20話 少女を待つ少女
勉強を終えた美月達。
彼女達は他愛のない話をしていた。
そんな時、姫川綾乃は何かを美月に伝えたいようだった……。
しかし、両名は司令官に呼び出され……話を中断すると部屋へと向かう。
そして、二人は客人をもてなすよう言い渡されるのだった。
「分りました」
「わ、わわか……わかりました」
美月と綾乃はそう答えると司令官は笑みを浮かべて頷きます。
「話は以上だ……彼女は少なくとも1週間以内には来るそうだ。それまで通常通りで頼む」
通常通りとは天使との戦いに備えつつ勉学をし、イービルの訓練もすると言う事です。
美月は頷きますが、すぐに隣にいた綾乃へと目を向けました。
先程の勉強の時も一緒でしたが、綾乃もイービルに乗る予定なのです。
それを聞いた時、美月は当然驚きました。
綾乃は魔法使いではありません。
乗るイービルは通常の物です。
ましてや日本にあるマナ・イービルは一機しかないのですからどうやったって乗る事は出来ないのです。
大丈夫なのかな?
美月が思うのはそれだけでした。
ですが、綾乃にそれを聞くことはできませんでした。
「行こう夜空」
「あ、う……うん」
1人だと不安だったからと言うのもあるでしょう。
イービルに乗るのは危ないよ……と言ってしまえばもしかしたら綾乃は乗るのを辞めてくれるかもしれない。
そう思っても美月は話を切り出せないのです。
「…………」
「どーしたの?」
知らない人ばかりの場所と言うのは慣れているはずなのに、状況が違うとこうも違うのでしょうか?
美月は知っている人である綾乃と共にいる事に何故か安堵していました。
寧ろ彼女が居なければ不安に押しつぶされそうなのです。
「ほら!」
「……ぁ」
そんな自分の気持ちに気が付けない美月はぼーっと綾乃の事を見つめていましたが、痺れを切らした彼女に手を引かれ部屋を出ます。
「………………」
繋がれた手を見て美月は友達とはこういったものなのかな? と考えました。
自分から接触は避けてきました……化け物と呼ばれるのが怖くて……。
なのに綾乃は近くに居てくれます。
そして、何処かそれが居心地が良いと美月はまだ気が付いていませんでした。
ですが心のどこかではそう感じる時があったのです。
「あら夜空さん…………」
そんな時聞きなれた声を聞き美月はびくりと反応します。
声を聞いただけで心臓はバクバクとし、危ないと告げてきました。
そう、その声の持ち主は……。
「チッ……何故貴方も一緒なんですか?」
「一緒に呼び出されたからでしょ? つーか放送聞いてないの?」
そう、看護師吉沢信乃です。
美月は彼女がどうしても苦手で怖かったのです。
何故なら彼女は美月に会う度にスマホを取り出し写真に収めようとするのです。
勿論、どんな時も……実際に着替え中の……下着の写真を撮られた事もあります。
運良く綾乃が来てくれたことでそれは消してもらえましたが……もしかしたら部屋の中に隠しカメラでもあるんじゃないか? なんて思うほどには彼女の事を警戒しています。
「聞いていましたよ、ですが一緒に帰って来るとは思いませんでした……まるで金魚の糞ですね」
明らかに馬鹿にした態度の信乃は綾乃に敵意を向けます。
ですが、綾乃は何処か勝ち誇った様な表情をし……。
「どこかの誰かのお蔭でさーなんか、夜空が私の事頼ってくれてる気がするんだよね?」
と言い始めました。
確かに美月は綾乃に頼っている部分があります。
特にこの数日間で美月は綾乃を信頼していました。
それもそうでしょう、殆ど一緒に居るだけでなく目の前の看護師が何かしないよう目を光らせて見張ってくれているのですから。
「チッ……あのまま成長してれば眼福だったのに……」
「聞こえてるけどー?」
心底残念そうな声が聞こえましたが、信乃は真顔です。
それも美月が怖がる原因の一つでした。
「とにかく、貴女は邪魔です、私は夜空さんの検診がありますので」
そう告げられると綾乃は頬を膨らませました。
そして、美月はサーっと血の気が引いて行き、口元は歪みぴくぴくとし始めます。
「け……けんしん?」
「ええ、今回は気絶や頭痛が少なかったみたいですが一応する、とお伝えしましたが?」
美月はそんな事を覚えていませんでしたが、確かに以前は魔法を使い酷い頭痛に襲われました。
ですが……。
「わ、わたし……元気……だから」
と言いますが、信乃は首を横に振り心底嬉しそうな怖い笑みを浮かべながら美月に返します。
「何かがあってからでは遅いので行きますよ?」
「ひっ!?」
手を引かれ、美月は思わず綾乃へと手を伸ばします。
「ほ、ほら美月嫌がってんしょ!?」
腕を掴まれた彼女は慌てて信乃にそう言いますが……。
「貴女は夜空さんに何かあっても良いと?」
「ぐぅ!?」
そう言われると何も言えないのでしょう、綾乃は変な声をだしました。
ですが、美月を見捨てることはできないとばかりについて来てくれるのでした。




