39話 ナルカミを見る少女
綾乃のイービルナルカミ。
その起動テストの立ち合いをした美月。
不安を感じる中、無事起動は終了したのでした。
綾乃のナルカミの訓練は翌日も続きます。
話通り外での訓練です。
「これで……こう!!」
ナルカミは大型アンチマテリアルライフルを構え天使を模した的へと銃弾を叩きこみます。
大きな音と共に放たれたそれは的を撃ち抜くどころか破壊し吹き飛ばしました。
威力だけで言えば恐らく日本の中では一番高火力な物でしょう。
「よしっと!!」
見事に撃ち抜いた綾乃は思わずそう叫び、それを見ていた美月達にも聞こえます。
「凄い……」
それは素直な感想でした。
アサルトライフルとは全く違う威力。
ですが、アンチマテリアルライフルでは装填には時間が掛かるようです。
「次!!」
ですが綾乃はそんな事を気にした様子はなく、大きな剣を握り振り下ろします。
確かに、あの大きな武器を振り回しても壊れる様子はありません。
勇猛果敢ともいえる立ち回りを見せる綾乃。
そんな彼女を見てリンチュンは感心したような声を出しますが、美月は不安で不安でしょうがありませんでした。
「…………」
確かに強い機体です。
今までのイービルとはかけ離れた性能です。
「でも……」
それはここに来てまだ短い美月にも分かるほどでした。
ですが、美月が不安に思う理由はやはり綾乃にあったのです。
シュミレーター同様前に出る綾乃。
それはどこか焦っているようにも見えました。
だからこそ、美月は怖いのです。
何時か綾乃が死ぬのではないか? と……。
訓練は綾乃の判断で進んでいきます。
この訓練で求められるのは冷静さや実際の機体に乗りどう立ち回れるか? という事です。
ですが……。
「危ないな」
新谷も呟いたとおり……訓練が終わると共に綾乃は注意をされたのでした。
そして、それが終わると共に綾乃は頬を膨らませ椅子に座っています。
「あ、綾乃ちゃん」
美月は彼女に声をかけました。
ですが……。
「何がいけないの!?」
と呟くだけ……。
「あ、綾乃ちゃん」
「美月だってそう思うでしょ!!」
ですが美月を無視している訳ではなさそうです。
彼女は美月の方へと向くと大きな声で同意を求めました。
「そう思う……て?」
「天使は敵! 倒さなきゃいけない! でも私達は天使より弱い、なら強力な武器で倒すしかない! 違う!?」
確かに言っている事は美月にも分かります。
事実そう考えたからこそ、マナイービルは勿論、ナルカミの様な機体が作られたのでしょう。
「違わない、だけど死んだら意味ない」
しかし、リンチュンはそう言います。
「そう、だね……私もそう思う」
美月はリンチュンの言葉に同意しました。
すると綾乃は何も言えなくなってしまったのか黙ってしまいました。
「私はいやだよ? 綾乃ちゃんと……喋れなくなるの……」
ですが、美月は不安を口にし、その瞳に涙を溜めます。
すると綾乃は――。
「だ、だいじょーぶ! 死ぬ気は無いし、いざって時は逃げるってあったりまえじゃん!!」
と言いますが、やはりどこか不安です。
練習でも無茶を続けているのに本番で変えるという事は出来るのでしょうか?
少なくとも美月は訓練を積んでいるのにも関わらず、新谷が死んだと思った時は思い通りに動く事は出来ませんでした。
「そんな不安そうな顔しないでよー」
と綾乃は笑いますが、美月とリンチュンは顔を合わせ……。
その不安そうな表情で互いに見つめ合います。
そんな二人を見て大きく溜息をついた綾乃は――。
「分かった、分かったって……絶対にしない、約束する」
「本当!? 絶対だよ!」
「や、約束……だから、ね?」
綾乃の言葉に反応した二人。
彼女達に若干気圧されつつも綾乃は頷きます。
それを見た美月達はようやく少し安心したのかほっと息をつきました。
「約束……」
そして、美月は念を押すようにそう呟くと、綾乃はやれやれと言ったような表情を浮かべました。
「分かった、約束ね?」
そしてそう言うと、美月の手を握るのでした。
突然の事に驚いた美月でしたが、よく見てみるともう片方の手はリンチュンに繋がれています。
「じゃ、美味しい物食べにいこっか?」
そう言えば、もうお昼の時間です。
数日前ならある意味憂鬱ではありましたが、楽しみだったその時間も今では辛い時間です。
「実はさ……あのニュース酷過ぎるし私達は別の部屋で食事を取って良いって……」
「でも……」
美月は綾乃の言葉に疑問を感じました。
食事の際ニュースは施設の中何処でも聞かされます。
聞かないで済む部屋などないはずでした。
ですが……綾乃は片目をつぶると微笑み。
「探したらさ実は一つだけあったんだよねー重要な連絡が来た時に邪魔になったらいけない部屋が……」
そう言うと二人の手を離し……歩き始めました。
美月とリンチュンは再び顔を合わせると首を傾げつつ、歩いて行く綾乃の後を追って行くのでした。




