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74話 休息を告げられた悪魔乗り

 コピスへのマナタンク取り付けは急ピッチで行われていきます。

 美月達はその話を聞きつつも邪魔になるので見に行く事はありません。

 度重なる天使の襲撃。

 そして、いつまたあの天使が襲ってくるかも分からない状況で彼女達に休む暇などは無かったのです。


「遅い! 何をやっている!!」


 シミュレーターから出てくると飛んでくる怒号に美月は身を縮こませます。

 あの襲撃以来続いている訓練です。

 教官ともいえる人間はクラリッサ……。

 彼女の言い分では今のままでは負け戦だという事で美月達には強化が必要だとの話でした。

 ですが……。


「あの……もう、かなり長時間乗ってます……」

 

 一日の暇な時はシミュレーター。

 食事、シャワーそして、睡眠以外は……です。

 それでも最初は美月達自身もやる気がありました。

 一つはこのままでは本当にあの新型に殺されるだけと言うのが分かっていた事。

 もう一つは新谷を戦場に駆り立てない為に……。

 ですが、それも根詰めてやってしまえば疲労へと早変わりです。

 流石に美月たちの身体は休ませろと訴えて来ており……。


「……なら休め」

「ですから! 話を聞いてください」


 美月は彼女の言葉に反論をします。


「なんだ、休みたくはないのか?」

「……え?」


 彼女の言葉に美月は呆けた声を出します。

 たった今自分が何を言ったのか分からないのです。


「私は休めと言った、だが、貴様は話を聞けという……休みたいのか? 休みたくないのか?」

「あ、え?」


 そう言われて美月は初めてクラリッサが休むように言ったのだと気が付いたのです。

 ですが、頭はしっかりと付いて来ず……。


「今の貴様のシミュレーターは酷かったな? ミスに継ぐミス……それも簡単なものだ」

「…………」


 その言葉に噛みつこうとした美月ですが、彼女の顔を見て黙り込みます。

 怒ってはいます、ですが真剣な表情だったのです。


「それも先ほどのはビルに突っ込んだな? 何故そんなミスをすると思う?」

「わ、分かりません……」


 美月が正直に答えるとクラリッサは溜息をつきました。

 そして、彼女を睨むと……。


「疲労だ……」

「疲労?」


 意外な言葉が告げられました。


「疲労の所為で正常な判断が出来ん、マニュアル通りにすらな? だからこそ、貴様は本来330フィートで飛ばなければならない所でも高度を下げビルにぶつかった……それが今回の失敗の原因だ。そして、実際の事故でも疲労が原因でこうした些細なミスを犯し事故を起こすことがある」

「…………」


 確かに美月達は空を飛びます。

 ですから航空機のマニュアルにも目を通しているはずです。

 街中で戦う理由があるイービルですが、それでも空を飛ぶ時には気を付けなければならない高度などもあるのです。

 それを守れなかったからビルにぶつかり、隙が生まれ撃墜されたのです。

 彼女の言っている事は合っていました……。


「で、でも! 私達が――」


 強くならなければ司は新谷を出撃させるでしょう。 

 それはクラリッサも分かっている事です。

 だから訴えればまだ訓練させてもらえる。

 そう考えたのですが……。


「甘えるな!! 戦いとは昨日今日の訓練でどうにかなる物ではない! ましてや疲労している兵を連れて行くのは隊全体の生存に関わる可能性もある! 小娘! 貴様は仲間も巻き込むつもりなのか!!」

「――っ!?」


 突然浴びせられた怒号に美月はびくりと身体を震わせます。


「どうなんだ!! 答えられないのか!!」


 質問を投げかけられているはずなのになぜか彼女は疑問をぶつけている様には聞こえませんでした。

 ですが美月も黙ってはいられません。

 人一人の命がかかっているのです。


「わ、私が疲れてても魔法で皆の傷を――」

「そうか! なら、貴様は何でも治せるのか! 死者さえも生き返らせることが出来るのか!! 言ってみろ!!」


 再び怒鳴られると美月は黙ってしまいました。

 答えが分かっていたからです。

 出来る訳が無い……美月の回復魔法は生きている者のみに有効です。

 その上、少なくとも日本においては彼女の右に出る回復魔法の使い手は居ないでしょう。

 いえ、恐らくは世界全体でも、です。

 つまり、魔法では死を覆す事は出来ないのです。

 その上、回復魔法とは言っても治せるのは傷だけです。

 血液を作る事は出来ませんし、病気を治す事も出来ません。


「どうした!! 言えないのか!!」

「……それは、出来ません……死は絶対ですから……私達に何も出来る事はありません……」


 美月がそう言うとクラリッサは腕を組んだまま美月を睨みます。

 その視線が鋭く思わず目をそらしてしまう美月。


「目を逸らすな!! もう一度聞く……貴様の所為で他の仲間が死の危機に瀕した時、貴様は何かできるというのか!!」

「…………できま、せん」


 美月は観念しそう口にします。

 事実、何も出来ないからです……魔法には制限があります。

 美月の魔法であれば状況を覆す事は出来るでしょう……ですが仲間が無事とは限りません。


「なら、そうならないように休め、今回はこうしたミスを実際に体験してもらうためにあえて訓練をしたが、次からは万全の状態で訓練をする」

「でも、万全な状態で戦えるとは限らないじゃないですか!」


 それは誰もが分かっている事です。 

 クラリッサもそれは分かっているのでしょう、頷きました。


「そうだ、だからこそ普段の訓練では万全な状態が望ましい、身体に動きを染み込ませる。疲労の所為で危険には変わりはないがそれでも身体に染み込んだ動きと言うのは生死に繋がるからな」

「さっきと言ってることが違います」


 美月が訴えるようにそう言うとクラリッサは怖い表情を崩します。

 納得いかない美月だったが、彼女の意外な表情を見て驚くと……。


「時に矛盾も必要だ」

「…………」


 そんな事を言うクラリッサ。

 美月はただただ彼女を見つめ、何故かおかしくなりくすりと笑みを浮かべるのでした。


「笑っている暇があるなら休め、良いな? 私は一応お前らの共管と言う事になる命令する義務がある」

「……分かりました」


 最後の言葉にはやはりむかっとはきましたが、休息を許してもらえたことに少し安堵をするのでした。

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