75話 お見舞いに行く悪魔乗り
休むことを許可された美月は一人、施設の中を歩きます。
綾乃やリンに会おうと思いましたが、それは出来ません。
何故なら訓練は時間をずらしてるからです。
あれ? それじゃ……クラリッサさんっていつ休んでるんだろう?
この頃訓練は毎日のようにあります。
ですが、教官はクラリッサ以外には居ません。
疑問を思い浮かべつつ、首をひねりながら彼女が辿り着いた先は……。
なんて事は無い自分の部屋でした。
このまま部屋に戻ってのんびりと過ごす。
無意識にそう考えていたのかな?
そう思いながら手をかけた扉を開くことなく、美月はふと思いつきます。
「……お見舞い、行ってみよう」
そう言えばまだ新谷の所に行っていない。
それを思い出し美月は医務室へと向かう事にしました。
今まで怖くって行けなかったのです。
ですが、今はちゃんと彼の容体について知るべきだ。
そう考えての結果です。
体を休めるのはその後でも良い。
美月はそう思い歩き始めます。
幸い医務室は居住区からは遠くありません。
すぐに着く事が出来、美月はその中から新谷の部屋を探し扉を開きます。
「…………」
小声でお邪魔しますと口にし入ると……。
そこには一人の女性が佇んでいました。
遠坂恵です。
彼女は眠っている新谷の傍で座り込みじっと彼を見ていたのです。
そんな彼女は美月が入って来た事に気が付くとにっこりと悲し気に微笑みました。
その表情に美月はずきりと胸が痛みます。
治して見せる。
そう思っていたのは数日前。
ですが、新谷には彼女の魔法は通じませんでした。
最早、治す事が出来ないのです。
それは遠坂恵も知ってしまったのでしょう。
「今は薬が効いて眠ってるけど、静かにしてね」
一体いつからそこに居たのでしょう。
目の下にはクマが残っており、化粧でごまかそうとしたのが分かりました。
「あの……ごめんなさい」
美月は彼女に対して謝ります。
ですが、彼女は首を横に振りました。
「美月ちゃんが謝る必要はないよ? それに、私も知らないでお願いしてしまったし」
それは魔法を使う事が美月の命に直結する事を言っているのでしょう。
ですが、その言葉に対し美月は首を横に振りました。
確かに頼まれました。
ですが、美月さえもそれを知らなかったのです。
それどころか……。
「遠坂さんには助けられましたから……命の恩人です」
そう、彼女が血を提供してくれたからこそ、今ここに美月は居るのです。
彼女が居なかったら死んでいたかもしれません。
仮に生きていたとしても薬が出来ているかも分かりません。
だから彼女のお蔭だ。
そう美月は思っているのです。
しかし、彼女は違うようで悲しそうな、寂しそうな笑みを浮かべると……。
「優しいね」
とだけ呟き再び新谷の方へと顔を向けました。
そこには機器に繋がれた彼の姿があります。
目を覚ますような素振りも無く、規則正しく呼吸を繰り返していました。
部屋に流れるのは彼の心音を示す音。
それが美月と恵の間にある静寂の中で流れます。
「……新谷さんは?」
美月が恐る恐る尋ねると恵は笑みを浮かべました。
ですが、それには疲れが色濃く出ています。
「今は安定してるよ。起きてる時もあるけど発作が起きるとこうしないとね? 実はさっき起きたばっかりでね……でも、今は大丈夫」
「そう、ですか……」
疲れている様子の彼女を見つつ美月は新谷へ目を向けます。
するとある物に気が付きました。
「あれ? 新谷さんアクセサリーなんて付けてたんだ」
「うん、昔友達にもらった物なんだって」
恵はそう言うと「触ったら駄目だよ」と注意をしてきましたが、当然美月は触ろうとは思いませんでした。
ただ、それはオレンジ色に輝く宝石で綺麗だなと思っただけです。
「その、私帰りますね」
ですが、すぐに自分にできる事はない。
そう理解した少女はその場から去る事を告げると恵は慌てて頭を下げようとし、少し戸惑う。
どうしたのだろう?
美月が考えていると――。
「あまり無茶はしたら駄目だよ? その……分けてあげられる血も限度があるからね?」
「……はい、分かってます。無理はしないようにします……ただ今は薬もありますよ」
美月がそう口にすると恵は呆れたような素振りを見せ「それでも」と念を押してきました。
そんな彼女に対し美月はすこし嬉しく思います。
自分を心配してくれる人がいてくれるのが嬉しいかったのです。
いや、此処にはそう言った人達が沢山いる。
その人達の為に頑張ろう……美月はそう考え、頷くと……。
「今日はお休みをいただいたんでこの後ちゃんと休みますよ」
と彼女に告げるのでした。




