79話 会いたい人が居る悪魔乗り
「及第点とはいかんな」
少し休んだだけ……ですが、昨日よりは確実に良くなってはいました。
ですが、やはりまだミスが目立ちます。
「失敗をしても焦るな、焦りは更なる失敗を生む」
「…………はい」
美月はどうしてもこの女性クラリッサが好きにはなれませんでした。
ですが、言っている事は分かります。
そして、嫌いだからとそれを突っぱねるほど彼女は子供ではありません。
それに頷き受け入れると彼女は少し微笑むのです。
きっと本来は心優しい女性なのではないか?
なんて言う淡い期待が最初はありましたが……。
「まぁ、無駄だと分かっていても繰り返せばいずれ出来る。改善できんのは愚かな猿だけだ」
何故この人はそうやって人の神経を逆なでするような事を言うのだろう?
美月は心底疑問に思いましたが……。
どうせ逆らっても言いくるめられちゃうし……。
諦めた様子でそれを聞いています。
「さ、今日の訓練はこれで終わりだ」
「あ、ありがとうございました……」
美月は礼をすると部屋の外へと向かいます。
この頃は訓練と日常生活、そして出撃と言う日々を過ごしている彼女は一つ気がかりがあったのです。
綾乃です。
綾乃に会っていないのです……。
新谷の様子は見に行こうとすればいつでも見に行けました。
しかし、綾乃には随分と会っていない気がしました。
「元気かな?」
彼女はすぐに無茶をするから心配です。
美月はそう思いつつ、綾乃の部屋へと自然と足が向いていました。
別に会ってはいけない訳ではありません。
ただ、美月の訓練から少し空いて綾乃の訓練が始まるのです。
だから会う機会がありませんでした。
会いたい。
そう思った少女だったがすぐに彼女の部屋へと向かっていた足を止めると自身の身体をすんすんと嗅いでみます。
ほのかに香るのは汗の臭いです。
身体を激しく動かしている訳ではありません。
だが、緊張はするし密閉空間に近い所では汗もかきます……。
空調は入っていでもどうしてもそれだけは避けれないのです。
ぅぅ……シャワー浴びたい、でも……浴びたら会えないし……。
そう悩むほど微妙な時間差でした。
まるで会わせないようにしているのでは? と疑いたくなるほどです……。
「でも……寂しいよ……」
美月はそう訴えるように口にするとがっくりと項垂れシャワーへと向かいます。
いくら寂しくても少し気が引けてしまったのです。
さっと入ってさっと出る。
入る前はそう思ってもどうしても長々とシャワーを浴びてしまう癖があった彼女は……。
「ぅぅー」
と唸りながら歩くのでした。
そして、彼女はシャワーを浴び終えると綾乃の元へと急ぎます。
会いたいという思いがあったからです。
ですが……チャイムを鳴らしても誰も出て来ません。
恐らくはもう出て行ってしまったのでしょう。
「そう、だよね……」
自分では早めに出てきたつもりでした。
だが、どうしても時間がかかってしまったのです。
また会えなかった……。
そんな寂しい思いが美月の胸を締め付けます。
最後に会えたのは何時でしょうか?
無茶はしてないでしょうか?
いろんなことが気になり始め、まるで恋人の事を考えているかのような気分になった美月はその顔を赤く染めました。
だから……私と綾乃ちゃんはそうじゃなくて!?
えっと、とにかく……そうじゃなくて!?
そして、あまりの恥ずかしさから扉の前でぶんぶんと手を振ったり、頭を左右に振ったりとする美月。
誰かが見ていれば不審者に見られてしまうでしょう。
いえ……。
「――美月?」
「ひゃい!?」
見られていました。
それも、一番見られてはいけない人物に……。
美月は今自分のしていた行動を思い出すとますます顔を赤め、油の切れた機械のように首を後ろへと向けます。
首が曲がるギリギリの所に綾乃が見え、ぱっと前へと顔を向けると……。
「な、何でもないです!?」
「いや、何で敬語?」
突然敬語を使い始めた友人に困惑したのでしょう。
綾乃は少し笑ったような声を出しました。
「と、ととととにかく何でもないんです!?」
「いや、絶対なんかあるよね? ていうかアタシに何か用?」
今度は嬉しそうな声を出す綾乃。
その声はずっと聴きたかった声です。
美月は恐る恐ると振り返ると其処にはいつも通りの綾乃の姿があり……。
あ、あれ? あれ?
美月は胸がどきどきとし始めていました。
やっぱり、私おかしいよ……女の子同士なのに……なんでこんな……。
そう思いつつ……恥ずかしくなった少女は顔を下へと向けるのでした。




