2話 夜空美月という名の少女
寄生虫ミュータントをその身に宿す魔法使い夜空美月。
彼女は天使の襲撃で怪我を負った姫川綾乃の治療をしに病院へと向かう。
しかし、彼女は目を覚まさない……。
明日は目を覚ますかな? そんな期待を胸に学校へと向かうのだった。
「ね、あーやどうだった!?」
学校につき席に着くなり、綾乃よりはマシとはいえ派手な少女に話しかけられた美月は思わずびくりと身体を震わせます。
おどおどとした彼女の様子を見て……。
「あ、ご、ごめん」
はっとした様子の彼女は謝罪の言葉を口にします。
それを聞き美月は――。
「あ、ええっと……あの……その、ね……?」
なんて言ったら良いのだろう? 迷う少女は言葉に出来ずにいました。
すると、少女は――。
「そっか……あーや、まだ起きないんだね……」
寂しそうな表情をした彼女に心がずきんと痛む美月。
沈黙する空気に……その場の重苦しい雰囲気に耐え切れなくなった彼女は――。
「ごめん……なさい……」
どうしたら良いのか分からず謝罪の言葉を口にします。
ですが、少女は笑顔を無理に作り。
「ああ、夜空さんの所為じゃないよ!? だって天使達が悪いんだし!」
「………………」
美月は元々性格が優しくもどちらかというと……いえ、はっきりと言っても暗い。
それに前髪の所為もあり、更に暗く見えます。
そんな彼女を見て少し……いえ、かなり困った様子の少女は溜息をつくと……。
「ね! そう暗くしてるとあーや起きたら注意されるよ!!」
ややきつい言葉遣いでそう美月に告げた後、彼女は去っていきました。
そして去っていく途中……。
「なんであーやはあんな暗い子気に掛けるの?」
そう呟いたのが美月にははっきりと聞えました。
けど、何も言えませんでした。
はっきり言って暗い自分を変えたい、そう思った事は何度かありました。
ですが、ミュータントを寄生させた人間は魔法と言う特殊な力を得ます。
母を救えた時は喜んだ美月ですが、もうすでに自分は人間ではないのではないか? と度々思うのです。
死という運命を覆した自分……それだけではなく地水火風……それらを操る自分は傍から見たら化け物ではないか? 自分でもそう思ってしまうのです。
だからこそ、人を傷つけたくないと美月は癒しの魔法しか使わない事にしました。
いえ、正しくは違います……ただただ化け物と呼ばれたくないのです。
そして、美月は人を助ける事に固執するようになったのです。
ですが、どれだけ人を助けてもどこかで化け物……そう呼ばれている気がしてどんどんと陰湿な気分になっていくのです。
「…………」
自分の殻に閉じこもりつつもそれでも化け物と呼ばれたくない。
美月はそんな自分が嫌いでした。
だからこそ……「助ける事で人に良く思われたい……そんな自分が汚くも見える」……そう心の中でいつも呟きました。
美月は席に着くと目の前の誰も居ない席を眺めます。
そこには本来、姫川綾乃が座っていたのです。
彼女だけはいつも笑みを絶やさずに声をかけてくれた。
自分が化け物であるのにそう言われず苛められないのは彼女のお蔭である事も美月は知っていました。
明るく誰とでも仲良くなる姫川綾乃……。
彼女はクラスのムードメイカーでもあり、派手な見た目とは裏腹に優しく……苛めが嫌い。
だからこそ、このクラスでは目に見えた苛めは無かったのです。
とはいえ、クラスを出てしまえば美月はただの暗い女の子。
それも、魔法使いです……。
影何度か悪口を言われた事は知っています。
それでも、クラスの皆は美月をクラスの仲間として迎え入れてくれています。
その理由はきっと自分が姫川綾乃を助けようとしているからだろう……と美月は考えつつ、同時に……。
例え意識が無くとも、姫川綾乃という少女に守られているのだと情けなくも自覚していました。
学校は終わり、美月は家に戻ります。
いつも通りの日常……ですが、平和とはとても言えないものである事は誰もが知っています。
美月が家へと歩く最中、轟音が空から鳴り響きます。
その音に驚いて空を見てみると巨大で黒い人が飛んでいきました。
「…………イービル」
それはようやく出来た天使との決戦用兵器にして鉄くずとも言われるイービル。
本来の訓練では街の上には飛ばさない約束なので恐らく天使が出たのでしょう。
ですが、美月は例え急ぎでも街に落ちたら一大事なのに……と思うのです。
事実、天使の所に辿り着く前にパイロットが気を失い、落ちたという事は何度かあります。
それでもイービルと言う危険な兵器を使う理由はあるのか?
美月は疑問に思いつつ……。
「…………16時ちょっと前……」
取り出したスマートフォンで時間を確かめます。
「避難警報は出てないし……きっと遠いんだよね、なら……ちょっと病院……行こう」
姫川綾乃の所へと向かう為に帰宅途中の足を病院へと向けるのでした。
本日二回目の面会。
美月は少女の顔を覗き込みます。
苦手な少女ではありましたが、彼女が居たお蔭で助けられたという事は事実。
「ありがとう……」
小さな声、決して届くはずもない声。
そんな声で美月はお礼を告げます。
そして、その場から去ろうとした時――。
マナーモードにしていたはずのスマフォからけたたましい音が響きます。
「え!?」
慌てて画面を見てみると其処に記されていたのは……。
「緊急避難……信号……え? え?」
天使襲来を示す言葉。
しかし、あまりにも唐突だったそれに美月は呆然とするだけでした。
やがて、外からはバタバタと言う音を立て始め。
「――!!」
美月は慌てて扉へと近づきます。
そして、扉を開けると……。
「あ……」
「た、助けて……起こして……」
慌ただしく動く人の中、一人の老婆が床に倒れているのを見つけました。
「――お婆ちゃん!」
美月はそれを目にするなり慌てて彼女の元へと近づき立たせます。
そして――。
「だれか、手を貸してこの人を――!」
慌てていた所為でしょう、いつもより大きな声が出た美月でしたが、誰も気に留めてくれません。
それどころか――。
「邪魔だ!!」
「きゃぁ!?」
若い男性は美月を押しのけるようにして走っていきます。
その後を必死に追いかける女性が居るのにもかかわらず。
「ま、まって、まってよ……!!」
必死に追いつこうとする女性ですが足を怪我していて、走れません。
健康な人は真っ先に逃げ、怪我人や老人達が取り残される。
勿論、全員が全員そうだとは言い切れません。
美月のように手を伸ばす人もいます。
ですが、そこはまるで地獄……その人間の本質が見れる、そんな場所へと変わっていました。