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33話 苦悩する少女

 美月が起きると其処には綾乃が居た。

 彼女の話では美月は三日間起きなかったという。

 美月は被害を聞き、自分より相応しい人物がいるのでは? と考えた。

 しかし、綾乃はジャンヌダルクは美月の為のイービルだと言うのだった。

 その日の夜。

 療養室で休む美月は考え事をしていました。

 美月が綾乃を治すために病院に通っていた頃、既に起きていたという綾乃。

 それが本当なのか分かりません。

 もしかしたら、自信を失っていた美月を励ますための嘘だったのかもしれません。


「でも……」


 もしかしたら、自分はあのイービルに乗る事を最初から望まれていた。

 そう思うだけで……少し楽になりました。

 ですが、世間ではそうではありません。

 日中に聞いたニュースでは前回の一件はまぐれだったと言われるだけならまだましです。

 被害は変わらず、死傷者多数。

 やはり意味のない物で、何故悪魔乗りである美月は天使撃退後人を癒さなかったのか……。

 実際には気を失っているのですから癒す事は出来なかったのですが、世間は関係ありません。

 更には赤いイービルが中国の物だと知るとパクリだのなんだのと言う言葉をニュースでも……。

 綾乃の言った通りでした。


 それを聞く度に美月の中で不安は大きくなっていきます。

 このままイービルに乗って良いのだろうか? それで天使を倒せないのなら意味はないのではないか?

 拒否した所で美月は軍属……処罰が待っています。

 逃げ道などない彼女は……苦悩し……涙で布団を濡らします。

 怖いという感情はあります。

 ですが、それ以上に……。


「なんで、なんで……」


 今回は目の前で死ぬという事はありませんでした。


「なんで……人は簡単に……」


 ですが、美月は知っています。

 人はあっけなく命を失う……綾乃を助けようとしてくれた看護師さんは……助けに来たところでその命を失いました。

 もし彼女が外に出ていれば……たった一つの選択で命は無くなってしまったのです。

 今回も新谷は死んでいたはずです。

 ですが、どうやったのかは分かりませんが何かをして新谷は生き残っていました。

 それも、たった数秒対処が遅れただけで彼もまた、死んでいたでしょう。

 そう考えると……美月は自分にはなにも護れないのではないか?

 自分の力なんて無力じゃないか?

 そんな不安が生まれていました。


「どうしたら……」


 事実、その無力さをニュースは訴えてきました。

 魔法を使って気を失う。

 そんな事今までなかったはずです……病院での一件以来でも今日が初めてでした。

 恐らくはタガが外れ、実力以上の魔法を使ったのが原因でしょう。

 ですが、本人にその自覚は無く……。


「どうすればいいの……?」


 不安への回答は誰も答えてはくれません。

 虚しくも小さな声で出されたその問いは部屋の中へと消えて行きました。




 美月が起きてから二日目、彼女の元に心配そうな顔のリンチュンが姿を見せます。


「おはよう」


 美月はか細い声で彼女に声をかけました。

 するとリンチュンはほっとした様で……。


「良かった」


 笑みを浮かべます。

 ですが、すぐに険しい表情になり……。


「メイユエ……何で戦わなかったの?」

「……え?」


 どうやら怒っている様です。

 ですが、美月は一応は戦っていたと自覚はしていました。

 魔法だって使ったはずです。


「メイユエは死にかけてた。もしあのままだったら死んでた」

「で、でも魔法は……使った……よ?」


 美月も辛うじてではありましたが、しっかりと覚えていました。

 確かに風を起こし戦ったはずです。

 なのにリンチュンは首を振ります。


「あんなの戦いじゃない、子供が泣き叫んで暴れただけ……」


 その表現は分かりやすい物でした。


「メイユエは仲間が死んだら、戦わないの?」

「……だって、目の前で守れなくて……」


 小さな小さな声で訴えに対し答える美月。

 ですが、リンチュンは――。


「仲間が死ぬのは怖い、辛い……でも、それで死んだら人は守れない」

「……そ、それは」


 リンチュンの言う事は当然でした。

 美月があの場ですべきことは新谷が死んだと思った時には天使としっかりと対峙し住民の避難が出来るよう時間を稼ぐべきでした。

 冷静であれば苦戦は強いられてもそれは出来たでしょう。

 ましてや、途中からリンチュンの援護もあったはずです。


「斉天大聖、メイユエを守る為にちょっと壊れた……今直してる……」

「――っ」


 赤い機体はパクりという不名誉な称号を送られただけではなく壊れていた。

 その事実を聞いた美月は申し訳ない気持ちになり頭を下げますが……。


「メイユエ……私心配だよ……そのままじゃ本当に死んじゃうよ?」


 彼女は自分の機体の事よりも美月の事を心配してくれていたのでした。


「機械は直せる……でも死んだら魔法でも治せない……怪我を治せても生き返らない!」


 その瞳に大粒の涙を浮かべた少女は――。


「だからちゃんと戦って!!」


 叫ぶように美月に言い、その場でぜぇぜぇと息を切らすのでした。

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