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72話 死神と悪魔乗り

「でも現状は難しいんじゃねぇか? 新たに回路を組み込むにも……」

「ああ、分かっているだから特化型に着けるのは最後だ。現状は量産につける」


 量産……つまりコピスの事を指すのでしょう。

 それは分かりましたが、美月はそれを聞き思わず立ちあがります。


「し、新谷さんはもう戦えません!!」


 それを操るパイロットである新谷。

 彼の身体はボロボロです。

 戦闘にこれ以上耐える事は恐らく……いえ、確実に無理でしょう。


 それはその場にいる誰もが分かっている事でした。

 ですが、同時に彼が貴重なイービルのパイロットである事も分かっています。


「……だからこそだ」


 司はそう言うとパネルへと手を向けます。

 そこにはイービルの設計図と回路の設計図。

 彼はそれを示したのです。


「もし、こいつを組み込めればマナタンクも使える。そうなればパイロットへの衝撃を軽減できる装置を作れる……そうだね、クラリッサ」

「……ああ、だが死神……それで悪魔が無事で済むとは限らないんじゃないか?」


 呆れた様にそういうクラリッサの態度に美月は思わずムカッと来てしまった。

 普段そう言った感情とは縁遠いはずです。

 それでも彼女の発言にはいつも、何時も嫌な気分にさせられていたのです。


「あの……!」


 そんな言い方は無いんじゃないですか?

 そう告げようとしたところ彼女は――。


「ああ、そうだそうだ、貴様は死神だったな? 部下や仲間が死のうが関係ないか」

「ちょっと!! お父さんに何か文句あるの!?」


 皮肉と言うよりも憎悪を籠めた言葉に反応したのは綾乃でした。

 美月は彼女の雰囲気に気圧されてしまい、何も言えなくなってしまったのです。

 クラリッサは綾乃を見つめ、ため息をつきます。


「……犬には好かれているようだな。だが……貴様は死神だ……子供まで戦場に駆り立ててるのだからな」

「…………あんったねぇ……」


 拳を震わせる綾乃に対し冷静になった美月ははっとし思わず綾乃を抱きかかえるようにしました。

 このままでは殴りかねない。

 何故かそう思ってしまったのです。


「美月! 放して、そいつ殴れない!!」

「だ、駄目だよ、確かに許せないけど殴るのは駄目!」


 必死になだめる彼女達をどこか悲し気な瞳で見たクラリッサはゆっくりと司へと視線を戻す。


「そして、その装置を取り付け悪魔に戦わせる。貴様はそう言いたいのだろう? この施設調べさせてもらったが……」


 すぅっと息を吸い、ゆっくりと彼女は語ります。


「夜空美月が現れるまでに失った悪魔乗りは多数。奴だけは生き残ったようだが……奴の身体の状況を知っておいてなお、使うのは正気だとは思えんな」


 それは美月達も息をのむ言葉でした。

 確かに出撃と言えば美月達魔法使いか、綾乃。

 そして新谷だけです。

 今まで他の悪魔乗り達に出会った事はありません。


「あの……日本には他に悪魔乗りはいないのですか?」


 そう聞いたのはリーゼです。

 彼女の質問に司は声を発する事はありませんでした。

 ですが……首を縦に振ったのです。


「居なかった、いや……居たといった方がいいか」


 その言葉は何処か引っかかる物でした。

 美月は戸惑い、彼の顔を見ます。

 すると、その疑問に答えてくれたのは彼ではなく……クラリッサでした。


「悪魔……奴の戦闘を見たことがあるのは駄犬だけか……普通の悪魔乗りならあれを見て恐れをなす。本物の悪魔だってな……」

「そ、それは……確かに、そんな感じしたけど……」


 綾乃は嘗て一回だけ見たその戦いぶりを思い出します。

 確かに言われた通り悪魔のそのものと言って良いでしょう。

 ですが……。


「でも、あんな力があるなら――!!」


 いつも使えば良い。

 それに強い人が居れば生き残る確率も多くなるだろう……。






 そう思っていました。


「よく考えてみろ、戦場でああやって他の者を無視した戦いを続けられたらとな……」

「……え?」


 ため息をつくクラリッサに対し綾乃は呆けた声を出します。

 どう言った事なのか? それが分からない美月達はじっと彼女達の会話を聞いていました。


「駄犬は動けなかったから問題はない、だが奴の目標はあくまで堕天使共だ。仲間が戦っていようがいまいが関係ない」


 そこまで聞き、美月ははっと気が付きました。

 もし、綾乃が考え方を改めなかったら?

 きっと彼女は一人突っ走り、仲間を無視した戦いをするでしょう。

 そうなったら銃による遠距離は勿論、近距離戦闘も戦いづらくなるのです。

 いえ、それだけではありません、彼の攻撃すらも気にしなければ巻き込まれる可能性だってあるかもしれません。

 そう、恐れたとはその戦いぶりだけではないのだと美月は気が付きました。


「逆に危なくなるから居ない?」

「ああ、そして悪魔の戦いに巻き込まれて死んだ者も居る。恐らく奴はその人数を覚えていないだろうがな……」


 そう言うと彼女は司の方へと目を向けました。


「改心しているように見える……だが……あれはただ単に身体が追い付かなくなっただけだ。無理をすれば死ぬ……だが奴は死ぬわけにはいかない」

「………………」


 クラリッサの言葉を黙って聞く司はその表情を変えません。


「なぜなら、まだ仇は討っていないからだ……そうだろ?」


 ですが彼女は司にそう質問をするのでした。

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