29話 捜索に出る戦乙女
車のところへとついた美月たちはエンジンをかけます。
準備とはいっても他にすることが分かりません。
イービルとは違い、車を運転したことはないのです。
だからこそ、この先どうしていれば分からない。
そう思っていたところ……クラリッサが歩いてきました。
話は意外と早く終わったのでしょう。
ほっとしつつも、準備がちゃんと終わってないのではと考える二人は焦ります。
「ど、どうする? ちゃんとしてなかったら怒られるかも」
「さ、流石にそれはないと思うよ?」
美月はそう言いつつも少し不安を感じました。
しかし、彼女は二人を見ると……。
「何をしてる、車に乗れ」
「で、でも準備が……」
まだ終わってないのでは?
そう思った美月は恐る恐る口にしますが……。
「準備? ああ、トイレか済ませてこい」
「そ、そうじゃないです!」
予想外の指摘に顔を真っ赤にして答える美月に対しクラリッサは首を傾げます。
「ほかに何がある? キーは入っている、エンジンもかかってるトイレでもない……」
どうやら本気で考えているのでしょう。
初めて困っている表情を浮かべました。
その様子を見て美月と綾乃は目を合わせます。
「ええともしかしてさ、準備ってエンジンかけるだけ?」
綾乃はクラリッサに尋ねると……。
「ほかに何がある? ここの車はしっかりと充電はされている。そもそもバッテリーが足りないのであればすぐに動けるわけないだろう」
彼女の言葉に二人はため息をつきつつようやく車に乗り込みました。
「なんなんだ……」
すると彼女は呆れ声を出しながら、運転席へと乗り込みます。
すると「むぅ」という声が聞こえました。
どうしたというのでしょうか?
「あの……」
「いや、こっち側で運転するのは初めてなんだ、左が思いのほか見にくいな」
「だ、大丈夫なの?」
不安になった綾乃と美月でしたが、彼女は頷き……車を走らせます。
ハッチは伊達たちが動かしてくれたのでしょう。
しかし……すぐに聞こえてきたのは。
『許可が出てません!』
という明智望の声でした。
ですが……。
「すみません、通してください!」
美月はそう叫びます。
理由なんて言っている暇はない、ほど言うわけではありませんでした。
それでも急ぎたかったのです。
『夜空さん!? …………』
車で出かけようとしているのが美月たちだとわかると彼女は迷ったのか、しばらく沈黙が聞こえました。
目の前には開いていたハッチが閉じかけています。
このままでは後方のハッチと合わせ閉じ込められてしまうでしょう。
おそらくそれを操作しているのはオペレーターである明智達の誰かでしょう。
『ちょっと、何をして!?』
暫くすると誰かの声が聞こえ、それと同時にハッチが止まったのです。
『…………私達は夜空さんに助けられた……』
小さな声でした。
震えてもいました。
ですが――。
『お、美味しい物のお土産……お願いしますね?』
その後に聞こえた声に美月たちは「うん」と答えます。
クラリッサは何も言いませんでしたが、少しだけ口元を緩めました。
そして三人を乗せた車は支部の外へと飛び出すのでした。
「馬鹿犬! タブレットをそこに入れろナビが起動する」
「う、うん!」
外へと出ると助手席に座っている綾乃にクラリッサは支持をします。
綾乃は言われた通りタブレットを車にセットするとタブレット画面にナビが起動しました。
「この車古いね……」
「動くだけマシだ」
彼女はそう言ってアクセルを踏みます。
「きゃあ!?」
それは明らかに法定速度というのを無視した物でした。
「ちょ、ちょっと!?」
「緊急時だ……」
彼女はそう言って手慣れた手つきであるボタンを押すとサイレンが鳴り始めました。
「これならだれも文句は言わん」
「乗ってるアタシたちが生きた心地がって!? 前前前!?」
綾乃が文句を言おうとした瞬間前には障害物があり、それを何とか交わすクラリッサ……。
それはイービルでの動きが嘘のようでした。
「あ、あのクラリッサさん?」
「飛ぶのは得意だが走るのは苦手だな」
「「うそでしょ?」」
と二人の声は重なり……。
その言葉は怯えたように震えているのでした。




