36話 責められ、守られる少女
綾乃の部屋で何が起きたかを話す美月。
途中綾乃に勘違いをされた様だが、なんとか事実を伝えると――。
彼女の言葉によりそれが恋によるものだと知るのだった。
美月が起きてから早くも3日、彼女は今まで通りの日常を過ごしていました。
幸いなことに天使の襲撃は無かったのです。
ですが、ニュースでは彼女とリンチュンの話ばかり。
それは良いニュースではなく、施設に居る人々も嫌気がさしているのでしょう。
ニュースが流れる旅に溜息をついています。
「まただよ……」
「いい気なもんだな、あの子達が居なければもっと被害が広がってた」
戦場を知る人々はニュースに文句を言いますが、それも仕方が無いでしょう。
現実とは非情です。
生きて帰って来られただけでも幸運なのです。
ましてや悪魔乗りは数が限られています。
なのに……ニュースではちゃんと戦えだの、中国の赤い機体はパクリだのと言うものばかり。
「どこがパクりだ……ジャンヌダルクと斉天大聖はコンセプトがまるで違うだろう」
「っ!?」
そう言って食事を持ってきた新谷は美月達の横へと座ります。
美月は慌てて顔を逸らしますが、新谷はそんな彼女の様子には気が付いていませんでした。
「なぁ? リンちゃん」
そして暗い顔をしたリンチュンへと声をかけました。
「……あ」
ニュースの言葉に堪えているのでしょう彼女は食事をまともに取れていませんでした。
「変えれないの?」
それを見ていた綾乃はこの3日間……いえ、数日間で何度口に下か分からない事を言いました。
「今はテレビ局も少なくなってる、チャンネルを変えたいとは思うが、何処も同じだ」
「だったら消せばいいじゃん!」
そうは言いますがそうもいかないのです。
何故なら……。
「テレビと施設内放送で使ってるスピーカー、ディスプレイは同じものだし、片方を切ればどっちも切れてしまう、だから嫌でも切れないんだよ」
「あーもう! なんでそんな面倒な仕様になってるの!!」
彼女が憤るのも分かります。
事実ニュースは見ても見なくてもいい物のはずです。
なのにここでは強制的に聞かなければならない時間があります。
それが食事の際に流れるものです。
緊急時であればニュースは自動で切れ放送が入りますが……そうでない限り嫌でも耳にするしかないのです。
その理由は……。
「仕方ないですませたくない、だけど、国家予算を使って今までは何の進展も無かったんだ……これは国の嫌味なんだよ」
そう、これは新谷の言った通り国の嫌味。
「…………」
「あ、綾乃ちゃん……」
綾乃は頬を膨らませ怒っている様です。
だったら、辞めてしまったらよかったのにとは言えないのでしょう。
「国一つじゃなく世界でやっている一大プロジェクトだ、だが……通常のイービルでも天使の何度かは撃退をしてきた他国と違い、日本では武器開発が遅れていた……その理由はジャンヌダルクだ」
彼はそう言うと美月へと目を向けます。
「強力な魔法を使うための設備、装備……それに費用を喰われていた。だが、それでもやらなければいけなかった……そうじゃなきゃ他国と同じように物資や装備に金を費やして出来るのが撃退が関の山だ、撃破じゃない……当然兵は疲弊する。いずれこちらが負けるだけだ」
「だから……魔法を使う機体に力を?」
頷く新谷でしたが、美月は疑問でした。
武器や兵器の開発……この場合は機体開発と言った方が良いでしょうか?
それも大事ですが、現状を維持するのも大事です。
ですが、日本はまともに天使を撃退する事も出来ないのに機体開発をしていた訳です。
確かに日本は島国で弾薬などは仕入れています。
当然世界で使われているので少しは安くなってるとは言え、買い物をしなければならないという事はお金が必要です。
その上、日本が他国同様に戦えばそれだけ資金が無くなっていきます。
ですがマナイービルが完成したら?
そして、そのイービルに乗る魔法使いが居たら?
魔法は弾薬を必要としていません。
ならその分の資金は浮く。
そう考えたのでしょうか? 美月がそう疑問に思っていると……。
「日本は武器を海外に頼るしかないからな……自国で賄えない分、魔法に頼ったんだ」
と答えてくれました。
どうやら美月の考えた事は外れではないようです。
「魔法は装置さえ作っちゃえば後は悪魔乗りだけって考えたんだよね。でも実際はそんなに甘くなかった」
続いて言葉を続けるのは完成してからの事を知る綾乃です。
「どういうことだ?」
そこからは新谷は知らないのでしょう。
実際の事を言う訳にもいかず綾乃は溜息をつくと……。
「完成間近になって悪魔乗りが居なかった……ようやく見つけてきた人も駄目、つまり、ジャンヌは乗る人を選ぶ機体ってこと」
そう言うと彼女は美月の方へと目を向けました。
美月は前にも聞いた事とは言え、少し複雑な気持ちになりました。
自分以外が乗ればきっと役に立つはずだと……。
「完成間近?」
そんな時、リンチュンが首を傾げます。
「おかしい! だって聞いた話――むぐぅ!?」
綾乃はなにか気が付いたように慌てて彼女の口を塞ぎ――。
「どうしたんだ?」
新谷の質問に彼女は。
「な、なんでもない! なんでもないから!!」
と言ってその顔を引きつらせ笑うのでした。




