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76話 邂逅する悪魔乗り

 カツカツカツと音を立て美月は自室へと戻ろうとしていました。

 そんな時です彼女が足を止めたのは……。


「嘘……」


 前に居るのは物珍しそうに施設の中をキョロキョロとしながら歩く少女。

 彼女には見覚えがあります。

 イービルに組み込む回路……その情報を持ってきてくれた少女です。


「確か軟禁状態じゃ」


 ですが、彼女が怪しい事には変わりがなく……。

 美月がつぶやいたように彼女は軟禁状態のはずです。

 だというのに彼女は目の前を歩いていたのです。

 どういう事だろう?

 美月は驚きつつも放っておくわけにもいかないと彼女へと近づきます。

 すると彼女は美月に気が付き……。


「……人、いた」


 小さな声でそう言うと少し微笑みました。

 はかなげなその笑顔は事情を知らなければきっと警戒などしないでしょう。

 ですが、美月はごくりと喉を鳴らし警戒をします。

 結局彼女が何なのか……まだ分かっていないからです。

 本当に地下に棲む地球人なのか……。

 それとも何かをたくらむ天使なのか……。

 それすらも分からないのです。


「あの……あの男の子は?」


 ですが、向こうはそうは思っていないのでしょう。

 安心した顔で美月へと近づいてくるとそう尋ねてきました。


「あの男の子?」


 どうやら探し人が居たのを理解した美月は誰の事だろうと一瞬考えますが、すぐに一緒に居た少年の事だと理解します。


「帰されましたよ」


 そして、彼女が事実を告げると少女は首を傾げました。


「帰された? ここの方が安全」


 それはそうでしょう。

 今の日本、いや世界ではシェルターさえ安全かどうかわかりません。

 一番安全だというのなら今ここにある施設でしょう。

 何故ならここには武器があります。

 イービルも配備されており、戦う事が出来るからです。

 ですが、此処に一般人が入ることは普通は出来ません。

 何故なら戦術基地であり用途は主に天使との戦いのためだからです。


 その為、兵士たちの英気を養う食事などの質を下げる事は出来ず。

 人を入れればその分他の質も下がっていくのです。


「守るのが仕事でしょ?」

「それはそうだけど……」


 美月も分かってはいました。

 そして、同時に此処を解放し住民を受け入れた方が確実だとも……。

 ですが、美月には美月の答えがあったのです。


「ここ最近、支部が直接狙われた事もあるし、此処じゃ逃げ道も無いよ? 絶対に安全とは限らない」


 美月はそう言うと壁へと手を当てます。

 ここには大事な母も居る……だから守り切って見せるという強い意志はあります。

 同時に戦うのはやはり怖いです。

 そして、負けてしまえばどうなるかも分かっています。


「……そう」


 美月の言葉を受け彼女は少し寂しそうな表情を浮かべました。

 それを見て美月は首を傾げます。


「どうしたの?」

「お礼、言ってない……彼は助けてくれた」


 その言葉に美月は驚きます。

 彼が助けたとはどういう事でしょうか?

 いや、初めて会った時の事を思い出せばそうである事は間違いないでしょう。

 ですが、彼女がもし敵であるならそれを気にする必要は無いはずです。


「……なんであの情報を?」


 美月は彼女に尋ねます。

 すると彼女はその顔に憎悪を浮かべ……。


「お父さんの仇を取る為……私達は魔法使いにはなれない……貴方達よりも身体も弱い悪魔にも乗れない」


 そう言うとギリリと歯を食いしばり……。


「それでも地上の人に希望を託すためにお父さんは天使を倒した……何人も死んだ……でも、それのお蔭で地上の人は悪魔を手に入れた」

「…………」


 そこまで言うと彼女は白い肌が更に白くなるまで握っていた手をほどき美月の手を掴む。

 突然の事に驚く美月だったが、彼女から目が離せずにいると……。


「だから、お願い……悔しいけど……私にはこれ以上何も出来ない……奴らを、あいつらを殺して……」

「………………」


 純粋な憎悪。

 言葉はおかしいと思いました。

 ですが、同時にそれしか思い浮かばないのです。

 一歩間違えれば彼女は死につながる行動をしでかすでしょう。

 それさえも分かるほどに純粋な憎悪がそこにあったのです。


『アタシは……その、分かるかも……』


 以前、綾乃が口にした言葉。

 それが頭に浮かび……彼女は綾乃と同じ想いを持っているのだと気が付いた美月は握られた手を握り返し……。


「分かった……出来る限りは頑張るよ……でも、貴女は此処を下手にうろついたら駄目、怪しまれたらどうするの?」

「……私に何があっても良い、あいつらが居なくなるなら」


 脆く壊れやすい……そんな危うい考えを持つ少女を見つめ、美月は困り果ててしまうのでした。

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