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17話 力を使う少女

 新谷の危機に魔法を使う美月。

 それは彼を守るための魔法だった。

 だが、防戦一方では戦況は変わらない。

 美月は決意し攻撃をするのだが……?

 攻撃を阻む青白い膜が薄れていくのを天使も気が付いたのでしょう。

 剣は天高く持ち上げられました。

 そして、膜が消える直前に……天使は会わせて振り下ろします。

 膜と剣が当たると思われた時、それは消え――。


『テンペスト展開』


 同時に美月の乗るイービルの中に無機質なアナウンスが流れます。

 すると風が吹き荒れ、暴風となり天使を襲いました。

 天使はその場で踏みとどまろうとしますが、風に押されて後ろへと下がります。


「…………効いて、ない?」


 ですが美月が見た現実は非情でした。

 天使を後ろへと下がらせたことは出来ました。

 ですが、一切傷がついていないのです。

 いえ、それどころか風の刃で切り裂くと言うよりは風をぶつけたと言った方が良いかもしれません。

 それもそうでしょう、美月は長い事そう言った魔法を避けてきたのですから。

 戦いになってすぐに相手を傷つける魔法を唱えられるはずがありません。


『――――ダーニナ、ノモ』


 呆然とする美月に聞きなれない声と言葉が告げられました。


「だ、だれ?」


 美月はいきなり聞こえた声に慌てます。


「うそ、だろ……こいつら……」


 すると新谷も驚いた声を上げ……。


天使(アンゼル)……!! こいつら、話せるのか!?」


 そう、たった今聞こえた声。

 それは目の前にいる天使からの通信でした。


『ダーニナ、ノモ』


 加工されているのでしょうか? 声だけでは男女か見分けがつきません。

 ですが、天使は同じ言葉を繰り返します。


「……」


 天使は地球に来た時、対話をすることなく人々を襲ったはずです。

 なのに、今は向こうから対話を求めています。

 とは言っても、その言語が分からないのでは会話になりません。

 どうしたら良いのか困っていると、しびれを切らした様子の天使は――。


『――――』


 それは深いため息の様な物をついたように聞こえました。

 対話を諦めた天使はゆっくりと剣を構え――。


「――ひっ!?」


 美月は向けられた刃に思わず息をのみました。

 そして――。

 駄目――、駄目――このままじゃ、新谷さんが殺される……それに私も……死ぬ、の?

 初めて対面した死の恐怖に思わず魔力を籠め――。


『魔力増幅確認、テンペスト展開迄後10秒……………………テンペスト、展開』


 再び魔法が放たれました。

 死なせたくないと言う思いと、死にたくないと言う思い。

 その二つが合わさったからでしょうか? 先程は風の塊をぶつけるだけだった魔法は風の刃と化し、天使(アンゼル)に無数の傷をつけて行きます。

 天使は必死に風の刃に抗おうとしますが、風を捕らえる事が出来る訳がありません。

 剣で斬っても斬っても風は襲ってきます。

 それこそ、美月が無意識に込めた魔力の分だけ魔法は放たれ続けているのです。


「怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」


 それは何に対する恐怖だったのでしょう、小声で繰り返される言葉。

 美月はこの時目を瞑ってすがるようにオーブを握る手に力を込めていました。

 そう……魔力も一緒に……。

 いくら魔法使いと言ってもそれぞれに違いがあります。

 ましてや美月は何も無しに自分の魔力だけで病院丸々一つを守る魔法を使ったのです。

 その魔力は計り知れない物……。


「夜空ちゃん!!」


 そんな彼女が天使を倒すための兵器イービルにそれも魔法を使えるようにされた新型に乗り込んでいるのです。


「――っ!! ……あ? ぁあ?」


 そんな情報を知りえない天使(アンゼル)は成す術もなくまるで蜘蛛の巣に引っかかってしまった哀れな蝶のように暴れれば暴れる程、その機体()は傷つき、やがて動くことが出来なくなっていました。


「もう良い、もう……終わった……君の勝ちだ、君のお蔭で俺達は生き残ったんだ」

「……新谷さん? 生きて……」


 美月は目の前で動かない白い金属の塊を目にし、後ろで動く黒い金属の塊へと目を向けます。

 そこでようやく、自分達が生き残った事を自覚し……大粒の涙が流れている事にも気が付きました。

 私、私が……倒したの? 殺し、た……の?


