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3話 心優しき少女

 いつも通りの日常。

 そんな中の学校の帰り道、美月は空を飛ぶイービルを見かけた。

 天使(アンゼル)が出たのだろうと察したが、警報は出されていない。

 彼女はもう一度綾乃の元へと向かった。

 しかし、その先で彼女は天使の襲撃に遭うのだった。

『日本、関東首都部02にお住まいの方はシェルターへの避難を最優先にしてください!』


 早口、それも悲鳴にも似た女性の声が放送で流されます。

 病院の中は阿鼻叫喚。

 逃げていく人に声をかけようとしますが、美月は先程の事を思い出し、声が出ませんでした。

 助けて! そう言わなければ何も変わりません。

 ですが、誰も助けてくれない……そんな風に思ってしまったのです。


「お嬢ちゃん、早くお逃げ……貴女だけなら……」


 その様子は助けたはずの老婆にも伝わってしまったのでしょう。

 美月を気遣ってくれる彼女の言葉を聞き、美月は――。


「で、できない……」


 消え入りそうな声でそう呟きました。


「良いんだよ、こんなお婆ちゃんを助けてくれて、ありがとうね……」


 冷たい手に握られた美月は彼女を見つめます。

 優しそうな瞳の所為か、その場からは動く事は出来ませんでした。

 いえ、違うのです美月には老婆を見捨てられないだけではなく、此処に居なければならない理由が他にもあるのです。


「ここには姫川さんも!」


 そう、病院には姫川綾乃が居ます。

 それも意識を失って……逃げれられるはずがありません。


「――まだ」


 まだ、ちゃんとありがとうって言ってない。


 先ほど口にしたからでしょうか? 普段そんな事を気にする事も無いのにお礼を告げる事に執着した美月。

 そんな中――誰も助けず我先にと逃げていく人々は数を減らしていき……。

 その場には取り残されたものの悲鳴と私怨を含んだ叫びが響き渡ります。


「………………こんなの」


 酷過ぎる。

 手を貸してくれる人が多ければ、こんな事にならなかった。

 そう思いながらも美月は辺りを見回します。

 すると――。


「――あ」


 美月が先程まで居た病室からよたよたと一人の少女が歩いてきました。

 彼女は美月を見つけると微笑み、ぐらりとその身体を揺らし倒れてしまいます。


「姫川さん!」


 慌てて声をかけ、老婆にすみませんと一言告げた美月は姫川綾乃の元へと駆け寄るのですが、その次の瞬間。

 建物は大きく揺れ、ひびが入り――。


「――ひっ!?」


 当たりに響く悲鳴は更に大きくなっていきます。


 このまま――死ぬ?

 私だけじゃない――皆、あのお婆ちゃんも、助けてくれた姫川さんも……皆、皆?


「美月ちゃん! 早くこっちに! タンカを――」


 そんな揺れる建物の中、聞こえた声は受付に居た看護師。

 彼女は美月がまだ建物に居ると信じ、人を運び出せるようにタンカを持ってきてくれたようです……ですが、もう――。


「きゃぁぁ!?」


 揺れに耐えることが出来ずにタンカを手放した彼女は倒れ、それを狙ったかのように壁は崩れます……。

 やけにゆっくりと移ったその光景。

 美月達の周りの壁もひびが入り……。


「――はっ……は、はっ……」


 この後に続く結果などはすぐに分かり、美月は瞳に涙を溜めると――。

 ――――お母さん!


 母の顔を思い浮かべ頭を守る様に丸まります。

 すると、誰かに覆いかぶさられ――。


「姫……川……さん?」


 また彼女に守られているのだと気が付いた美月は――。


 駄目、駄目……助けようとしたのに! このまま、じゃ……姫川さんが……皆が……!!


「――ダメェェェェェェェェェェェ!!」


 見開いた瞳をぎゅっと閉じ、手で頭を抱えたまま今まで出したことも無い大きな声で叫びました。








「ぅぅ……」


 美月は頭を押さえながら気を失っていたようです。

 ですが、自分死んだと思っていた彼女は揺れが収まった事に気が付くのが遅れました。

 辺りを見回してみると、皆倒れています。


「――!」


 美月は慌てて老婆と綾乃、そして看護師を探しますが、綾乃はすぐ隣に……老婆は少し離れた場所に……倒れています。

 見た所酷いけがはなさそうです。

 そして、看護師をもう一度探しますが……。


「……あ……」


 彼女はようやく先程の事を思い出し崩れた壁の方へと目を向けてしまいました。

 美月が見た者は赤い液体と真っ直ぐと伸びた腕だけ。

 その先には瓦礫が積み重なり、何が起きたのかは一目瞭然でした。


「…………あぁぁああぁぁ?」


 ですが、美月はよろよろとそちらへと近づき、伸ばされた手を握ります。


「あ、あの……」


 声をかけても返事が返ってくる訳がありません。

 彼女はもう、死んでいるのですから。

 美月はその事実を確信すると途端に胃から押し上げてくる物を感じ口元を押さえます。

 ですが耐えることが出来ず……せめてと少し離れた所で口に流れ込んできたそれを外へと吐き出しました。


「うぇぇぇ……げほっげほっ……はっ……はっ、はっ」


 そして、なんとか落ち着いた時口元を拭った彼女はふらふらと窓の方へと近づきました。


「な、なにこれ……」


 そこに広がっていたのは先程まで街があったとは思えないほどの広大な廃墟。

 良く見てみると歩いている人が居る事から察するにシェルターに逃げたのか何人かは難を逃れたようですが、何故か美月が居る病院だけは無事なのです。

 どうして?

 そう疑問に思う美月は――。


「っ!? 痛い……痛い! 痛い、痛いよ……」


 激しい頭痛に襲われその場に(うずくま)り悶えます。


「――――っ!!」


 やがて痛いという言葉さえ発することは難しくなり、呼吸も荒く変え――。


「――かっ……はっ!? ひゅ、ひゅーひゅー……ひゅ……っ」


 荒くなった呼吸さえ続けることが困難になった彼女は倒れ再び意識を失うのでした。

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