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35話 恋を知る少女

 隊長が戻った美月はすぐに新谷の元へと向かった。

 だが、そこでは楽しそうに話す声が聞こえ……。

 美月はその場から逃げてしまう。

 そして、彼女は何故か心が痛いと思い泣いてしまうのだった。

「それで……なんで泣いてたの?」


 ベッドを椅子代わりにして座る綾乃と美月。

 美月が泣き終わり、鼻をすする音が聞こえる部屋で綾乃は質問をしました。

 そう聞かれても美月自身、何故泣いていたのかが分かりません。

 ただ分かることは……。


「新谷、さんの……」

「新谷さん?」


 美月の言葉に首を傾げる綾乃。

 彼女は眉を歪め何かを口にしようとしましたが、すぐに口を閉ざしました。

 美月の言葉を待ってくれるつもりなのでしょう。


「部屋に行ったら……」


 ゆっくりと紡がれる彼女の言葉に綾乃は心中穏やかではいられませんでした。

 部屋に行ったと聞いた時からそわそわとしはじめたのです。

 ですが、まだ何も聞かず、口を挟まず我慢します。

 それは美月には気が付けなかった事ですが、もし誰かがこの部屋に居たのなら……綾乃を見てどうしたのだろう? と気になった事でしょう。


「東坂さんが居て、その……仲良く……」


 そこまで口にした美月。

 すると綾乃はそわそわとした態度を止め見る見るうちに赤くなっていきます。


「な、ななななな仲良く!?」


 そして、明らかに動揺をし、それを隠すことなく美月の肩を掴みます。


「きゃ!?」


 いきなりの事で可愛らしい悲鳴を上げた美月はそこでようやく綾乃がおかしい事に気が付きました。

 顔が真っ赤で目があっちこっちに泳いでいるのです。


「あ、綾乃……ちゃん?」

「な、仲良くってそれを見たの!? って言うか新谷さん今病室だよね!?」


 彼女の言葉にこくこくと頷く美月。

 明らかに態度を変えた綾乃に困惑しますが、顔が赤くなっている事から「もしかして綾乃ちゃんも新谷さんが?」と考えると再び胸がチクリと痛くなりました。

 ですが、綾乃はそんな美月の考えを知るはずがありません。


「あ、あの変態……自室ならってそれでも美月が来てたら……美月辛かったね、変な物見ちゃったね……と、とにかく父さんに言いつけて!!」

「え? え?」


 変な物? と首を傾げる美月。

 そこでようやく綾乃が何かは分かりませんが、勘違いをしている事に気が付いた美月は大慌てで彼女を止めます。


「ち、違うの、綾乃ちゃん……その仲良く話してたところを見て」

「………………へ? ………………っ!?」


 美月の言葉に首を傾げた綾乃は呆けていましたが、すぐにその赤い顔を更に赤く変えていきます、まるでゆでだこの様です。

 そして、声にならない悲鳴を上げ……。


「綾乃ちゃん?」


 美月はおかしくなった彼女へと心配そうに声をかけます。


「そ、それでどうしたの?」


 綾乃は何とかそう聞いてきました。

 美月は綾乃の事が気になりましたが……。


「良く分からない、でも……二人を見てたら胸が苦しくなって……」


 と、正直に答えるのでした。

 すると綾乃は金槌で頭を叩かれたかのような衝撃を受けます。

 がっくりと項垂れた彼女に対し美月はおろおろとしはじめますが……。


「ひ、人の事をしかもそう言った事を何か文句言いたくないってゆーかさ、まぁ、そういった、うん……のは何時どうやってなるかなんて分からないけどさ……」


 勿体ぶる彼女に対し美月は首を傾げます。

 ですが、綾乃は大きく溜息をつくだけで何も答えてくれません。

 美月は自分が何かおかしかったのかな? と不安になりました。

 すると――。


「それで、新谷さんの事が好きなのは分かったけど、東坂さんが居てショックだったと」

「す、すすす!?」


 勿体ぶった割にはさらりと言われた言葉に美月は思わず狼狽しました。

 違う! と口にしたかったのですが、それを口にしてはいけない気にもなり、彼女は思わず黙り込んでしまったのです。


「~~~~」


 そして顔を真っ赤にしてしまう美月。

 それはもう図星だと言ってもおかしくはありません。

 ですが、美月はようやく自分がなぜ苦しかったのかを理解しました。

 もし、綾乃が言っている事が本当だったら……というのが条件ですが、それは美月自身なんとなく実感してしまったのです。


 護ってくれると言ってくれた事。

 そして、実際に率先し戦ってくれた事。

 力を使った時に褒めてくれた事。

 そして、練習や訓練授業、仲間であり、講師として付き合ってくれた事。


 この施設の中で彼を過ごした日々を思い出すと胸が熱くなりました。

 ですが、ついこの前彼は死にかけた。

 それを思い出すとぞっとするという言葉だけでは言い表せない不安が美月を襲いました。

 もしかしたらもう会えなかった。

 そう考えるだけで怖いのです。

 それが恋心によるものだと断言できるかは分かりません。


 なぜなら、そうなっていたのが綾乃だったとしても美月は怖かったでしょう。

 ですが、新谷の事を考えると胸があるくなるのも本当です。


「…………顔赤らめちゃって……あのさ、美月? そういう顔を他の人特に好きな人以外に見せちゃだめだからね!」

「え? ど、どういう顔?」


 美月は綾乃へと問いますが、綾乃は顔を赤くし……。


「とにかく! 今の美月は可愛いのに拍車がかかってんの! だから、変な虫がつくかもしれないから絶対に見せちゃダメ!」

「え? わ、私可愛く何て……」


 美月は思わず反論をしますが、綾乃は彼女の唇に人差し指を当てて……。


「絶対にダメだからね!」

「は、はい……」


 美月は彼女の迫力に負け、頷くしかありませんでした。

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