40話 食事をする少女
翌日の訓練。
それを見守る美月は素直に感心すると同時にやはり不安を感じました。
綾乃はやはり前へと出る癖があるようです。
いつか死ぬのでは? そんな事を考えてしまう美月。
それはリンチュン達も感じていた様で……。
二人の少女は綾乃に約束を取り付けるのでした。
「あ、ああああの!?」
その場所に向かう中、美月は綾乃が何処に案内しているかに気が付きました。
思わず声をかけてしまいます。
「何? どうかしたの?」
綾乃は振り返ると笑みを見せてくれました。
ですが、美月はそれどころではありません。
「こ、この先って、良いの!?」
彼女がそう言うのも無理はありません。
リンチュンもその先に何があるか気が付いたようで……。
「だって、この先!」
と口にします。
「でも他にある? それに父さんには許可貰ってるし」
とあっけらかんと答える綾乃。
確かに許可を貰えるのは綾乃ぐらいなものです。
何故ならその場所は――。
「それにさ、美月達ちゃんと食事してないでしょ? 何時も残さないように貰う量を少なくしてるけどちゃんと食べた方が良いよ、それもあって管理室に向かってるの」
と綾乃は心配そうに口にします。
管理室とはその名の通り施設の管理をするための部屋。
そして、指示をするための部屋でもあります。
その為、緊急時に備え普段のニュースは切られているのです。
「でも……」
管理室にも働いている人が居ます。
彼らは交代で休暇、休憩を得るようにしていますが基本的に仕事中は部屋の中。
今頃は食事をしている事でしょう。
ですが美月は食事中も仕事をしていると考えており自分達が行っても邪魔になる。
そう思っていました。
「でも、も何も無い! 私の事心配してくれたように私は二人を心配してるの! ちゃんとご飯食べよ!」
と笑う綾乃は足を進めました。
美月達は立ち止まりますが、振り返った綾乃に急かされおずおずと足を進めます。
「ほ、本当に大丈夫、かな……」
「わ、分からない」
二人はそんな会話をしながら綾乃の後を追うのでした。
「おっ! 綾乃ちゃんいらっしゃい」
部屋の中へと入ると女性が笑顔で迎え入れてくれました。
その声は聞いた事があります。
いつも出撃時に聞いていたオペレーターさんの声です。
彼女は美月達に気が付くと……。
「ほら早く、食事の準備は出来てますよ」
と柔らかな声で言ってくれました。
美月達は部屋の中へと入ると隅っこの方に置かれたテーブルへと案内されます。
隅っこと言っても決して狭くはなく、無理やり用意した様子はありません。
「長居は出来ないけどそれでも向こうよりはちゃんと食事が出来るはずですよ」
と言われるのが早いのかそれとも美月が良い匂いに釣られてお腹が鳴るのが早かったのか、それとも匂いより先に訴えてきたのか分かりませんが……。
部屋の中にはぐぅーと言う音が響きます。
美月は顔を赤くしながら久しぶりにお腹が空いたと感じました。
用意されているものはいつも通りの物で質素と言っても良いでしょう。
ですが士気を下げない為、味は申し分ありません。
席へと着いた三人は食事へと手を付けます。
少し野菜が入ったスープは程よい塩気があり食欲を刺激し、パンは硬いですが、スープと一緒に食べれは特に気になりません。
もくもくと食べる美月達を見て先程の女性はクスリと笑みをこぼしました。
「な、なに?」
綾乃が首を傾げ訊ねると彼女は……。
「何でもないよ、ただ……妹達を思い出しただけ」
彼女はそう言うとどこか遠くを見つめるようにしていました。
「……あ」
それに気が付いた綾乃は黙り込み。
美月もまた理由を悟り、食事を進める手を止めます。
この施設に居る殆どの人間に言える事ですが……いえ、この世界に住む人間に言える事と言っても過言ではないでしょう。
何らかの被害を天使から受けています。
被害者じゃない人を探す方が難しいのです。
「ほら、ちゃんと食べないと駄目ですよ?」
笑みを浮かべた女性の名は名札で分かりました。
彼女の名前は明智望……。
「ちゃんと食べないと、貴女達は悪魔乗りなんですから」
それが意味する事は以前では天使と戦い死ぬという意味でした。
ですが、今は違います。
「世間ではああ言ってますけど、実際に希望を見出したのは……」
その優しい瞳は美月へと向けられました。
そして、微笑んだ彼女は……。
「夜空美月さん、貴女ですよ……だから、絶対に無理はしないでください。私が引けと言ったら引いてください」
彼女は美月の事を心配してくれているのでしょう。
暖かい言葉に美月は知らず知らずの内に涙を流していました。
「あ、あれ?」
泣きたい訳じゃない。
そう思っていた美月ですが、涙が流れている事に気が付くと不安が膨らみ……声を上げ泣き始めます。
最初にイービルに乗って感じていた恐怖。
それ以降ずっと抑えて来ていたのです……人が死ぬのは当然怖いと思ってはいましたが、自分自身が傷つくことを恐れるのを無意識の内に……。
ずっと抑え込んでいた少女は……望の言葉で刺激をされ、ようやくその恐怖を理解したのです。




