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33話 偽りを植え付けられた戦乙女

「それってまさか……」


 綾乃は声を震わせ、自分へと指を向けます。

 するとクラリッサはゆっくりと首を縦に振りました。


「そうだ、その記憶喪失の少女はお前だ」

「でも、あり得ないっしょ! だって……イービルが出来たのはここ10年以内だよ!?」


 そう、イービルが出来てまだ10年たっていないのです。

 彼女の話と照らし合わせるとどうも納得できませんでした。

 美月も当然なっとくなんてできません。

 何故なら綾乃の部屋で写真を見ているからです。


「それにあの時はクラリッサさんも!」


 兄の事を口にしていたはず。

 そう思いました。

 ですが、クラリッサは首を横に振りました。


「あそこでは下手な話は出来ん、そもそも……記憶に関しては刷り込みだ」


 それは事実なのでしょうか?

 なによりも、こんな状況でその話をする理由が分かりませんでした。

 こんなところでそれを言っても混乱を招くだけです。

 嘘だとしても本当だとしても……。


「でも! アタシは――お兄ちゃんが死ぬところを……美月に」


 美月に助けてもらおうとした。

 そして、泣いていたはずです。

 彼女はきっとその時の事を思い浮かべているのでしょう、その時……。


「あれ? なんで……あれ?」

「……綾乃ちゃん?」


 その様子がおかしい事に気が付いた美月は綾乃の名を呼びます。


「考えてみろ、司は昔から表に出ない。ならなぜあんな大けがを負った? 本当に彼が負った怪我なのか?」


 そう口にしたクラリッサは美月へと目を向けました。


「何よりも、夜空、お前は司の事を覚えていたか? いや、幼かったはずだ……伊達の事も忘れていたかもしれないが……よく思い出せ、お前が治したのは誰だ?」


 そう言われ、美月も考えます。

 当時の事を思い出そうと必死になると――。


「……え?」


 綾乃は頭を抱え震え始めました。

 一方美月は……。


「あれ?」


 その異変に気が付くことなく、記憶の中に居る人物が別人だと気が付いたのです。

 それは今とは全く違うように見えますが伊達のようにも思えました……。

 しかし、当時は髭はありませんでした。

 ですが、司とは違う人で……誰が近いかと言われると確かに伊達だったのです。

 とはいえ……この数年でそこまで変わるとは思えません。


「でも……伊達さんとは……」


 違う人に思えたのです。

 ですが、クラリッサは首を横に振ります。


「いや、奴さ……あの時は細身だっただろうが、奴は娘が生きていると知った後、司に気が付かれないため鍛え、整形手術を受けている」

「だとしてもさ、なんであんたがそんなこと知ってるの!」


 綾乃の指摘はもっともな物でした。

 すると――。


「お前が引き取られた現場に居たからな」


 そう口にするクラリッサ。

 ですが、どう見ても若々しい彼女は司と近い年には見えません。

 当時本当にイービルに乗っていたのだとしたら、若すぎるのです。

 いえ、それは新谷も同じと言えるのですが……。


「ありえないって……」


 がっくりと項垂れる綾乃に対しクラリッサは……。


「私だって当時は少女だ……変わりはする。だが、一つ言えることは悪魔の奴は最年少だった」


 悪魔とは新谷の事でしょう。

 確かにそれなら彼の年齢には納得いきました。


「最初は人懐っこかった。だが、奴は瞬く間に変わってしまったんだよ……」


 そう口にした後、彼女はペンダントを外し美月へと手渡します。

 ロケットになっているそれを開くと中にはクラリッサと若い男性。

 そして、どこか新谷に似ている少年の姿がありました。

 まだほかに誰かが居そうな写真でしたが、切り取られているのでしょう。

 体の一部しか映ってませんでした。


「当時の英雄ともいえる……悪魔乗り達だ……」


 彼女はそう言うとフローレンスを抱え、美月たちに目を向けます。


「とにかくこんなところからは去ろう」


 今は安全なところと言えば支部しかありません。

 ですが、支部には司が居ます。

 素直に戻っていいものか、美月は迷いました。

 それでも……。


「伊達が心配している」


 その言葉を聞き、美月は黙って頷きました。

 しかし、綾乃は黙り込み……。


「嘘だよ……だって、私は小さい頃……」


 そう呟いていました。

 そんな彼女を美月は立たせ、歩かせます。

 言いなりになって歩く背中はいつもの綾乃じゃない事を物語っていました。

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