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82話 真実? を知る悪魔乗り

 彼女を寝かせた後、美月は写真に釘付けになりました。

 そこには笑っている綾乃と笑顔の少年。

 彼女の兄で間違いないでしょう。


「おい!」

「は、はい」


 急に呼ばれ驚きつつも美月は振り返ります。

 クラリッサは怒っている様でした。


「あまり人の事を詮索するもんじゃない」

「詮索ってただ写真見てただけです。これお兄さんなんだって……」


 美月は一度会っているはずです。

 ですが、覚えてはいませんでした。

 それもそうでしょう、彼女の父である司でさえ助けた一人にすぎなかったのです。

 お礼を言われるなんて思っても居なかった。

 ましてや、その部下になるとも思わなかったのです。


「なら、なぜそう食い入るように見る?」

「だって……」


 美月は綾乃から兄の事を聞いています。

 ですが、似ているとは思えません……なぜか他人同士に見えるのです。

 だとしてもそれを言う事は出来ませんでした。

 だからこそ、美月は……。


「綾乃ちゃんの大事な人、私が守れなかった人……助けられなかった人……この人がいたから、今の私達がいるんです……」


 そう口にすると複雑だった。

 彼のお蔭だと決して喜んではいけない。

 いや、喜ぶわけではない……。

 寧ろ助けられなかった事は後悔しているのです。

 ですが、死を覆せる魔法など存在しないのです。

 どう足掻いても当時の美月だけではなく、今の美月にさえ何も出来はしないでしょう。


「…………ん?」


 美月が思いつめたような表情を浮かべると彼女は首を傾げます。


「知らない……のか?」

「え?」


 意外そうな声に美月は顔をあげます。

 するとクラリッサは驚いた表情を浮かべていましたが、すぐに首を横に振ると……。


「そいつが死んだ理由は悪魔の所為だ……」

「イービルの?」


 美月の言葉に首を振るクラリッサ。


「…………いや、司のだ……奴は綾乃を……」

「綾乃ちゃんを?」


 クラリッサが彼女を名前で呼ぶことは珍しい事です。

 首を傾げながら耳を傾けたのですが……。


「奴は綾乃を……病弱な娘の代わりに兄を研究対象にしていたのだ。そして、度重なる実験で弱り切っていたんだ。まぁそれを綾乃は知らないだろうがな」

「…………え?」


 美月は彼女が何を言っているのか理解できませんでした。

 何か隠していることがありそうな雰囲気だったのです。

 だからこそ、呆けた声を出し固まってしまったのですが……。


「聞いた話だ……だが、嘘ではない」

「そんな……」


 念を押し、嘘ではないというのは逆に怪しいとさえ思いました。

 ですが本当に娘を助ける為、息子に実験をしていた。

 それが事実だとしてもそうじゃなくても美月にショックを受けさせるには十分でした。

 信じていた人がそんな事をするとは……彼女はそう思いつつどうしたらいいのか分からなくなってしまったのです。


「それを綾乃ちゃんは?」

「知らないさ……自分の病気の事すら覚えてないだろうな」

「…………」


 唖然とする美月は横たわる少女を見つめます。


「そんな……」


 本当に彼女は病気だったというのでしょうか?

 美月にはどうしても彼女が嘘を言っているようにしか思えなかったのです。


「それじゃ――」

「……これ以上話すなら場所を変えるぞ」

「あ……はい」


 美月は頷き黙り込みます。

 綾乃が心配で今はすぐに離れる気がしなかったのです。

 ですが黙ったのはそれだけが理由じゃありません。

 自分が信じていた人……司に対する信頼が崩れていくような気もしました。


「戦うのをやめるか?」


 そう言われて美月は答えるまでもないという表情を浮かべます。

 彼女は彼の為に戦っている訳ではないからです。

 美月が戦う理由……。

 それは簡単な物でした。


「私は誰かを助けたいから戦うんです! それに綾乃ちゃんは無茶しちゃいますから」


 そう伝えると一瞬目を丸めたクラリッサはすぐに笑い始めました。

 失礼じゃないだろうか?

 美月がそう思っていると彼女は――。


「面白い! そいつも同じ事を口にしたよ。つい先日の事だけどな」

「……へ?」


 そう言って指を向けたのは綾乃の方。

 彼女は笑い続け、暫くすると微笑みながら部屋を去ろうとします。

 いつもは怖いと思っていた女性の態度に戸惑いつつ美月はそれを見送っていました。


「守る者がある者は強い、だが、同時にそれが弱点にもなる……お前達は守り切って見せろよ」


 その言葉は振り返らずに告げられました。

 その声は何処か寂しそうでした。


「例え救えても残された者の胸には取り返しのつかない傷がつくからな……覚えて置け」

「は、はい……」


 美月はそう答え、彼女はそのまま部屋を去って行きます。

 どういう事だったんだろう? 美月はそう考えつつ、綾乃の傍に腰を下ろすのでした。

 横を見ると静かに寝息を立てる少女が一人……。

 彼女を守りたい。 

 そう思うのは変わりません、これからも変わる事はないでしょう。

 ですが、もし自分が死んだら?

 彼女はどうなってしまうのでしょうか?

 逆に彼女が死んだら?

 自分はどうなってしまうのでしょうか?


 きっと、戦いどころじゃないよね……。


 美月はそう思い浮かべると綾乃の手を取り……。


 先程のクラリッサの言葉を心の中で繰り返すのでした。

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