26話 待ちきれない戦乙女
「それで、どうするの?」
綾乃はクラリッサに尋ねます。
すると彼女は……。
「どうするも何も生身で行ける場所だという事は分かっている」
「なら早くいきましょう……!!」
美月はいても経っても居られずそう言うが……。
「まて夜空……」
「でも!!」
初めて名前で呼ばれた。
その事は最早頭に残らないほど彼女は焦っていました。
「生身では行けるがイービルでは行けない」
「じゃ、どーすんの? あたしら兵士だけど普通は格闘術とかは習ってないんだよ!?」
そう……。
香奈たちはあくまでパイロットなのだ。
必要以上の訓練は行ってはいない。
「そ、そうです……特に私は魔法使いだし」
以前は魔力回復薬などもなかったのです。
少し体を動かしただけで息が上がってしまうのだから体術を学ぶなどという事は不可能です。
でも、体術……なら……。
「リンちゃん連れて行った方が良いのかな?」
「辞めておけ、あの小心者じゃいざという時に役に立たん」
「そんな言い方ないっしょ!?」
事実だ……そういうクラリッサに対し香奈と綾乃は黙り込んでしまいました。
確かにリンは頼りになり、また生身でも強いのでしょう。
薬も手に入ったのだから、いくらブランクがあろうとも体術で何とかしてくれるかもしれません。
しかし、死に直面したら彼女は動けないだろうことも分かっていました。
何故なら彼女は死ぬことにひどく恐怖を覚えるのです。
ですが、役に立たないと言われると二人ともむっとしてしまうのです。
一方、事実だと告げたクラリッサはため息をつき……。
「もし、そうなったら真っ先に狙われるのはあいつだ……それでも良いのか?」
あきれたようにそう口にしました。
すると二人はぴたりと足を止めます……。
それに気が付いたクラリッサもまた足を止めました。
「確かにあの小娘は感覚さえ取り戻す事が出来たら生身でも十分すぎるほど戦えるだろう……天才と呼ばれていた功夫マスターだ」
「……師匠」
クラリッサが人を褒めることは少ない。
ですが、裏を返せばそれは嘘は言わないという事です。
「……お前たちが頼りにしたいと思うのもわかる、だが……現状では武器を持たせたお前たちより現場で固まる可能性が高い」
「とはいっても美月はともかくアタシは……!」
綾乃はそう言うとゆっくりと顔を床へと向けます。
その理由は簡単です。
美月は魔法使い……ですが、綾乃はただの人間です。
それを言っているのでしょう。
ですが、クラリッサはゆっくりと首を横に振るのです。
「お前は兵士だ。それも幼い頃からだ……それなりの体術は学んでいるだろう?」
「そ、それはそうだけど! 実戦なんてイービル以外したことないんだよ!?」
彼女は焦ってそう口にしました。
ですが、クラリッサはため息をつくだけで……。
ようやく呆れた顔を浮かべたかと思うと……。
「実戦は経験しなければ、そのままだ……だろう? 夜空」
「え? あ、はい……」
香奈は頷き、クラリッサは満足そうに微笑みます。
確かに言っている通りです。
だが、香奈も実戦経験があるとは言ってもほんの少し。
誰かを守る為に魔法を使ったというだけでした。
「綾乃ちゃん、私だってその……怖いよ?」
上目遣いをするように美月はそう言うと綾乃は顔を真っ赤にして震え始めました。
それを見ていた美月は首を傾げるのですが……。
綾乃は暫く黙ったままで……ようやく口を開くと……。
「み、美月は……」
「ん?」
「美月はアタシが守るから!」
と拳を掲げ始め、それにびっくりしつつも美月は顔を赤く染め……。
「うん!」
と微笑むのです。
「まったく……人の見てないところでいちゃつけ小娘ども」
それに対しクラリッサはそう口にしつつため息をつくのでした。




