1話 揺らがぬ戦乙女
美月は青年の末路を見て一歩後ろに下がった。
もう助けることはできないからです。
それを知っていたからこそ美月はその場からゆっくりと立ち去りました。
東坂恵はそれを見ていました。
ですが、彼女をとがめることをしません。
止めることもできません……美月が心優しい少女であることは彼女は知っていたからです。
美月はゆっくりとしかし、確かな足取りである場所に向かいました。
そこはジャンヌ達イービルがあるハンガーです。
そこには四肢を大きく損傷している機体がありました。
自身の専用機であるジャンヌへと触れる美月。
そんな美月に声をかける人がいました……。
「おい……そいつはもうだめだぞ……」
もう直らない。
彼の言葉に美月は首を横に振ります。
「まだ、温かいです……だから、この子を直してください……私は、ううん、私達は戦わないといけないんだから」
投げやりになったつもりはありません。
まだ、死にたくはありません。
だからこそ、美月は――。
「何を言って……マナでさえ……」
「今回もこの子が助けてくれた……この子はまだ死んでない……私たちを生かそうとしてくれてる」
だからと美月はつぶやき彼へと振り返ります。
「もし、悪魔に魂を売れというのなら、今度は私が売ります」
そう決意を秘めた瞳で言葉を発しました。
「おい、何を言ってる夜空……」
伊達は困惑し、彼女へと声を掛けます。
それもそうでしょう……。
いきなり悪魔に魂を売るなんて言い始めるのですから。
「……直してください」
「無理だ!!」
美月の言葉に伊達は首を横に振る。
「でも! 支援は受けれるんですよね!?」
「ああ、だが……それでも予算が足りない……フール……ナルカミ達は壊れちゃいないが、これからの戦闘には耐えれん」
彼はそう言うと大きなため息をつきます。
そこには無傷のイービルが数機……。
綾乃達の機体である悪魔達がそこに居ました。
「だが、クラリッサの機体は元々量産型だ……直す必要さえないが、お前さんのは……特別性だ」
「どう、特別なんですか?」
自身の機体が直せない。
そう言われて不満をぶつけたい美月でしたが、彼にぶつけたって意味がありません。
それを知っている美月は冷静に尋ねました。
「まず、今じゃ使われてないパーツが多くある……だが、日本のイービルは数少ない何せまともな悪魔乗りが3人しか居なかったんだからな……」
三人とは間違いなく新谷と美月、綾乃のことでしょう。
美月は頷きつつ――ふと思いついたように彼に尋ねます。
「なら、新谷さんのイービルから移すのは?」
「……できなくはないが、パーツの劣化で使い物にならん、結果的には同じだ」
それでは意味がない。
美月はがっくりと肩を落とします。
どうしたって直すことはできない……そう言われているかのようでした。
「……どうしてもジャンヌが良いのか?」
「…………」
彼の言葉に美月は頷きます。
するとそれを待っていたかのように日本全土に流れているニュースが施設の中に流れ始めました。
内容は先日の戦いのことです。
『関東02は天使の攻撃により壊滅……イービル乗り達は住人を人質に取られる形で動くこともできなかったそうです』
『これはどうなんでしょうね? 結局天使達に滅ぼされるなら戦って少しでも――』
『そうは言っても、難しいんじゃないでしょうか? 彼らは住民を我々を守ると言うのが仕事です……下手に戦えば被害が出る場所では何もできないでしょう』
美月達を否定する声と美月達をかばう声……。
その両方が聞こえました。
そう、あの戦いは責められておかしくないものです。
おまけに関東02が壊滅したのは恐らく……。
いえ、確実に美月の魔法の影響が高いでしょう。
その事は本人である美月は気が付いていませんでしたが……。
「私は……守りたいんです……だから、それをさせてくれたジャンヌが良いんです」
美月は彼へと懇願する。
「だがな……」
「直せるよ……」
美月と伊達は聞こえた声に振り向く。
そこに居たのはかわいらしい少女です。
彼女は美月の傍に来るとジャンヌへと触れます。
「大丈夫、直せるよ」
「なんでフローレンスが? 本当に直せるの?」
美月は思わず聞き返してしまいました。
すると彼女は微笑みながら頷き……。
「正確には私たちの技術、それを実現できる人間が必要……でも、回路を完成させたり、これを作り上げたり、整備できる人間がいるここなら直せる」
「って、おい! この嬢ちゃんはなんで普通に――」
思わず突っ込みを入れる伊達でしたが、すぐに黙り込み……。
「おい、直せるって言ったのか?」
今度は彼女に同じ質問を口にする伊達。
ですが、彼女は表情を変えることなく頷きました。
「なら早く!!」
直して! 美月は願いがかなったことに表情を和らげます。
ですが、それに待ったをかける声があったのです。
「ダメだ!!」
「伊達さん……せっかく直るのに!!」
なんでそんなことを言うのだろう? 美月は彼に対し不満を覚えました。
ですが、伊達にはどうしても直すことは止めなきゃいけない理由があったのです。
それをしなければきっと彼は後悔することを知っていました。
「ダメだ、直すだけじゃダメに決まってるだろうが!! 今までの機体じゃ歯が立たなかったんだぞ!! 直しても同じだ……」
「そんな……」
そう、美月の身を守るため……。
彼は何も意地悪で言っていたわけではなかったのです。
そして、美月は思い出しました……初めてイービルに乗った時も彼女の出撃に対し噛みついたは彼一人だったことに……。
「なぁ、お前さんが技術があるってんならこいつの性能を上げてやることは出来ないのか? でなけりゃ俺は絶対に働かねぇぞ」
「………………」
「ただでさえ、年端もいかない嬢ちゃん達に命を預けてんだ。そんな嬢ちゃん達が安心して命を預けられる機体を整備する。それが俺たちの仕事だ……作り上げるのだって同じだ俺たちは確かにその腕はある。ジャンヌこいつを作った連中にも負けないぐらいにはな」
伊達は珍しくも饒舌で少女に問います。
「だが、それでも今以上を引き出せないんじゃ意味はない、死ぬかもしれないではなく、死にに行くってんなら手は貸せない」
彼の眼には公開が浮かんでいることを美月は何となくですが理解できました。
なぜなら――。
「奴も止めてやれなかった……だが、嬢ちゃん達だけでも」
それは彼のやさしさなのでしょう。
美月はもうこれ以上何も言えなかったのです。
ジャンヌを直してほしい気持ちは一緒でした。
ですが、自分たちが死ぬことで悲しむ人たちが沢山居ることも理解してしまったのです。
しかし、黙り込んでいたフローレンスは何も彼の話を聞いていただけではなかったようで……。
「方法は……あるかもしれない」
「……何?」
そう口にするのでした。




