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34話 信じたい戦乙女

 車の中はまるでお通夜のようでした。

 明かされたことは事実であろうが、そうでなかろうが美月たちを戸惑わせるのには十分だったのです。

 ですがこのままではいけない。

 そう思う事は出来ました……。

 だからこそ、美月はクラリッサへと声を掛けます。


「あの……」

「どうした?」


 相変わらず荒い運転で平然と答えるクラリッサ。

 そんな彼女に対し、美月はゆっくりと口を動かします。


「もし、本当に伊達さんが綾乃ちゃんのお父さんだとして……クラリッサさんは伊達さんのところに戻したいんですか?」

「………………」


 その言葉に彼女は黙り込みます。

 どういった事を考えているのか、まるで分りませんでした。

 なぜ、あの話をしたのかさえ……。


 いくら司が人として非常識なことをしたとしても……。

 今の敵は天使達です。

 戦うためにはイービルが必要で綾乃の力も勿論外すことはできません。

 だというのに、何故彼女はわざわざ綾乃の心を乱すようなことを話したのか?

 それが理解できなかったのです。


「私には子供から親を、親から子を引き裂かれた時の気持ちは分からん……」


 ようやく口にした言葉は迷った風にも聞こえました。


「だが……それでも、奴は苦しんでいるだろう。手の届くところに血のつながった子がいるんだからな……」


 溜息をついたクラリッサは……。


「確かに、戦うだけであれば今の話はしない方が良い。だが、リスクを負っても負け犬には知らせた方が良いと思っただけだ」

「それが分からないんです」


 美月の言葉に対し、クラリッサは再びため息をつきます。


「だって、司令官は今までずっと綾乃ちゃんを育ててきたんですよ? なら、親としての……」


 考えもあるはずだ。

 美月はそう思いました。

 何よりそう思いたかったのです……。

 美月が戦う事になった時、彼は美月の気持ちを優先してくれました。

 綾乃の事も心配していました。

 それが嘘だとは考えづらかったのです。

 しかし、クラリッサは首を振り……。


「奴は死神だ……表面だけに惑わされるな……」


 そう忠告をしました。

 ですが、美月はやはり信じたくはありません。


「でも!」


 ですから、反論を試みたのですが……。

 何も思いつかず言葉を詰まらせたのでした。

 なぜなら脳裏に浮かんだのは出てくるときに見たあの表情です。

 それが恐ろしく感じ……。

 美月は黙り込んでしまったのです。


 ですが、他に戻る場所はありません。

 ましてや戦うためにはイービルが必要です。

 彼が何を考えているか分かったもんではありませんでした。

 それでも美月たちは支部へと……伊達が待っているそこへ向かうのでした。





 暫くし、支部へとついた美月達。

 そのするとハンガーで待ち受けていたのは伊達だけではありませんでした。

 司も居たのです。

 彼は笑みを浮かべていました。

 自然に笑っているように見えましたが……。

 どこか恐ろしい人にも見えたのです。


「…………おかえり」


 彼はそう言いました。

 一瞬フローレンスを睨んだようにも思えたのです。


「さぁ、休ませてあげようその子をこちらに」


 彼は部下に運ばせようとしているのでしょう。

 数名の男性が彼女へと近づきます。

 ですが――。


「ま、待ってください! 医務室には私たちが連れて行きます」


 美月は声を張り、そう口にしました。

 このまま彼に任せるのは怖い。

 そう思ったのです……いや、そう考えて当然でしょう。

 フローレンスは彼に殺されかけた。

 そう言って良いのですから……。


「……そうかい?」


 何を考えているのか分からないその表情で彼は残念そうに部下を下がらせました。

 今まで自分たちを守ってくれていたその存在が美月は今、とても恐ろしい物に見えたのです。

 気を抜けば足が……いえ、体が震えてしまいそうです。

 そんな事を考えていると……。


「ねぇ……」


 綾乃がようやく口を開くのでした。

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