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77話 名付ける悪魔乗り

 美月は少女をこのまま部屋に送り届けようと考えました。

 ですがふとした疑問が浮かんだのです。

 それは別段変わった物ではありません。


「そういえば、名前なんて言うの?」

「……名前」


 うんうんと頷く美月。

 すると彼女は考え込み――。


「――?」


 首を傾げてしまいました。

 その様子はどこか変でもしかして言葉が通じていないのだろうか?

 そう思ってしまった美月は……。


「私の名前は夜空美月……貴女は?」


 自分を指差して名前を名乗った後、手のひらを返し尋ねる美月。


「よぞら、みつき」


 少女は何度かそう口にすると……自分を指差し……その行動に美月はすこし期待をしたのですが……。


「夜空美月」

「それは私の名前……」


 ふざけているの?

 そう思う事はありませんでした。

 何故なら彼女は本当に困っている様だったからです。

 仕方がないと美月は考え――。


「何て呼ばれてるの?」

「……あ!」


 ようやく意味が通じた様です。

 表情を明るくした少女は――。


「FLNC16」

「……え?」


 その答えに美月は呆けた声を出します。


「FLはお父さんからもらったNはお母さん、Cは私に割り当てられた機体……地下世界新暦16年生まれ」


 信じられませんでした。

 それが自分の名前だと言っているのです。

 地下の世界が本当にあるというのならば、そこは一体どうなっているのでしょう?

 美月は戸惑い……。


「それで良いの?」


 思わず聞いてしまいます。

 すると彼女は首を傾げ……。


「呼ばれる時に誰が誰か分かれば問題ない」


 それはそうだけど……と美月は声をこぼし……。

 でも、その名前はあんまりだと考えてしまいました。


「処分する時に感情的にならないで済む」

「処分?」


 また信じられない言葉が出てきた事に美月は驚きます。

 すると彼女は頷き……。


「ミュータントに寄生されたら処分をする。私達はそうやって徐々に強い個体だけを増やして来た」

「…………」


 彼女は淡々と口にし……美月は信じられない物を見るような瞳で彼女を見てしまいます。

 一体どれだけの犠牲を払ったのでしょう。


「……そう」


 ですが、もうかわいそうなんて言葉は使いませんでした。

 それが失礼だと思ったからです。

 その代わり考え始め……。


「なら、ね?」


 彼女に向かって微笑みます。


「ここではフローレンスって名乗るのはどうかな? 一応FLNCから考えたんだけど……」

「……フローレンス?」

「うん、此処だとその元の名前が機体かなにかだと思われちゃうから」


 そう言うと彼女は目を丸くし……。

 何度かフローレンスと言うのを繰り返します。


「フローレンス……」

「だめ、かな?」


 美月が恐る恐る聞くと彼女は首を横に振ります。

 どうやら駄目と言う訳ではないようです。


「不思議……」


 嫌と言う感じではありませんでした。

 彼女は心底不思議そうに美月を見つめ……。


「FLNC16は分かりやすいと思うのに」

「いや、だから私達には分かりにくいの……」


 地下の世界ではきっとそれが一番分かりやすい名前なのだと自分に言い聞かせつつ、美月は引きつった笑みを浮かべます。

 否定するのは簡単です。

 ですが、彼女は自分を名乗った時に嫌そうではありませんでした。

 だからこそ、美月は敢えてそう言ったのですが……。


「なら地上もそうすればわかりやすい」

「う、うーん? 私はその……今のままが良いかなぁ……」


 彼女の言葉に思わず美月はそう答えてしまいました。

 するとフローレンスと名付けられた少女は目を丸め。


「そうなの?」


 と以外そうに口にします。

 それに対し美月は何度も刻々と首を縦に振りました。

 

「そ、それでいいの?」

「良いの! 所でその名前で大丈夫?」


 美月は彼女の質問にそう答えると改めて問います。

 ダメと入ってませんでしたが、良いとも言っていなかったらです。

 すると地下の世界から来た彼女は首を傾げつつ……。


「呼びにくいならそう呼んでも良い」

「そう、良かった」


 美月は名前を受け入れてくれたことに感謝しつつ彼女の手を取ります。


「――!?」

「それじゃ一応部屋に戻ろう?」


 そして、彼女を部屋まで案内すべく歩き始めると……。


「不思議……」

「何が?」


 美月が彼女の言葉に返すと彼女は首を傾げつつ、再び美月に問いを投げかけます。


「さっきまで疑ってた、なのになんで手を繋いで案内するの?」

「ぅっ!? そ、それは……」


 確かにそうです。

 ですが、このまま放っておけば彼女は脱走とみなされてしまうでしょう。

 見つかっていな今のうちにどうしても部屋まで送り届けたかったのです。


「……綾乃ちゃんに似てる所があるから」


 だからこそ、美月はそう答え……。


「放って置いたら何するか分からないし……」


 と小声で口にするのでした。

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