 例え、相手が突然襲って来た者だとしても、自分が殺して良いはずがない。

 美月はそう思いますが……新谷は違った様で……。


「訓練も無しによくやってくれた……君が居なければ俺は死んでいた……君が居なければこの天使は街を潰していた」


 彼がそう口にし、美月はようやく自分が何処で戦っていたのかを知りました。

 以前襲撃された場所ではありますが、そこには……まだ人が住む集落があったのです。

 そう、その集落はまるで美月と新谷の機体に守られているようにも見えます。

 天使から悪魔が守ると言う不思議な構図ではありましたが、そう見えておかしくはなく……また事実でしょう。

 そして、まだ避難の途中だった人々は美月達を見上げ、笑みを浮かべていました。

 美月は不思議に思いました。

 たった今自分が戦っていた姿を見たらきっと人々はこう言うはずだと……化け物と……。

 なのに彼らは笑みを浮かべ、美月達に手を振っています。

 化け物と呼んでいる様ではないようです。

 

「これは、俺達人間にとって初めての勝利と言える……君が反撃の一手を繰り出したんだ……ようやく、天使の蹂躙から解放されるその一歩を俺達人間は踏み出せたんだ」


 新谷はそう言うと通信の向こう側で笑い声をあげます。


「だけど、俺は情けないな、君を守ると言っておきながら、悪いけど支部まで送ってくれるかい? このままじゃ一人では飛べそうにない」

「…………あ!」


 美月の耳には彼の言葉は聞こえてませんでした。


「お、おい!? 夜空ちゃん!?」


 ただ、彼女は何かを見つけると慌てて機体を座り込ませ、丁寧に停止させるとコクピットから飛び出しました。

 そして、走り出しますが、彼女は魔法使い、すぐに息が上がり心臓はバクバクとし始め胸が痛くなりました。

 ですが、止まる事はできませんでした。

 いえ、止まってしまったらその場から動けなくなる、そう考えたのでしょう。

 美月は息が上がった状態でその場所へと辿り着くと――。


「――!!」


 怪我をし、倒れている男性を魔法で治療し始めたのです。


「おとーさん! おとぉさん!!」


 近くでは泣きわめく少女と少年の姿があります。


「だ、だいじょ……けほっ、うぶ……だい、じょう、ぶ……」


 美月は治しながらそう口にし二人を落ち着かせようとします。

 ですが……どう見ても傷は浅くはありません。

 男性の近くにはもう一人、すすり泣く女性の姿もあります。

 恐らくは彼の妻でしょう。

 もう助からない……どんな手を尽くしても無理だ。

 そう諦めているのが美月にも分かりました。

 ですが――。


「――っ!? ぐぅ!?」


 それまでピクリとも動かなかった男性は苦し気に息をし始め。


「――もう少し、です。こほっ……がん……ばってください」


 聞こえているのかも怪しい小さな声で男性にそう伝え、魔法をかけ続けます。

 やがて傷は塞がり……男性は苦し気に息をしながらも瞼を開けました。


「も、もう……大丈夫、です……でも、血は戻りません……輸血だけは……してください……」


 美月がそう告げると涙を流していた彼の妻は信じられないと言った顔で美月を見つめ。


「あ、ありがとう、ありがとうございます!!」


 大粒の涙を流しながら彼女へとそう礼を告げてきました。

 美月は何て答えたら良いのか困ってしまい……取りあえずこの場から去ろうと立ち上がると、どん、と言う衝撃が彼女のお腹の当たりを襲います。


「きゃぁ!?」


 思わず倒れ込んでしまう美月でしたが、その正体を見ると再び黙り込んでしまいました。

 二人の子供が美月へと抱きついて来ているのです。

 何も言わず服をぎゅっと握られて、どうしたら良いのか分からない美月は困りながらも二人の頭を撫で……。


「ね? だから、だいじょうぶって……」


 と小さくつぶやいたのでした。

 すると二人は大きな泣き声を上げながらも美月からは離れてくれませんでした。





 その日、人類は初めて天使に勝利を収めました。

 死傷者は過去最低、それも一人の少女、美月の魔法によりほとんどの怪我人は治療されたのです。

 その事はすぐにニュースになり――。


『魔法使いだけが操れる魔法を使う新型イービル、マナ・イービル完成と共に天使を撃退……パイロットである少女、夜空美月は高校に通う普通の少女ではありましたが、元々政府認定の治療魔法使いでもあり、その場で治療を開始、彼女の活躍により被害は最小限に抑えられました』


 彼女は――。


『突然現れた普通の少女が勝利へと導いたその姿からジャンヌダルクと呼ぶ人もいるようです』


 その日、英雄とあがめられてしまうのでした……。

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