10話 天使の目的を知る戦乙女
「なるほど、だがそうまでして人間を狙う必要はあるのか?」
綾乃の推理に対し、クラリッサはそう口にしました。
腕を組む彼女はどこか高圧的にも感じられましたが、恐らく彼女自身そう考えての行動ではないでしょう。
しかし、綾乃はそうではなかったようです。
「え、えっと……そのぉ……」
しどろもどろになった彼女に対しため息をつくクラリッサ。
「なんだ、考えなしか」
どうやら今度は本当に呆れてしまったようです。
「で、でもそうなると急に強いのが出てきてもおかしくは……」
ないはずです。
美月が綾乃を庇おうとそう口にしようと考えるとクラリッサは深いため息をつきました。
どうしたのだろう?
そう思っていると――。
「あのな、夜空……今までのが奴隷兵だとすると奴らに奴隷を守る価値があるという考えはないと思うぞ」
「え? でも……」
「確かに、奴隷としてとらえたものに最低限の衣食住を提供する国はある……死なない程度に守ってやることもするだろう……だが、奴らがそうとは思えない」
クラリッサの言葉に美月は首をかしげました。
何故そんなことをするのか分からなかったからです。
衣食住を提供するということはただではないという事です。
提供するだけその見返りが必要だと考えたのです。
そうなれば、死なれては困る。
その発想に至るのには時間がかかりません。
ですが――。
「奴らにとって人間というか、他の知的生命体はおそらく兵器と考えているってことでしょうか?」
リーゼが頬に人差し指を当てそう口にするとフローレンスは少し迷ったそぶりを見せますが頷きます。
「間違いない、そう情報があった……」
「なら、なおさら奴らが守ってやる義務はないな消耗品扱いでもおかしくはない」
そんな……と美月と綾乃が口にするとクラリッサは最後の言葉を口にします。
「そもそも、守ってやるというのなら、なぜ今まで負けた奴がいたのに奴らは出てこなかった?」
そう言われてしまうと二人は黙っているしかできません。
答えがわかってしまったからです。
ただの奴隷兵では美月たちに対抗できない。
だからこそ、正規の兵士が出てきたのでしょう。
「奴らの目的は?」
クラリッサはフローレンスに問いました。
するとフローレンスは……。
「兵士を集めること、それと……豊かな土地を手に入れること、だとおもう」
つまり、奴らはここまで奴隷を使い世界を侵略してきたのでしょう。
そして、その矛先を向けられた地球では――。
「だけど、この地球じゃそう簡単にはいかなかった……ミュータントの効果がない種族の私達、適応しその上反撃してきた新たな人類、その双方が奴らにとっての脅威」
「でも、それならなんで手を引かなかった?」
リンチュンが疑問を上げるとフローレンスは頷き答えてくれました。
「鉄、金、銅……宝石類、他にも野菜や動物……この星には豊かなものがあふれてるここまで好条件な場所はそうそうないんだって敵の情報から」
「なるほどな」
「でも日本の金なんて、もうないじゃん」
綾乃の言葉にクラリッサは何度目かになるか分からない溜息をつくと頭を小突きます。
「いた!?」
「バカか、使っていない電子製品から取れる物だけではなく、活火山の多いこの島国なら見つかっていないだけでそこら中にある可能性があるんだ……」
そうなの!? と興奮気味の彼女に思わず苦笑いをした美月。
「ほら、埋蔵金とかも見つかってないのがあるみたいだし」
「あーそっか……」
美月の言葉に頷く綾乃。
しかし、それを聞いて溜息をついたクラリッサを見て美月は首をかしげます。
「もういい、何でもない」
「……え? え?」
なぜ彼女が呆れているのか?
そう思いつつ、美月は慌てますが、クラリッサはすでにフローレンス達に目を向けていました。
「それで、その資源が欲しいというところか」
「そう、でも簡単には得られない……」
確かにくれと言われてあげる事は出来ないでしょう。
なら自分たちで育て、掘り当てるかですが……。
その土地は彼らの土地ではなく誰かの土地になっています。
当然勝手に掘ったり農業をするわけにはいきません。
ましてや……。
「相手に交渉をする気はない、か……」
その言葉に深く頷いたフローレンス。
そう……彼ら天使は突然現れ突然襲ってきました。
何の会話もなく厄災として……。
事実、美月も彼らが喋るとは知りませんでした……。
それを知ったのはイービルに乗り、声を掛けられ始めて言語を用いる種族だということを知ったのです。
「でも、それならこっちも提供すれば戦争今から止められ――」
リンチュンは淡い期待を込め、そう口にしますがフローレンスは首を振ります。
そのせいで途中まで紡がれた言葉は止まり。
「なんで?」
という疑問へ変わりました。
「奴らの言う資源に人間も入ってる……」
「兵士……というわけですか」
フローレンスの言葉にそう帰したのはリーゼです。
これまでの話を聞きそうではないか? と思ったのでしょう。
事実、その言葉を聞き誰も否定的な意見を言うことはできませんでした。
結局導き出された結論は……。
「戦うしかねぇってことだな。おい、お前ら今度から相手はただの機械相手じゃねぇ……」
「分かってます……気を付けます」
伊達の忠告に対し美月はそう返すのでした。




