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86話 失う悪魔乗り

 美月は動けないイービル(ジャンヌ)を必死に動かします。

 目に映るのはボロボロになっていく彼のイービル。

 それでも止まることはなく、まさにそこには悪魔がいました。

 ですが、そんなことはどうでもいいのです。


「くそ!! 通常のイービルの動きではない、もう組み込み終わってたのか!!」


 そう叫ぶのはクラリッサの声です。

 確かに普通のイービルの動きではないのです。

 おそらくはマナタンクが積まれているのでしょう。

 そして、彼はそれへと乗り込みいち早く駆けつけてくれたのです。

 普通ならうれしい状況です。

 死ぬかもしれないという状況で助けてくれたのですから……。


 ですが美月はそれを喜べません。

 なぜなら彼は――。






 文字通り……その命を削って戦っているのです。






 誰か、誰か早く来て!! そう願うもようやく仲間たちを示すものが見えた時にはすでに天使たちの残骸で山が出来上がっていました。

 たじろぐ天使たち……。

 ですが逃げる気配はありません。

 仲間たちはどうやら綾乃も含め全員来てくれたみたいでした。

 ですが――。


 時はすでに遅く、動きが鈍くなっていく彼のイービルに無慈悲な銃口が向けられてしまいます。


 殺される!!

 そうじゃなくても――!!


 もう死ぬかもしれない。

 美月はそう思い浮かべのどが張り裂けんばかりの声で叫びました。


「――――――――――――!!」


 何を叫んだのかは自身でもわかりません。

 ダメと言ったのか、はたまた彼の名前か……それとも信頼する綾乃の名か……。

 天使への言葉か……。

 それは本当にわかりませんでした。

 ただ、それに重なるように複数の発砲音が聞こえたのが嫌に耳に残っていました。

 ゆっくりと時が流れているように見えました。

 美月はコックピットの中でいやいやと首を振り、コントロールオーブを強く握ります。

 するともう動かないはずのジャンヌダルクは淡く光を放ち――。


 その日……関東02という地域は崩壊しました。

 天使たちの残骸、壊れたイービルが数機……。

 生存者は美月を含め5名……それを美月が聞いたのは……。

 彼女が次に目を覚ました時のことでした。


 その日……たった一人、美月たちを助けに行った青年はその短い命に幕を閉じたのです。

 彼女たちが誰一人最後を見ることなく……。

 次に会ったときは物言わぬ骸となって……。

 あまりにもあっけない別れでした。


 ですが、それを知るのはまだ先のことです。

 なぜなら彼女たちは光に包まれ意識を失ったのですから……。










 美月が目を覚ますと心配そうにのぞき込む女性がいました。

 彼女の名前は明智望。

 オペレーターの女性でした。


 そんな彼女は美月が起きたことにほっとすると微笑みました。

 美月は自分が生きていることに驚きましたが、すぐにあたりを見回します。

 そこは支部の医療室。


 美月が見慣れた場所でした。

 遠くには東坂恵もいるのが見えました……美月はゆっくりとベッドから降りると立ち上がり、彼女へと近づいていきます。

 当然、明智望は美月を止めます。


 ですが、美月は止まることなく彼女に近づいていき……見てしまいました。

 様々な電子器具多取り付けられた青年の姿を……。

 彼はたった今命を引き取ったのでしょうか……辺りには甲高い音が「ピーーーーーー」と鳴り響いていました。


 美月は呆然とそれを見ていて、東坂恵は美月へと目を向けます。

 彼女の眼は赤くなっていました……。

 ですが、美月を責めることなく、ただただ涙を流し……美月は胸が締め付けられる思いでした。


 責められたほうがましです……。

 ですが、やさしい彼女はそんなことをしないでしょう。

 それがわかっているからこそ、美月はつらかったのです。


 美月は彼を見つめ、自分が何もできなかったことを嘆きました。

 同時に――。


 天使はなんでこんなことを……。 

 私たちは普通に生活をしてただけなのに……!!


 と彼女は天使に対する憤りを感じるのでした。

 そして――。


 私は……私は生きてる……。

 でも、今回、色んな人が殺された……。

 きっとまたどこかで同じことが起きるんだ……。


 そう思うと自然と拳が握られ……彼女の中に生まれた……いえ、元からあった感情はどんどんと膨れ上がっていくのです。


 今度こそ、今度こそ守らないと! 守って見せないと……。


 少女はその日、その思いをより強くするのです……。

 今度こそと何度も何度も心の中に思い浮かべながら……。

 かれることのない涙を流しながら。

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