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83話 連行される悪魔乗り

 美月はじっと綾乃の顔を見ます。


「それで、話は続けるのか?」

「いえ、もう終わりにします……私が知ってても何も解決できないし……きっと迷っちゃうから」


 そう言うとクラリッサは頷きます。

 そんな彼女の顔は何処か優しげでした。


「それで良い、真実は時に人を惑わす……真実だから知らなくてはならない理由はない」


 いつものどこか馬鹿にした態度ではありません。

 美月の事を心配するような優しい声でした。

 その事に美月は驚きます。


 この人はこんなにも優しい声が出せたんだ……と……。

 思い浮かべてから失礼な事を思ってしまったと浮かびましたが首を横に振ります。


 ぅぅ……でもいつもは怖いし……。

 どっちが本当のこの人なんて分からないよ……。

 今も、優しいふりをしてるのかもしれないし……。


 普段しごかれている所為か彼女に対しては怖いという印象しかないのです。


「おい、小娘……今、失礼な事を思い浮かべなかったか?」

「お、思ってないです!?」


 びくりと身体を震わせた美月は思わず身を縮こませます。

 すると確信したらしいクラリッサは美月に一歩近づき。


「ご、ごごごごごごごごごごめんなさい!?」


 美月は思わず謝罪の言葉を口にしてしまいました。

 すると、クラリッサは嫌な笑みを浮かべ。


「何、気にすることはない、私は何時も厳しいだろうからな……」


 美月はその表情を見て悟りました。

 たった今、この人にからかわれたのだと……。

 それを知り、美月はふつふつと怒りがわいてきましたが、すぐ横には寝ている綾乃。

 これ以上騒ぐのは良くないと思ったのでしょう。

 それを押さえると……。


「ほう?」

「と、とにかく綾乃ちゃんは倒れてしまいましたし、今日の訓練は出来ないですよね? ほら、帰ってください!」


 と口にします。

 とは言っても倒れたのは美月の所為と言って良いでしょう。


「ああ、そうだった……駄犬を引っ張り出そうとしたらちょっかいを出されたんだったか、なら仕方ない」

「……へ?」


 美月は呆けた声を出し、自分の腕を見ます。

 何故ならクラリッサに掴まれたからです。


「あ、ああの? 私は今日の訓練……」

「あれは私の訓練にもなっている。お前は先日休んだし体力が余っているだろう? なら付き合え」

「そ、そんな!? 無茶苦茶です!?」


 美月は思わずそう口にしますが、もう逃げ道は無く……。

 ずるずると引っ張られてしまい、そのまま連行されていきます。


「ちょ、ちょっと待ってください!? やだ、もう……お願いですから、何でもしますから!?」


 そう願うも相手が聞き入れてくれる人間ではないのは分かり切っています。

 少女の願いは虚しく消えていき……部屋には静寂だけが残りました。






 ずるずると引っ張られていく美月は暫く抵抗をしようとしていました。

 しかし、力の差があり、それが叶わぬ願いだと知ると彼女は諦めトボトボと歩き始めます。

 そんな時です。


 辺りには警報音が鳴り響き……美月達は放送へと耳を傾けます。


天使(アンゼル)襲来! 場所は関東02! すでに攻撃を受けています!!』


 それは悲痛な叫び声でした。

 何が起きているのか分からない。

 そう言っているかのようでした。 

 事実、美月も同じです……。

 何故なら――。


「天使レーダーは? 攻撃を受けてるって!? だって、リーゼちゃんが」

「チッ!! おい、小娘! 出るぞ!!」

「は、はい!!」


 困惑する美月ではありましたが、此処で動けなくなるほどではありませんでした。

 ほんの少し前なら腕を引っ張られないと何できなかったでしょう。

 ですが、彼女は今戦う意志があり、それは自分で決めた事です。


『し、至急! 悪魔乗り達はハンガーへ!! このままでは壊滅します!!』


 続いて聞こえた放送に美月は胸を痛めます。

 関東02と言えば美月の通っていた高校もあるのです。

 当然、綾乃の友達もいます。


「守らなきゃ……急がないと!!」


 そう口にし、走る少女は以前なら息切れを起こすどころか倒れてしまいそうな距離を進んでいきます。

 そして、ハンガーへと辿り着くと真っ直ぐにそれへと向かっていきました。


 白い悪魔は彼女を待っていたかのようにずっとコクピットを開けたままで……。

 彼女はそれへと乗り込むと手早く準備を済ませます。

 しかし、焦らずに教えられた順番通りに起動をさせ――。


「美月! 気ぃつけろよ!!」


 伊逹の声に彼女は頷き――。


「はい!」


 としっかりとした声で答えると……数人の整備員は美月を見てにへらと笑います。

 美月はそんな彼らに首を傾げつつ微笑むとコクピットを閉じるのですが、その間たまたま伊逹の近くに居たにやけた整備員は彼に殴られていました。

 決して強すぎるという訳ではありませんでしたが、痛そう……と美月は思わず思い浮かべてしまいます。


『小娘! 行けるか?』

「だ、大丈夫です!」


 美月はクラリッサへの通信に答えると、ゆっくりと息を吸い込みます。

 その間もイービルは発進準備へと向かっていきカタパルトまで来ると――。


『システム、オールグリーン……美月ちゃん、任意のタイミングでどうぞ!!』


 オペレーターの明智望はやや焦りつつそう教えてくれました。

 ゆっくりと吐いて行った少女はもう一度、息を吸うとまっすぐに目を向け――


「ジャンヌダルク……行きます!!」


 そう口にするのでした。

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