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8話 真実を知る戦乙女

「娘たっての願いだって話は聞いた。だがな……疑問はあったんだ!」


 続く怒号に司は驚くほど冷たい目を向けます。

 それに対し美月は初めて彼が怖いと思いました。

 今まで見たことのない司がそこには居たのです。


 彼は立ち上がると美月たちに背を向け――。


「君達には関係ない」

「関係ないだと!? 俺はこいつを小さいころから知ってるんだぞ!!」


 その言葉を聞き、美月の脳裏に浮かんだのはクラリッサの話。

 綾乃が身体が弱く、兄のお陰で今があるというものです。

 しかし、その結果兄は……。

 それを言ってしまえば、きっと綾乃は傷つくでしょう。

 それを知っていた美月は――。


「テメェはこいつを――」

「駄目!!」


 咄嗟に叫んでしまったのです。

 それに対しその場にいた者たちは驚きます。

 司を除いて……。


「クラリッサ、君か?」

「ああ、だから何だ?」


 二人の短い会話を聞いた美月はそこで初めて後悔しました。

 綾乃は知らないことなのです。

 もしこんなところで叫んだら……次に来る質問は決まっています。

 何が駄目なのか?

 どうして駄目なのか?

 何故美月がそれを知っているのか?

 そして、最後には何故それを知って黙っていたのか……。


 それが原因で綾乃との仲が悪化するかもしれない。

 そう思ってしまった美月は思わずそこから逃げ出そうとします。

 ですが――。


「そんなに隠そうとしなくても知ってるよ……ていうかさ、師匠は知ってたんだね」


 綾乃はそんなことを口にし、自身の父親へと目を向けます。


「アタシはお兄ちゃんのお陰で生き延びた……」


 そう言うと彼女は――。


「信乃お姉ちゃんがアタシから美月への血の提供をかたくなに拒むのもそれが理由っしょ?」


 それがどういう意味かは分からなかった。


「アタシは実験して、変質したお兄ちゃんの脊髄を持ってる……脊髄移植をしたら輸血は受けられない……逆に輸血の提供もできないんじゃない?」

「……ど、どゆこと?」


 リンチュンは呆然としながら美月たちに答えを求めます。

 しかし、美月たちは何も言えませんでした。

 ただ、分かっていたのは……綾乃はもともと身体が弱かったという事だけなのですから……。


「……お前が知る必要のないことだ」

「そんなわけないっしょ!? 信乃お姉ちゃんが教えてくれなきゃアタシは……アタシは……!!」


 そこまで言うと彼女は拳を握り……美月へと目を向けます。

 美月はその目を見て思わずびくりとしてしまいました。

 彼女と喧嘩をしたくない……そんな思いがあったからです。


「今ここで美月を憎んでたかもしれないんだよ……」


 そう悲しそうな声で口にするのでした。

 それを聞き、美月は胸が締め付けられる思いでした。

 もしかしたら……。

 それを綾乃から聞き辛かったのです。

 ですが、同時にほっともしてました。

 彼女はかもしれないとはっきり口にしたのです。

 つまりは今はそうではないという事……。


「知っていたのか……」

「むしろ知らないなんて思ってたの?」


 父にそう言う綾乃は今にも泣きだしそうだった。

 彼女のそんな様子を見て司はため息をついた。


「記憶が混濁していたはずだが……」

「そうだね、してたよ……アタシが退院した日……痛みで苦しかった……そんな時に天使に襲われて、お父さんとお兄ちゃんは怪我をした」

「……え?」


 それは聞いたことのない話でした。


「お父さんは美月のお陰で無事だった。だけどお兄ちゃんは手術のせいで体力が落ちててそのまま、軽い怪我で命をなくした……」

「…………」


 それを聞き、司は顔をゆがめ……。

 美月たちはただ聞いていることしかできませんでした。


「アタシはお兄ちゃんの命を喰らって生きてる……そう思うと苦しくて、お兄ちゃんが死ぬ原因の一つだった天使が憎かった……。アタシは生まれた時から死人なのにお兄ちゃんを喰って生きてるんだって思うと辛くててどうでも良くなった……」


 それが彼女が死に急いでいた理由。

 美月はそう悟り、口を閉ざします。

 もう、綾乃を止められないのかもしれない。

 そう思ってしまうと自分の無力さに歯がゆさを感じました。


 しかし――。


「でも、今は違う……美月が死ぬなって言ってくれたし、アタシは生きるよ……だから、皆アタシの事で何か言うの無し! 最強の悪魔乗りに結果としてなれたんだしさ!」


 いつもの笑顔に戻り、綾乃はそう言うと呆れたようなため息が聞こえました。

 それはクラリッサからのもので……。


「最強ではない、その可能性があるだけだろうに」

「うるさい!!」


 突っ込みに思わず叫ぶ綾乃でした。

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