26話 日常を過ごす少女
向かったハンガーには見慣れない機体があった。
その機体の名は斉天大聖。
リンチュンが乗るというマナ・イービルだという……。
その機体は不思議な事に功夫で戦うという事を知らされ驚く二人。
その秘密は魔法にあった。
その日の夜。
美月は部屋の中でゆっくりしています。
部屋と言っても小さなマンションの様で個室のトイレにお風呂、部屋が二部屋にリビングが一つと広い部屋でした。
その部屋に住むのは美月と母の二人です。
食事に関しては食堂を自由に使える為、料理をする時もそちらへと向かいます。
また、お風呂は大浴場があり、こちらは水に余裕があれば使えます、その時はゆっくりと浸かれます。
ですが、その時は人が多く時間を考えて入らないとゆっくりとは入れません。
そんな以前とは全く違った日常を送る美月は昼間の事を思い出します……。
「……赤いイービル」
彼女は考え事をしながら、ぼそりと呟きました。
真っ赤なイービルの事を思い出していたのです。
斉天大聖と名付けられているそれは美月のイービルとは全く違うものでした。
同じ魔法使いが乗る悪魔だというのに……。
「美月……?」
そんな美月を心配そうに母が見つめます。
彼女は此処に来てからずっと美月を心配していました。
当然です。
自分の子供が世界の運命を変える……そんな戦いに身を投じることになったのです。
だからと言って彼女は娘である美月を止められませんでした。
帰る家も無くなり、此処に匿ってもらっている現状。
そして、美月しか動かせないイービルが天使を撃退どころか撃墜したという事実。
それでも今すぐに美月をイービルから引き離したい。
そう思ってはいても……美月とイービルにようやく希望を見出した人々からそれを奪ってしまうのは出来ない。
そう考えていました。
何故なら彼女もまた美月に助けられた一人だからです。
美月は母の考えなど知らず、一人ボーっと考え事をしています。
すると突然襲って来た眠気にこっくり、こっくりと頭を揺らし、時折大きく揺れるとびっくりしてしまいます。
「ほら、今日も忙しかったみたいだし、もう寝なさい」
母にそう言われ美月は眠そうな目を擦ると……。
「……うん」
自分の部屋へと向かっていきます。
扉を開けて中へと入るとそこは以前と全く変わりの無い部屋。
司令官が美月に尋ね、同じ家具を用意してくれたのです。
居心地の良い場所でベッドへと潜り込んだ美月は小さく欠伸をします。
そして、抗うことなくまどろみの中へと落ちて行ました。
もう、天使と戦う事が無ければいいのに……。
そう思いつつも、自分が背負った運命の大きさにまだ慣れていない少女は……明日を迎えるのでした。
朝になるとまず食事をします。
いつも通り……それが終わったら身支度をし、授業を受けに行く……訓練をする。
いつも通り、それが今の美月の日常でした。
ですがそんな中に一人の少女が加わっています。
昨日出会った少女リンチュンです。
彼女は明るく……元気でした。
こんな世界に希望をもたらすといったら彼女の様な人を言うのではないか? と美月は考えました。
そんな中、テレビで流れるニュースは天使の襲撃と美月の話です。
何度かこの施設に訪れたキャスター達は美月に会わせろと言って来たみたいですが、それは拒否されていました。
別に機密情報と言う訳ではありません。
ただ単に美月がそういった所が苦手なだけです。
それを知っていた司令官があの手この手でマスコミを避けてくれているのです。
その度にニュースではヴェールに包まれたジャンヌダルクだの色々と口にしており、美月はそれを聞くたびに溜息をつくはめになりました。
自分はそんな偉大な人ではない。
そう考えてしまうのです。
ですが……美月は気が付きませんでしたが、ジャンヌダルクとは施設の中でも呼ばれていたのです。
本人がそう呼ばれるのを嫌っているというか、遠慮している事がすぐに分かるので誰も本人の前では言わなかったのですが……。
「あの何て言うか村娘って感じがまた……」
「ああ、綾乃ちゃんとは違った可愛らしさだよな」
以前綾乃が言った通り、美月は可愛い少女です。
人気が出るのは間違いなく……。
「この料理美味しい!」
更にもう一人美少女が加わったというのですから……。
「……目の保養だな」
「ああ……」
食堂に出れば注目の的でした。
綾乃がそういった視線を敏感に感じ取り、わざわざ離れた場所に座ってもお構いなしです。
「二人共、この施設にはハイエナが居るから気を付けた方が良いよー」
無邪気に食事の感想を言うリンチュンとニュースを見て顔を真っ赤にする美月。
綾乃はそんな二人に忠告をしますが、二人は同時に首を傾げました。
「あーいや、うん……気を付けなよ?」
そんな二人を見て不安そうに微笑む彼女は……もう一度そう告げます。
「えっとなにを?」
「姫川さん?」
ですが、綾乃の思いは全くと言って良いほど伝わっておらず。
彼女は大きなため息をつきます。
それを聞いた美月は慌てて……。
「ご、ごめんな……」
「謝んないで良いよ? ただ、うん……特に美月は気を付けてね、変な人について行かないように!」
人差し指を向けられた美月はこくこくと頷き、それを見た綾乃は「良し」と口にし微笑みました。




