部屋に響き……美月は綾乃にしがみ付きながら涙を流すのでした。

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