22話 向かい入れる少女
少女は可愛らしい笑みを浮かべて美月へとあいさつをしてきました。
美月も慌てたように「初めまして」と返すと手を伸ばします。
「夜空美月です」
たどたどしい口調で彼女は名乗ると、うんうんとリン・チュンという少女は頷き、その手を取ってくれました。
「よろしく、メイユエ!」
「めい……ゆえ?」
そして、その後すぐに綾乃の方へと向き……。
花の様な笑みを浮かべます。
写真では釣り目で可愛らしくもきつそうな印象を受けましたが、どうやらそう言った部分は無いようです。
「もうひとり、女の子! 知らなかった!」
どうやら同年代の女の子に会えたことが嬉しかったのでしょう。
可愛らしい笑みを浮かべた彼女に綾乃は同じように笑みを浮かべました。
「私は姫川綾乃、此処の司令官の娘なんだー」
と告げます。
するとリン・チュンは驚いたような表情を浮かべます。
ですが、彼女にも握手を求めると再び笑顔になりました。
そんなやり取りを彼女達がやっている間、男達は当然のように3人の美少女に釘付けでした。
日本は幸いと言っても良いのでしょうか? 美月と綾乃の二人の少女だけでなく多くの女性がこの施設に居ます。
ですが、イービルに乗る悪魔使いは美月と綾乃だけ。
実際には綾乃のイービルはまだ完成してないみたいです。
圧倒的に少ない女性の悪魔乗りですが、女性が不利だと言う事はありません。
ですが悪魔使いは男性が目立つのです。
アメリカにはイービルに乗る凄腕の女性……それも美しい英雄が居ると言う噂があるのを男性達は知っていましたが、ここは日本で、女英雄にそう簡単に会える訳がありません。
だからこそ、可愛らしい少女が3人も集まれば注目の的です。
「いい……」
「ああ……俺、日本に居て良かった」
「尊い……」
などと言う言葉がまるで美月のようにぼそぼそと紡がれます。
それに気が付いた綾乃は彼らを睨むと……。
「ねぇ出迎えってー私達だけじゃなかったっけぇ?」
わざとらしい口調でふと思い出したようにそう言い始めました。
勿論美月は聞いた覚えがありません。
ですが、男性達はそれを聞くとどよめきだし……。
「え?」
「そ、そうだったのか!?」
などと慌て始めます。
「へぇ……連絡ー見てないんだー」
悪戯をした時の様に微笑む綾乃を見て冗談だと気が付いた美月ですが、男性達はそうではありません。
慌てて持ち場に戻り始め……。
「た、頼む! 司令官には内密で!!」
などと叫ぶ人も居ました。
ですが、綾乃は「考えとく!」と残し、美月の手を引くとリン・チュンの方へと向き直しました。
「それじゃ司令官の部屋へ取りあえず行こっか?」
と提案するのでした。
司令官の部屋へと着いた美月達。
するとリン・チュンは一歩前へと進みます。
「初めまして……リン・チュンって言います」
丁寧に挨拶をした彼女に対し、司令官は頷き。
「初めまして、ここの司令官で姫川司だ。よく来てくれた、二人を案内役にしている。彼女達にもやる事があるのでいつも一緒と言う訳ではないがよろしく頼む」
司令官はそれだけを口にすると美月達へと目を向けます。
「私はまだやることが残っている……すまないが案内を頼めないか? 何処に何があるのか把握しないままでは過ごしづらいだろう」
「「はい」」
二人は声を揃えて答えます。
するとリン・チュンは嬉しそうに微笑みました。
そして……。
「じゃぁハンガー! 日本のイービルを見たいです!」
と言うのだが……司令官は手でそれを制するような仕草をした。
「今は君の機体を搬入していたりと忙しいのでな、残念だがそれは許可できない……明日ならば許可できる」
美月達は自分の機体を見たりと割と自由にハンガーへと向かえますが、客人であるリン・チュンは違うのでしょう。
司令官が止めると彼女は頬を膨らませます。
ですが、絶対に許可できないと言われた訳ではないという事は理解したようです。
彼女は複雑そうではありましたが、首を縦に振りました。
「では、案内を頼む」
彼女の返事をしっかりと見てから司令官はそう改めて美月達に告げます。
「あ……はい」
美月はぼうっとそのやり取りを見ていた所為でしょう。
やや慌てた小さな声で答えます。
一方、綾乃は机へと近づきトントン、と指で叩くと溜息をつき――。
「見るだけなら良いっしょ?」
と言いますが、司令官は綾乃へと鋭い視線を送り、彼女は黙ってしまいました。
このまま親子喧嘩が始まるのでは? と美月はおろおろとしはじめましたが、やがてもう一度溜息が聞こえ……。
「分りました」
という綾乃の返事。
彼女は戻ってくると美月の手を取り……歩き始めます。
「それでは行ってまいります」
ですが、その声にはいつもの明るさはなく、どこか機械的な物で美月は少し怖いと思いました。
そんな二人の後を慌てたように追いかけるリン・チュンはふと何かに気が付いたように瞳を丸めると振り返り頭を下げます。
そして、すぐに彼女は2人を追い始めました。
誰も居なくなった部屋の中、一人司令官は溜息をつきます。
そして、映像を映し出すと……。
「中国の悪魔乗りか……これでマナ・イービルは2機……」
そう、呟くのでした。




