11話 祝福される戦乙女
新たな天使の襲撃を切り抜けた美月たち。
彼女たちは食堂へと向かうとそこに居た人々に歓迎をされます。
「え、え?」
当然、驚く美月ですが、よく考えなくてもそうなるのは当然なのです。
何故なら一度は負けてしまった少女たちが再び立ち上がるなんて誰が思うでしょうか?
いくら兵士とはいえ、恐怖に負けても誰も攻められませんでした。
少なくともこの支部の人間は……。
しかし、彼女たちは諦めず戦うことを選びました。
仲間の死という代償を払い……。
再び悪魔と契約をしたのです。
そして、今回……あの天使を倒す事が出来ました。
それは彼らにとって新たな希望となっていたのです。
「さすがは夜空ちゃんだ!」
そういう男性は酔っているのでしょう。
少しお酒の匂いがします。
このご時世に酒なんて言う贅沢品を早々飲めるわけがありません。
「ちょ!? どこでもらったのお酒!!」
当然、綾乃は驚き叫ぶのですが……。
「ああ? これだよこれ!!」
そう言って取り出したのは小さな小さな缶。
それだけでも高級品ですが中にはビールが入っているようです。
180mlと書かれてるをそれを大切そうにちびちびと飲む男は――。
「いやぁー可愛くて強くて優しいなんて美月ちゃんはかわいいなぁ」
「え、えと? あのっ!?」
急に迫られ、可愛いと言われてしまい美月はしどろもどろになってしまいます。
ですが、綾乃が美月を守るように彼との間に割って入り……。
「美月困ってるじゃん! この酔っ払い!」
男性へと一喝します。
すると周りからは笑い声が聞こえました。
「だーから酒なんてやめておけって言ったんだ」
「初めて飲んでそれじゃ世界が良くなっても一滴も飲めないんじゃないか?」
ゲラゲラと笑う彼らはどうやら酔っていないようです。
どうやら酒を飲んだのは彼だけです。
なんで? そう思ったのも束の間……。
「この前のボーナスで買ったみたいだよあのお酒……」
と女性がこっそりと耳打ちをしてくれました。
「……もったいない」
あきれたように言うのは綾乃です。
事実酒は安くはありません。
だというのにそれをボーナスで買ったと聞いては無駄遣いと考える者は今の時代には多いでしょう。
何故なら現状は食料でさえ満足に手に入れる事が出来ないからです。
「……うん」
そんなことをしてしまえば女性陣からは白い目で見られてしまい。
「な、なんだよ皆」
彼は周りの白い目に戸惑うのでした。
「まったく、いつの時代になっても男ってやつは……」
そういうのは食堂を任されているおばちゃんです、彼女はそう言うと……。
「ほら! あんた達にはご褒美だ!」
そう言って食事を運んできてくれました。
まだ頼んでいないのに運ばれてきたのは……。
「これって……」
「日本では初めてですっ!」
リーゼは目を輝かせそう言いましたが、鉄板の上で焼かれているのは間違いなくステーキという物でしょう。
肉の塊を叩き味をつけて焼くという贅沢品です。
「み、皆の分がある」
「そりゃあんた達、皆に食わせないと不公平だろ?」
何当然なことを言っているんだい! そう付け足したおばちゃんはにっこりと笑うと……。
「さぁ、おたべ……」
そう言ってくれました。
勿論、美月たちはステーキを食べるのが初めてです。
席へとつくと早速ナイフとフォークで切ろうとするのですが……。
「ぅ? ぅぅ……」
うまく切れません。
それはそうでしょう。
「こ、このままかじりついてもいいよね?」
綾乃がそう言い始めた時、ため息をついたクラリッサは席を立ちます。
「ったく、世話が焼ける、良い訳ない! ほら……」
そう言うと彼女は一口大にステーキを切り分けていきます。
「なら、私は……」
リーゼも立ち上がり美月のステーキを切ってくれました。
それをじっと見ていたリンチュンに気が付いたリーゼは微笑むと彼女の分も切り始め……。
ようやく彼女たちはステーキにありつこうとしたのですが……。
「な、生焼け……」
「だ、大丈夫かな?」
中がまだ赤いことに気が付くと食べるのをためらってしまいました。
すると――。
「それはミディアムっていう焼き加減ですよ。牛の場合は中まで焼き色が入っていなくても大丈夫です」
とリーゼが教えてくれて、口へと運ぶ姿を見た彼女たちは目を合わせゆっくりと口へと運びます。
肉をかむとじゅわぁと味が口の中へと広がっていき、一見固いように見えたそれは柔らかく噛みやすいのです。
しかも奄美まであるように感じた彼女たちは思わず顔をほころばせるのでした。




