7話 報告をする戦乙女
支部へと戻った美月たちはそのまま報告へと向かいます。
すると管理室で座っている司を見てクラリッサは舌打ちをしました。
「それで……?」
「ただ偉そうに座っているだけとはな……死神」
皮肉を言われ彼は暫く黙っていました。
ですが――。
「イービルに乗れれば戦うさ……だが、私にはそれが出来ない」
彼はそう言うとその目を美月たちへと向けました。
どうやら報告を待っているようです。
「敵は撤退、ボスは叩きました」
綾乃は淡々とそう説明をします。
ですが、何かを迷ったような表情を浮かべ――。
美月の方へと目を向けました。
当然、見つめられた美月はキョトンとするのですが……。
「敵は美月と同じ魔法……プロテクションフィールドを使ってました」
「……え?」
それは美月がイービルでの戦闘の中で最も得意とする魔法でもあります。
息をするように使えると言っても過言ではないでしょう。
それを敵も使っていた。
そのことに美月自身も驚いてしまいます。
ですが、それが本当だとすれば納得できるのです。
なぜあの攻撃を防げたのか……。
プロテクションフィールドならば前方からの攻撃を防ぐ事が出来ます。
それもただ防ぐだけではありません。
現存するどんな装甲よりも強固な壁を作っているようなものなのです。
「だから、奴に攻撃をした時に直撃にもかかわらず」
「そう、たまたまアタシの位置からは丸見えだったんだ……だから、分かった。あれは間違いないよ」
そういう綾乃の言葉に対し、司は首を横に振った。
「ありえない、奴らは魔法使いじゃ――」
そう口にしかけた時――扉があき、そこからは一人の少女が現れます。
「ありえないわけじゃない……」
「フローレンス!? それに伊達さんも」
そう、エルフの少女と整備班の伊達です。
彼女はそう言うと美月へと微笑みます。
「奴らはもともと体が弱い、だから魔法を使ってた……それをたまたま人が使えるようになっただけ、だから奴らが魔法を使えたり機体にそれを使う技術があるのはおかしくない」
そう口にするのです。
確かにミュータントは彼らの兵器だと聞きました。
だとすれば、それを体に埋め込み使えるようになった魔法。
それを彼らが使えるというのには驚きましたが……。
元々使えるのなら不思議ではありません。
「それが本当だとして……君は我々に勝機があるとでも?」
新たに襲ってきた天使。
あれと同じものが何機も攻めてきたら日本はおろか地球は終わりでしょう。
そう感じてしまったのは司だけではありません。
戦う美月たちも同じでした。
ですが――。
「おもう、奴らに匹敵する魔法を持ってる人間がいる……魔法を持たずに奴らを凌駕する人間もいる」
そう答える少女の瞳は美月と綾乃へと向けられたのでした。
美月は確かに強力な魔法の力を持っています。
誰もが納得するでしょう。
ですが、綾乃を示され、本人も驚いていました。
「ま、待って? アタシ!? なんで……」
「いや、確かに考えてみればそうかもしれないな、駄犬は魔法を使わずとも戦った……それも悪魔とほぼ同等の力を使いつつ、体に変化はない」
クラリッサはあごに手を当てながらそんなことを口にする。
だが、何故彼女が魔法を持たずに天使を凌駕する力を持っているのか? それがわからなかった。
美月は特にそうだったのだ……。
何故なら美月は彼女が元々体が弱いことを聞いていた。
だからこそ、なぜそんなことになっているのか分からなかった……。
いや、正しくはイービルに乗れる時点で疑問だったのだ。
「…………」
まさかっと思い美月が目を向けた先。
その先には司の姿があった。
彼はただじっとしており、口も閉ざしている。
一体何を考えているのだろうか?
そんなことは彼にしか分からない。
だが……。
「いや、だってアタシただのイービル乗りだよ?」
「そうは言うけど普通は……耐えられねぇぞ……新谷が乗ってたコピス……あいつの戦闘データをもとに作られたのがザ・フールだ……」
そう言いながらフローレンスと共に部屋へと入ってきていた伊達は美月と同じく司へと目を向けました。
「何故それを?」
司は伊達を睨み……そう口にします。
「今回の強化の時にな……妙なブラックボックスがあった、あれには新谷の戦闘データが入ってやがった……どういうことだ。あんな化け物に娘を乗せるなんてよ……まるでこいつなら問題ないとでも言いたいかのようだな?」
そう、伊達は珍しく怒っていたのです。
彼はゆっくりと息を吸い……。
「テメェ何を考えてやがる!! あんなの実の娘を乗せるなら理由が必要だ! 問題ないって理由がな」
伊達の叫びは部屋の中に響き……。
それを司はただ黙って聞いているのでした。




