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15話 信頼をする戦乙女

「美月、九時方向!!」

「うん!」


 二人は通信を使い、クラリッサとの訓練でその実力を見せます。

 息の合ったその攻撃は流石の彼女にも対処がつらい……。


「甘いな」


 というわけではありませんでした。

 最初のうちは確かにとらえる事が出来たのです。

 ですが、そのうち彼女を補足することはできなくなってしまいました。


「なんでよ!!」


 綾乃がたまらず叫ぶと通信の向こう側からクラリッサの笑い声が聞こえます。


「趣味が悪いと思います、その笑い声……」


 流石の美月も彼女に対しては苛立ちを覚えました。

 最初から避けられたのに淡い期待をさせておいたんだ! そう思ってしまいました。

 ですが……。


「単純だ……」

「何が?」


 苛立ちを隠すことのない綾乃の言葉にクラリッサはため息をつき……。


「動きだよ、まず関節部分を狙う……そのために小娘に足止めをさせるそれは良い……だが、同じところばかり攻撃してもいずれは対処される私のようにな」


 彼女の言う通り、美月たちは決まった動きをしてきました。

 しかし、その方が確実だからです。

 そう思っていたのです……。


「お前たちは確かに力を合わせると強いが……何故惹かれあいながら信じない?」

「「え?」」


 予想外の言葉でした。

 二人は互いに信じています。

 そう思っています……なのに信じていないと言われてしまったのです。

 予想外以外の何でもないでしょう。

 だからこそ、二人は固まってしまい……。


「私は綾乃ちゃんを……信じてない?」

「そんなことアタシは……」


 そう口にしますが決して信じているなんて言葉を使えませんでした。

 なぜか……口にするのをためらってしまったのです。


 当然です……。

 美月は綾乃を信じているわけではありません。

 彼女に依存しているのです……助けてほしい、助けたい、かくまって欲しい、かくまいたいとそれも信用ではありましたが……。

 恐らくではありますがクラリッサの言う信じているにはあてはまりませんでしょう。


 対し綾乃は……。


「だって……美月は」


 美月は彼女にとって守るべき対象であり、守ってくれる人ではありません。

 だからこそ、戦いにおいても彼女が傷つかないのが第一優先。

 正直に言えば戦いから降りると言った時そのままイービルから降りてもらえればとさえ思っていました。

 だからこそ、彼女は黙り込んでしまいました。


「貴様らはお互いに兵士だ。兵士として何が重要か考えてみろ!」


 そう言われても二人はただただ沈黙してしまうのです。

 ですがその沈黙を破ったのは美月でした。


「わかり……ました」


 美月の目的は綾乃を死なせないことでもあります。

 なら、信頼し彼女を助けるしかないのです……。

 このままでいても彼女を傷つける可能性があるとなればもう、迷っている暇はありません。

 だからこそ彼女は頷きました。


「美月!?」


 すると綾乃は驚いたような声を出します。

 ですが、そんな彼女をじっと見つめた美月は……。


「綾乃ちゃん、私も前に出るよ!」

「何言ってるの!?」


 今までは怖いというのもありました。

 ですが、近づかない理由はもう一つあったのです。

 遠くからなら綾乃に近づいてくる機体の確認もできます。

 無鉄砲な彼女を守るためにあえて彼女のいう事を聞き後ろに下がっていた美月はそれをまずやめようと考えたのです。


「危ないよ!?」

「だって、綾乃ちゃんが守ってくれるんでしょ? 何も危なくないよ」


 魔法を発動させるためには若干の時間が必要です。

 だからこそ、その間は無防備になってしまいます。

 ですが、綾乃を信頼するというのなら、それを怖がっていてはいけないのです。

 きっと守ってくれる。

 だから守らないといけない。

 一方的ではなく、お互いに信頼しあう事……その一歩を美月は踏み出しました。


「それでいい! おい馬鹿犬お前はどうする?」

「そんな! 美月をそんな危険なことに!!」


 そこまで言うとクラリッサはため息をつきました。

 そして、しょせん馬鹿犬は馬鹿犬か……とつぶやき、美月は彼女を睨みます。


「どうした?」

「前から言ってましたけど綾乃ちゃんは馬鹿犬じゃない! その呼び方辞めてください!」

「なら負け犬だな」


 帰ってきた言葉に美月は決して怒ることはありません。

 ただ、ゆっくりと近づいて……。


「取り消してください、綾乃ちゃんは負け犬でも馬鹿犬でもありません!」


 怒って言うのではなく諭す様に告げます。

 するとクラリッサは一瞬驚いた顔を浮かべ、すぐに笑い始めました。

 それは馬鹿にしたような笑い方ではなく心底笑っているようで……。


「な、なにがおかしいんですか!!」

「いや、おかしいさ!! 私の眼鏡が曇っていた! 小娘いや、()()方は信頼していたか!!」


 腹を抱えてひとしきり笑うと彼女は真面目な顔を浮かべて綾乃を見つめます。


「だが、お前は何だ? 美月美月と言っておきながら彼女を信頼できていないんだろ? それだけは間違いないな?」


 彼女の言葉を受け綾乃は黙り込みました。

 そして、沈黙が流れ……。


「だって……」


 小さな声でした。

 ですが――ふり絞るような声は……。


「美月は死にかけた……あんな怖いのはもう、嫌だ……」


 涙声になっていたのでした。

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