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85話 敗北する悪魔乗り

「小娘!! 早く魔法で防げ!!」


 そう言われ、美月はようやくプロテクションフィールドを使おうとします。

 ですが……無情にも聞こえる轟音。

 次に撃ち抜かれたのはクラリッサの右足でした。


「ぐぅ!?」


 大きく揺れる機体にくぐもった声、当然美月には彼女を見捨てて逃げるということはできません。

 二機のイービルはその場で動けなくなってしまったのです。


 ほかの皆は……?


 今は誰かが来てくれることを願うしかありません。

 しかし……綾乃は倒れておりすぐには来れないでしょう。

 その理由は美月のせいではありましたが、今はそれは置いておくとしても……。


 リンチュンとリーゼならば駆けつけてくれるはずです。

 しかし、まだ時間はかかるのか仲間を示す光はありません。


「あ……」


 美月は焦るあまり、前を確認できていませんでした。

 だからこそ、それに気が付くのが遅れました。

 銃を持っている天使たちは轟音を再び響かせると美月は悲鳴を上げました。

 ジャンヌの足も撃ち抜かれていたのです。

 残った腕で何とか転ぶ前に支えれました。

 しかし、それだけでは危機を脱したわけではありません。

 美月は呆然としながら前を見つめました。

 そこにあるのは死……。

 人々の悲鳴が聞こえ、一つ消え、また一つ消える。

 美月たちは守るべき人がおり、戦うことができないが守ることもできない。

 そして、同時にその迷いが美月たちを危機に陥れてしまったのです。

 しかし、被害を無視し天使と戦うことは選択肢にはなかったのです。


「ぁぁあ……ぁぁ…………あ」


 そして、悲鳴は聞こえなくなってしまい。

 果たして逃げ切れた人間は居たのでしょうか?

 居たとしてもこれはただの虐殺です。


「堕天使どもが!!」


 クラリッサはそう毒づくと銃を構えトリガーを引きます。

 轟音が鳴り響き天使へと吸い込まれていく銃弾。

 しかし、その銃弾は天使へと当たることはなく……剣ではじかれてしまいました。


 ですが、まだ仲間は来ません。

 もうだめだ……美月がそう思うのと同時に再び美月たちへの攻撃は再開され……。

 四肢を撃ち抜かれてしまいます。


 ぽつぽつと雨が降り始め、それは徐々に強さを増していきます。

 そして、美月は空を見れず地面へと目を向けながら自分がまだ生きていること不思議に思いました。


 暫くして天使の足音が聞こえ「ああ、これから死ぬんだな」と自覚をさせられました。

 そうして思い浮かんだのはまずは母。

 もうあんな失敗しないから……そう言ったにも関わらず、あっさりと危機に陥ってしまった事を心の中で悔やみました。

 次に浮かんだのはリンチュンやリーゼといった仲間達。

 彼女達にどうにかしてこの敵の危険性を教えたい。

 ですが、それももう叶いそうにありません。

 そして、最後に思い浮かんだのは……。


 綾乃ちゃん……。


 美月にとって最早居なくてはならない存在。

 彼女のことを思い浮かべると涙があふれ……もう会えないと思うだけで胸が締め付けられるような思いでした。

 ですが、もう何もできません。

 コクピットから逃げたとしても無意味です。

 装甲もなく、生身で逃げようとすれば先ほど殺された人達と同じ目に遭うだけです。

 もし、生き残る可能性があるとしたら、この壊れたイービルの中だけなのです。

 それさえも、ただの希望にすぎません。

 もし、今……イービルの動力源にダメージが入っていれば……。

 入れられてしまえば爆発によりすぐに死んでしまいます。

 生身でも機体の中でさえも、もはや美月たちに生き残る術は残されていませんでした。

 やがて近づいてくる足音が消え、レーダーを確認した美月は嗚咽を漏らします。

 目の前にいる。

 今、銃を構え美月たちを殺すつもりでしょう。

 もうだめだと考える少女はせめてもう一度綾乃に会いたいそう願いました。


 すると――美月の頭上で轟音が聞こえます。

 何事かとレーダーを見ると……彼女は青い顔をしました。


「……嘘」

「チッ!! 死神め!!」


 美月の声と同時に聞こえたのはクラリッサの毒づく声。

 そう、美月達を助けてくれるものが来たのです……。

 ですが、それは望んでいない人物です。


「!! ダメ、ダメです!! 戦ったら……っ!!」


 美月は慌てて通信でそう伝えますが、機体のパイロットは答えてくれません。

 それどころか――。

 天使を表す信号を一つ消し……さらに一つ……一つと消していきます。

 いったいどうやっているのか? それは疑問でした。

 ですが、それ以上に――。


 これ以上は……死んじゃう!


 美月はそう思い必死に叫びました。


「ダメ、ダメーーー!!!」


 ですが、彼女の悲鳴を聞き、それは止まることはなかったのです。

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