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70話 憎しみで動く悪魔乗り

「どう思う? 綾乃ちゃん」


 美月は綾乃へとそう尋ねました。

 何をとは聞くまでもありません……先程の話です。

 すると綾乃は困った様な笑みを浮かべます。


「アタシは……その」


 いつもより歯切れの悪い声が聞こえました。


「どうしたの? なんか、いつもと違う」


 リンチュンは心配そうに綾乃の顔を覗き込み。

 同じようにリーゼも彼女の顔を見ていました。


「何か悪いものでも食べましたか?」

「何で食べ物の話になるの?」


 呆れ気味だった綾乃は少し迷ったそぶりを見せます。

 ですが、美月の顔を見ると溜息をつき……。


「アタシは……その、分かるかも……」

「分る?」


 紡がれた言葉を繰り返す美月。

 一体なにが分かるというのでしょうか?

 いや、美月にはなんとなくその答えが分かっていました。

 何故なら……。


「お兄ちゃんの仇……そう思うだけで天使が憎くなる。この前だって美月をあんな目に合わせた奴らだって思うだけで壊したくなった」


 彼女はそう言うと瞳に黒いものを宿します。

 それは目に見える物ではありません。

 ですが、確かにそう見えるのです。


「だからあの子の気持ちが分かる……少なくとも天使達を殺してほしいって言葉が嘘じゃないって分る」

「そう、なんだ……」


 いつもの彼女からは決して聞けないだろうその言葉に美月は戸惑いを覚えます。

 ですが、それでも美月は黙って聞きました。

 何故ならもし、もし自分が同じ立場だったらどう考えるだろう? そう思ったからです。

 大事なたった一人の家族。

 母を天使に殺されたら……。

 そして、天使を倒す力が自分にあると気づいたら。


「…………」


 そう思うかもしれない。

 美月はそんな答えを出しました。

 ですが、事はそんなに甘くはなかったのです。


「アタシは天使を壊すためにイービルに乗った。乗るための訓練をした……小さい頃からずっと、ずっと……」

「……え?」

「イービルが出来て、乗る人間が限られてて、それでもアタシは乗る事にした……何度も何度も気を失って何度も何度も吐いて、それでも天使を壊すために」


 彼女は恨みと言う力だけでイービルへと執着をしたと言うのです。

 それは美月にとって予想外の言葉でした。

 それを綾乃は語ります。


「だから、天使が憎い、許せない……あの子の言う事が分かる」

「綾乃ちゃん……?」


 美月達は彼女の言葉をじっと聞きながら不安を覚えます。

 ですが、綾乃は素っと表情を変えると……。


「でも、今はそれよりも大切な約束があるから」


 と口にしながらいつもの笑みへと戻ります。


「や、約束?」


 綾乃を変えた約束。

 それを取り付けた人に対し美月はすこし焼餅を焼きました。

 自分でさえ……そう思いながら。


「それってどんな?」


 彼女に尋ねます。

 すると彼女はころころと笑い。


「美月に死ぬなって言われてるでしょ? もう、忘れたの?」

「……え?」


 それはもう安心していた事です。

 彼女は決して無茶をしない。

 そう思っていたからこそ自分の言葉が約束だとは思わなかったのです。

 ですが、事実は事実……いえ、寧ろ嬉しい事実です。

 美月は頬をほころばせると――。


「忘れないよ、忘れるわけがない」


 と笑うのでした。






 司令官の部屋、たった一人取り残された少年は生唾を飲みます。

 目の前には険しい顔の男性が一人。

 先程少女達に見せていた優し気な顔は一切ありませんでした。


「あ、あの……」

「さて、君が何故ここに残されたか分かるかい?」


 笑みを浮かべる。

 だが、少年にはそれが決して笑っているという事ではないことが理解出来ました。


「は、はい……」

「分っているなら何故、指定区域に民間人である君が残っていた? そもそも何をしようとしていたんだい?」


 言えない。

 それは心の中で思った事でした。

 ですが、それを言わなければ何を言われるかも分からないこの状況で少年は正直に事の顛末を話します。

 すると大きなため息をついた司は……。


「確かに君ぐらいの年の子がああいったロボに興味があるのは分かる。けどね、遊びじゃないんだ」

「はい……申し訳ございません」


 頭を深く下げた少年に今度は優しい笑みを浮かべた司。


「分かったらなら良い、今日は此処で休みなさい。明日護衛を付けて家へと送ってあげよう」

「あ、ありがとうございます」


 正直に言えばイービルに乗りたい!

 そう口にしたかったのです。

 だが彼は乗れるとは限りません。

 何人も挑戦して何人も死んだ機械。

 それに乗る勇気はなかったのです……。

 だから彼は司の呼んだスタッフに連れられゲストルームへと向かうのでした。

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