27話 不安を感じた少女
美月は非日常へと入り込んだ。
しかし非日常も慣れてしまえばただの日常だ。
3人の少女はそんな日常を送っているのだった。
「夜空ちゃん! 後ろに下がり過ぎだ、そこだと有効射程外!!」
「は、はぃ」
食事が終わるといつも通り訓練です。
コクピットを模したそれで仮想イービルに乗った美月は新谷の声に反応し、自身の機体を前へと動かします。
「綾乃ちゃんは前へ出すぎだ!!」
「良いじゃんっ!!」
新谷の注意を聞き、素直に従う美月と文句を言う綾乃。
正反対の彼女達はその後も新谷に注意をされ訓練を進めていきます。
そして……。
コクピットから出ると……。
「あのね、夜空ちゃん……武器には……」
と反省会が始まります。
ですが美月はちょっとした注意で済みました。
綾乃の方は……。
「綾乃ちゃんは死にたいのか?」
その言葉から始まります。
それはいつもの光景ではありました。
だからこそ美月はどうして姫川さんは何時も前に出るんだろう? と疑問だったのです。
今はまだ模擬ですから命に別状はありません。
なんて事にはならないのです、模擬と言ってもコクピットは揺れを精密に再現しています……。
本末転倒ですが運が悪ければそれで死んでしまうことだってあり得るのです。
美月が心配しないはずがありません。
それが綾乃の性格だから……と言っても何度も注意をされれば変わっていくだろうとも思いました。
なのに綾乃は頑なに前へと出るのをやめませんでした。
「死ぬ気も何も普通のイービルじゃ生存率は低いっしょ? なら全力で敵を倒した方が良いと思う」
その言葉を聞き美月は新谷が死にかけていた事を思い出します。
もし、あの時魔法が使えなかったら……。
使えたとしても有効な手段でなかったら……。
新谷は勿論自分もここには居なかったでしょう。
そう思うと尚更綾乃が心配になります。
「姫川さん……」
「何?」
いつもよりも不機嫌な彼女に美月はすこし怖いと感じましたが、同時に何処か悲しそうにも見え、すぐに彼女の袖をつかみます。
「…………」
そして暫くもごもごとしていると――。
「アヤノちゃん……せっかく友達になったのに死んじゃ駄目だよ!!」
リンチュンがそう綾乃に言いました。
すると綾乃はリンチュンと美月を交互に見て……大きく溜息をつきます。
「分かった分かったよ……」
それだけ言うと彼女はそっと美月の手を袖から離し……。
「……あ」
「頭冷やしてくるー」
とだけ口にし、その場から去って行ってしまいました。
美月はそんな彼女を追って行こうとし、新谷に止められます。
「あの……」
「頭を冷やすだけだろ? 追って行く必要はない」
そんな彼の言葉にリンチュンは頬を膨らませ。
「男って何処の国も分かってない!」
そう言うと新谷へと詰め寄ります。
すると新谷は顔を赤らめながら戸惑うのですが、その顔は何処かだらしがありません。
美月はそんな彼に疑問を抱きつつ隙を得られた事をリンチュンに感謝し綾乃の後を追いました。
「ちょ、ちょっと夜空ちゃん!?」
「良い? 女の子は――」
後ろではリンチュンの説教が始まったようですが、美月には関係のない事です。
ですが……。
「ご、ごめんなさい……」
そう小さな声で呟いた彼女は走り出すのでした。
どれぐらい走ったでしょうか?
歩く綾乃に追いつくことは簡単に見えてそうではありませんでした。
「はっ……ひゅ……見つ……けほっ」
美月は魔法使い……寄生虫ミュータントの影響で普通の人よりもずっと体力が無いのです。
走れば当然短い距離でも息が上がり、苦しくなってしまいます。
「……ぁ!?」
もう少しで綾乃に手が届く、そんな所まで迫っていましたが疲れて足がもつれそのまま倒れてしまいました。
当然大きな音がし、何事かと綾乃が振り返ります。
「み、美月!?」
彼女は驚いた顔で美月を起こすと服に着いたほこりを払ってくれました。
「けほっ……はぁ……はっ」
ですが、美月は転んで痛いのと走ってしまい苦しいのとでそれどころではありません。
美月の様子を見て綾乃は走ってきた事を理解したのでしょう。
「何で走ったりなんか、まさか追って来たってこと!? 駄目だよ!! 走ったりしちゃ!!」
走った事を叱る綾乃でしたが、美月は彼女の服を掴む様にし……。
「だって、姫川さんが……悲し、そう……だったから……」
そう言うと綾乃はきょとんとした後に顔を赤らめ……。
ぜぇぜぇと息をつく美月を見つめます。
「美月、今の……他の人にやったら駄目だかんね!?」
「……?」
何の事だろう、そう思いながら美月は息を整えつつ首を傾げます。
「私が男だったらここで襲ってるかもしれないって事!」
「……え?」
今だ整わない呼吸を整えるのに必死で何を言っているのか分からない美月でしたが、必死な綾乃の様子を見て何故か安堵感が生まれました。
そして、彼女の中で……綾乃への態度が変わったのでしょう。
「分かった……ひゅ……よ、はっ……ぁ……綾乃ちゃん」
と名前を呼び答えると綾乃は赤くなった顔をますます赤くし、ぷるぷると震え始めたのでした。




