32話 秘匿された過去を知る戦乙女
「今はそんなことどうでもいいよ!!」
美月は声を上げると少女の傷に手を当てます。
するとやがて掌に淡い光が生まれ、傷を癒していく……。
ですが、そんな彼女に対しクラリッサは肩に手を置き……。
「じゃ、邪魔しないでください!」
「するつもりはない、その前に彼女を解放してやろう」
思わず怒鳴ってしまった彼女をたしなめるようにクラリッサはそう言いました。
焦るあまり、彼女の今の状況を頭から抜いていた美月は顔を真っ赤にしつつうなづきます。
そして、クラリッサはそれを見届けると綾乃を呼び、二人でフローレンスを解放するのです。
ぐったりと横たわる少女の横に座った美月は今度こそ彼女を助けるために魔法を使いました。
美月お得意の傷を癒す魔法です。
瞬く間に傷は癒えて行きました。
ですが、すぐに目を覚ましません。
それほどダメージを負っているようです。
「それで、これは誰が……」
「死神だな」
彼女が言う死神というのは司の事で間違いないでしょう。
「あの……なんの理由があってそんな事を言うんですか?」
美月はクラリッサの言葉を聞くなり不機嫌な表情を浮かべました。
当然です。
いくら、怪しいとは思っても確信があるわけではありません。
ですから、その理由を知りたかった。
「簡単だ……奴の目的は人類を守ることだ」
「それは分かってるよ! でもなんでお父さんが……」
悪魔と言われるのか?
綾乃は苛立った表情を浮かべていました。
そんな彼女に対しクラリッサは態度を変えません。
彼女は――。
「だから死神なんだ……奴は目的のためなら切り捨てられる。仲間であろうが、なんであろうが……人を助けるためには悪魔乗りが必要だ。だがそのフローレンスにはもう利用価値がないと判断されたんだろう」
「そんな事!!」
あるわけがない。
美月は思わずそう口にしかけました。
すると彼女は――。
「あるさ、そいつは結局何者なのか分からない、協力者であることは認めようそして、人類にとってかけがえのない存在であることもだ」
クラリッサは優しげな表情を浮かべ、そう口にします。
「だが、奴は死神は……例えかけがえのない存在だとしても冷徹だ……仲間を殺したんだ……私達の目の前で……いくら天使にたぶらかされたと言っても仲間を殺したんだ……」
すぐにその表情を曇らせたかと思うと胸にあるペンダントを握りしめました。
彼女がそんな表情を見せるのは初めてのようにも思えました。
「その時もだ……反逆者を殺すため、自分の手は汚さなかった。仲間の二人にやらせたんだ……一人は死に……もう一人は生きているのが不思議なぐらいだった……」
「……え?」
「たまたまだった……生き残った奴は奇跡的にある少女が助けに入ったんだ……そのおかげで一瞬だが裏切者は手を緩め彼は即死には至らず、更に奇跡が起き生き永らえた……それでも奴は仲間は当然少女に対しても何も言わなかった……いや、そもそもその少女をたぶらかし向かわせたのは奴だ」
二人は拳を握り怒りに震えるクラリッサを見つめながら呆然としてしまうのでした。
「その女の子は?」
「生きているさ、ただ記憶を失い……本当の両親の事も覚えていない、脳の一部に異常が見られ、痛みや衝撃を感じにくくなっている。成長していれば悪魔乗りとしての素質は他の人間よりもいや、悪魔乗りになるべく成長したと言ってもいいだろう……これも奇跡としか言いようがない事だ」
「……え? なんでそんなにアタシのこと見てるのさ……」
そう口にするクラリッサは綾乃をじっと見つめていました。
綾乃は声を震わせながら……。
「ちょ、ちょいまって……いや、本当に待って……」
まさかと繰り返しながら視線を泳がせるのでした。




