21話 思いを告げる戦乙女
泣き始めてしまった美月は綾乃の部屋へと連れられ二人っきりになります。
そんな彼女は綾乃のベッドの上に座ると泣き続け……。
「美月、ど、どうしたの!?」
戸惑う彼女に対し、美月は首を横に振ります。
どうしたと言われても答えようがないのです。
想像したら悲しくなった。
そうとしか言えない彼女はただただ泣くしかありませんでした。
「怖かった?」
頷きます。
「死にたくないよね?」
少し、迷って頷きました。
「大丈夫、アタシが守るからさ!」
その言葉には美月は素直に頷けませんでした。
何故なら……。
「私、嫌だ……」
「へ?」
予想外の言葉に綾乃は戸惑います。
それもそうでしょう。
ありがとう……そんな言葉が返ってくる。
そう思っていたからです。
ですが――。
「私、綾乃ちゃんが……死んじゃうなんて……やだぁ」
まるで子供の用に泣きじゃくる美月。
彼女は綾乃へと抱き着くと――。
「へ!? ちょ!? みみみみみみみみみみみみみみみ!? 美月!?」
明らかに慌てた様子の彼女の声が聞こえます。
ですが、そんなことはもはや関係ありません。
美月には自分の気持ちが抑えられませんでした。
もう、気持ち悪い、なんて思われるわけもない。
それを知っていたからこその行動でもあったのかもしれません。
美月が擦りつくように身を寄せながら抱きしめるのに対し、綾乃は口をパクパクとしながら黙ってしまいました。
「絶対いや……」
そして、上目遣いで何かを求めるような仕草をしてしまいました。
勿論美月にそんな気持ちはありません。
だからこそ、それは無意識の行動だったのでしょう。
すると綾乃はまるでぼん! と音を立てるかのように赤くなると――。
「あやのちゃ……!? きゃっ!?」
美月はいつの間にかベッドに押し倒される形になってしまいました。
そして、目を向けると綾乃はフルフルと震えながらゆっくりと顔を近づけてきます。
美月は一瞬びっくりしましたが、ゆっくりと瞼を閉じ……。
「……んぅ」
彼女を受け入れるのでした。
ゆっくりと、しかしまるで壊れ物を扱うかのような優しい彼女に美月はいとおしさを感じゆっくりと自身の手を彼女の体にからめるのです。
もう二度と大切な人を失いたくない。
その一心で……。
ベッドの上。
少女は悶々としていました。
横には愛しい少女が寝ており……その衣服は身に着けていません。
わ、わわわわわわわわわたわた私なにをして!?
自分の行動を思い出し顔を真っ赤に染めた美月はぶんぶんと頭を振り乱します。
しかし、そんな行動をしても起こしてしまった事は返れません。
それどころか自分がしたことを再確認させられるように感じ……。
もはや頭はパンクしそうでした。
いや、もうしていると言ってもいいのかもしれません。
「ぅぅ……」
後悔するぐらいならそんなことしなければよかった。
そう思いつつ、先ほどの光景を思い出すと……。
「…………」
顔を真っ赤に染めやっぱり、うれしい……。
と思い直しました。
それもそうでしょう。
同性とはいえ互いに想い合っていることを確認できたのです。
それだけじゃなく、その先も気持ち悪がれることなく済ませてしまいました。
むしろ彼女にとって幸運だと言ってもいいでしょう。
ですが……。
そ、それでもやっぱり恥ずかしいよぅ……。
美月はがっくりとうなだれ、悠長に寝ている少女の方へと目を向けます。
規則正しい寝息で……寝顔はかわいらしくもどこかかっこよくも見えました。
美月を守ってくれる騎士と言ってもいい少女です。
かっこいいと思うのは当然でしょう。
「……綾乃ちゃんが私をおかしくしたんだからね」
そう頬を膨らませつつ口にした美月は彼女の頬をつつきます。
すると、言葉もなくピクリと反応した綾乃。
それを見て美月は気が付きました。
彼女は寝てなどいないことに……。
それに気が付いた美月はなんだか悔しい気持ちになり……。
「もう、綾乃ちゃんの意地悪」
そう言って布団をかぶります。
すると――。
「おかしくされたのはこっちだよ……美月の意地悪」
そんなつぶやきが聞こえ、美月はおもわず「ふふ」と笑ってしまいました。
すると綾乃は拗ねたのでしょう「やっぱり意地悪だ」と口にし……。
暫くして二人の笑い声が部屋の中で聞こえるのでした。
最初は化け物と呼ばれたくなかった美月。
最初はまるで死に場所を求めていた綾乃。
二人の少女は互いに信頼し合うことがこれからもできるでしょうか?
ですが、そんなことはどうでもいいのです。
今この瞬間を二人が信じあえればいいのです。
後悔しないように……後でこうすればよかったなどと考えないように……この瞬間だけを……。




